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情報の経営学

今回の経営学の理論は、「情報の経済」具体的には複雑な市場取引とそれを内部化した効率化した組織内取引のいずれを選ぶのかの取引費用理論です。定常的に行われる取引をいかに効率化するか、逆に内部化することによる余剰の発生が解決すべき問題です。

資源の稀少によるホールドアップ市場取引費用。独占取引する為に内部化するか、ロツクオンされないよう市場で他に選択肢を探すかの問題も有ります。

情報の非対称性によりモラルハザードが発生する可能性について述べたエージェンシー組織なんかも情報の経済の一部です。

なお、現在のメインストリームであるゲーム理論は次回検討します。

情報·無形資産

少し前から経営学ではヒトモノカネ軸から情報を入れて判断して行くのが流行りです。知財もひとつの情報であり無形資産です。

経産省の伊藤レポート2.0によると、アメリカのS&P500企業10年ごとの無形資産の割合は、

75年に17%

85年に32%

95年に68%

05年に87%

と施設や設備などの有形資産の市場価値に占める比率は年を超えるにつれて激減しています。

出典:Ocean Tomo, LLC

「図表3 は、米国S&P500(米国に上場する主要500 銘柄の株価指数)の市場価値の中で、有形資産が占める割合が年々少なくなっていることを示している。図表 3:S&P500 の市場価値に占める無形資産の割合」

つまり、現代は無形資産重視、そして情報の経済と言えるとしています。買収した企業にのれんとして表現することは有れど、基本表に現れない資産です。

知財担当者は特許権を使ってデューディリジェンスすることが有ります。時間が無いので、市場取引の価格で掛け算というざっくりした無形資産の計算も有りますが、後でも述べる通り測定は難しいです。

古い時代のコングロマリットの情報

 インターネットなどICTが発達するまで、連絡手段が未成熟だったので、組織に内部化をすることで取引コストを削減することが、そのような組織を作る資金を持つ大企業の強みでした。

取引費用理論の一つの例としてコングロマリットが持て囃されたことがあります。今となっては信じられないですが、RJRナビスコ※はクッキー・ビスケット部門,キャンデー・ガム部門,他の食品に加えて、今では毒物扱いされている煙草も事業として行っていました。真逆の存在にも思えますが、甘味も糖尿病になること・麻薬にも似た継続性を考えると、意外と近いかもしれません。

※イノルズ・インダストリーズ が世界的な食品会社ナビスコを1985年に買収したコングロマリットで、日本たばこ産業がミレニアムにその海外たばこ部門を買収したことで日本では有名になりました。

多角化していくと人事や経理はやっていることは基本同じ内容なので、余ったリソースを有効活用しましょうという流れで取り込んでいました。また、事業間のシナジーとして川上と川下までサプライチェーンマネジメントを一社で全て行えるようになりました。

また、.comブームの時など、名前に.comが付いていると時価総額が倍々ゲームになるので猫も杓子もICTに突っ込んでいました。商標的な雰囲気ラベリングですね。

残念ながらICTが発達するとこれまでから一歩進んでシナジーというよりは、早い経営判断のために分社化がポイントになってきます。

分社化の情報

定点観測の日立製作所、シーメンス、フィリップス、GEの4社比較を進めてみます。

いずれの企業も社長任期が長く、ダイナミックな意思決定、つまり昔流行った選択と集中を行っています。ボートフォリオは株式市場で投資家が選ぶから、単事業を効率的に行えということで一言で言える会社概要に変化しています。

シーメンスのISOのような標準化シグナリングは、インダストリー4.0で規格化する欧州企業ならではですね。

なお一時持て囃されたGEは最近あまりパッとしないようでDow平均の銘柄から遂に落ちました。

さて、いずれの会社もコングロマリット全盛時に多角化を進めましたが、2000年以降には逆にスリム化を図っており、これも情報と言う切り口からするとシナジーが得られないと言う判断だったんだと思います。

既出ですが、3社の事業の色分けです。赤っぽいほど今でも注力しているとみてください。

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シーメンスのトップが日立を称して

「日立はグローバルなブランドで尊敬している。シーメンスに非常に似ている。今回、ABBから送配電事業を買収したが、彼らが強いのは高圧製品分野だ。しかも、両社は21年ころまでに提携を機能させていくようだが、それまでの2年は大きな機会だ」

と、似ていると言っているので、古くから続く電器メーカーとして比較するには妥当だと思います。ので概要を言うと、

フィリップス(オランダ)は始まりの照明事業を切り離し、医療機器にシフトしています。テレビや半導体など数多くの世界1を合弁会社やIPOでスピンアウトし、今では完全なヘルスケア企業です。

シーメンス(ドイツ)も半導体や家電部門を切り離し、インダストリー4.0にシフトしています。

日立製作所は、日系企業からすると早めに半導体やテレビから撤退し、B2Bビジネスにシフトしています。

GEはNo1,2に集中するジャック・ウエルチCEOが持て囃された時代に金融がNo1,2出ないけど大儲けできるので維持したことが、現在の低迷に繋がっていると言われています。ジャンボ機のタービンなど保守を含めた一気通貫のシステム提供にシフトしています。

選択と集中の売却の例をあげます。

シーメンスのポートフォリオのスリム化

基本、外部に売却していますが、内部情報を持つ合弁会社に譲り渡すことが多いようにも見えます。

2000年インフィニオンテクノロジーズ(半導体)上場

07年シーメンスVDO(自動車用IT)独コンチネンタルに売却

08年シーメンス・ホーム&オフィス・コミュニケーション・デバイシズ(電話機)を独投資ファンドに売却

09年富士通シーメンス・コンピューターズ(IT)を富士通に合弁の全株売却

13年シーメンス・ウオーター・テクノロジーズ(水処理)を米投資ファンドに売却

13年ノキア・シーメンス・ネットワークス(通信機器) ノキア(フィンランド)に合弁の全株売却

14年ボッシュ・シーメンス・ハウスゲレーテ(家電)ボッシュ・シーメンス・ハウスゲレーテ(家電)をボッシュ(独)に合弁の全株売却

15年シーメンスVAI(製鉄機械)三菱日立製鉄機械と統合し、プライメタルズテクノロジーズに(三菱日立製鉄機械が51%出資)

なお、シーメンスの今の事業を見たときにちょっともったいないと思われる、関連事業も売却しています。

11年SIS(ITサービス)をアトス(仏)に売却

14年シーメンス・クランケンハウス・インフォメーションシステム(病院向けIT)を米医療情報システムのセルナーに売却

シーメンス・オーディオロジー・ソリューションズ(補聴器)をスウェーデンの投資会社などに売却

17年上場したシーメンス・ヘルシニアーズ(医療機器)の関連事業や、インダストリー4.0に関わる事業も売却しています。

売却巧者のフィリップス

フィリップスは事業売却に際して、他の電機メーカーに比べ上手く回しています。半導体や白物家電など提携して合同会社を作ってみたり、それを売却したりしています。

余りに大きく購入希望が無さそうなら照明などの事業をIPO しています。市場の力を借りて、投資を回収し、シナジーがないと外部化します。この時のNo1の事業と言うネームバリューで市場へのシグナリングを行い、有利な情報を提供することで稼いでいます。

そもそもフィリップスは、カーボン・フィラメントの電球からタングステンに材質を変え、半導体チップ技術を融合したLED照明に。家電も行っているので無線通信など通信技術も融合していましたが、IPOにより外部化しています。

考え方の違いでIoT のキーポイントだと言う識者も見たので数年後に判断力が分かります。

半導体事業も今でも世界的な企業であるNXP を投資ファンドを活用することで、撤退発表から約4 年で終了しているので凄いです。

ホールドアップ市場取引費用

現在世界最大のファウンドリであるTSMC に対し、フィリップスが微細化製造技術を供与したのが1987 年であり、その後、出資しています。

これまで半導体設備投資など内部化していた技術を市場取引に変えるためファウンドリという業態の誕生と育成を促してきたのもこの流れの1つ。

知財的にも次に見るように05年には急減速していたけど、これは兆しとして分からないでしょうね!

2006年9月29日に20%弱の株式を保有したうえでKohlberg Kravis Robert & Co. (KKR)へ売却しNXP Semiconductorsとなる

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エージェント理論からみたテレビ事業

2005 年、フィリップスは薄型テレビ販売台数で世界のシェアでトップに立ったが、ここでもう撤退戦を始めます。まさにトップだから肌感覚で分かるアジアの追い上げを脅威の情報として受け止めたんでしょうね。

2008 年には実際に最大市場北米からの撤退を開始するなどしています。ここでも工場の持ち主や、ライセンス生産した合弁会社の現地法人、現地販売をしていた企業が売却先です。実際に事業を一緒に行う中で情報を共有しています。

2012年にTPVテクノロジーと合弁会社を作り、テレビ事業の持ち株を売却することでスリム化した。

フィリップスのブランドライセンスを貸与したり、工場ごと売却して事業の継続性を優先したり、合弁会社というのが1つのキーワードかもしれません。

知財権では理解出来ないノウハウなどの暗黙知や、内部情報は合弁会社を組まないと分からないのでしょうね。

日本政府も多国籍企業との合弁事業を促進しています。

日本の合弁会社

欧米企業との合弁会社と言えば、横河ヒューレット・パッカード株式会社、現在の日本ヒューレット・パッカード、アジレントテクノロジーが入社試験を受けたので、強い思いが有ります。

ということは置いておいて、日本の大企業もそのノウハウがない初期の頃は合弁会社を持ちます。今回の三社も現在はPanasonicですが松下通信工業がフィリップス電機との提携により設立したりしています。

シーメンスは日本との関係が多くて、富士電機製造は古河電気工業とシーメンスの合弁により設立され、富士通、ファナックと続く系譜です。

他にも旭化成とシーメンス・ジャパン も有ります。ライセンス契約や投資により技術の移転に寛容だったようです。

GEもWikipediaによると、GE世界最高のインフラストラクチャー企業とあり、

1930年 - 芝浦製作所がGEタービン関連発明を日本で出願するようになる[13]。以降、GEの主導により東京電気・芝浦製作所2社間の特許割当・移管が進む。
1939年 - 東京電気無線(1945年に東京芝浦電気株式会社となる。以下、東芝)誕生。

とあり、GEは東芝と縁が有ります。

GEが競合のRCA と仲の良いフィリップスに投資していたこともあり、競合という関係図以外に提携など複雑です。

今回受ける側の日立製作所も原子力の日立GEニュークリア・エナジー が有ります。

中国の合弁会社を色々言いますが昔は日本もそうだったということで、鉄道事業で川崎重工業を情報流出で前回否定しましたが、似たり寄ったりの経験を欧米企業も受けていそうです。

知財による合弁会社の解析

知財を基に出願人の名寄せを通して、共同開発の状況を解析することが多いです。開発開始時期の特定や、キーパーソンの人間関係を発明者から現します。


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