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日本初のオンデマンド印刷による動物履歴書販売の裏側

ブログを見てくださっている皆様。フォローやスキを頂き、とても励みになっております。そしていつも変わらぬ応援をありがとうございます。今日は動物園水族館ではおそらく日本初(というよりもどこもそんなことはやらない・・・でもとってもいい取り組みだと思っている)のオンデマンド印刷を使った本の販売「動物履歴書」についてお話しようと思います。最後までお付き合いくださいませ。

まずは動物履歴書の前に、盛岡市動物公園ZOOMOのお話をしないと伝わらないので初めにお話します。
来園されたことがある皆様は見たことがあるかと思いますが、動物の前に立派な看板が立っています。(視界を遮るように・・・)


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「大きく立派な種名板。視界を遮っています・・・」


この看板は主だった動物の所に同じ形のものが設置されており、動物の名前(種名)そして英名と学名、分類と分布、生態が書かれています。種名が書かれているので、スタッフの間では「種名板」と呼ばれています。


施設ゾウ舎 (20)

「遠くからでもよく目立つアフリカゾウの種名板」


種名板は、とても大きく目立つので、どの動物なのか?を知るにはとても便利ですが、来園者の多くの皆様は、動物の名前以外はあまり読んだことがないかもしれません。中にはノートに一つ一つメモしてくれている小学生の姿を、夏休み期間に見ることがあります。自由研究かもしれません。入ってすぐの日本産動物の所では熱心に読んでいても、アフリカゾウやキリンのエリアでは読まなくなっているのではないでしょうか。
その中でもしっかりと足を止めて、熱心に読んでくださるお客様の目線の位置を確認すると、種名板の一番下の部分で、時には「へ~」や「そうなんだってさ!」という声も聞こえてきます。


実は種名板の一番下の部分は入れ替えが出来るようになっていて、開園当初からこの部分には飼育スタッフが担当動物の最新の論文からの情報などをグラフや図などと共に載せていました。毎年差し替えることからスタッフの中では「さしかえ」と呼ばれ、毎年の冬季休園期間が終わる2月末から3月にかけ、集めた論文の中からこれぞと思うものを厳選し、要点をまとめて、難しい言葉を使わずにわかりやすくお伝えする。そのことに非常に苦労し、後半は半泣きで作成するか、昨年と同じものをきれいに印刷しなおす・・・なんてことがしばしばあるのでした。
 ラミネートが普及する前には、シールのように貼り付けられる透明なフィルムシートで、印刷したA3のさしかえを保護しつつ、直接看板に入れる板にべったりと貼り付けていました。毎年そのシートを剥がしてきれいに洗い、よく干して、きれいに作ったさしかえの上から空気が入らないように2人1組で上手に貼り付けるのが風物詩で、シートを剥がすときに感じられる独特のにおいを嗅ぐと、その頃を思い出す飼育スタッフが今もいます。


種名板

「出し入れが簡単に出来る作りになっている。さしかえと呼ばれる所」


さしかえが毎年?更新され、非常に苦労して作っているものの、多くの人がしっかり読んでくれるわけではなさそうだいうことがお分かりいただけたかなと思います。
 さて、話は動物履歴書に移ります。(やっとたどり着きました)2020年4月に盛岡市動物公園の運営が現在の株式会社もりおかパークマネジメントに移行し、その年の開園は6月1日でした。いつもより開園が遅かったのは様々な引き継ぎをする必要があったからです。開園を迎えるときに、さしかえを統一のものにして、種だけではなく個体のことがわかるようにしよう。ということで作られたのが動物履歴書です。

今もそうなのですが表に個別の看板を設置して愛称がわかるようになっている動物とそうでない動物があります。個体の名前を知る事は、ファンを増やす一つであると考え動物履歴書の中には「なまえ(愛称)」の欄を作りました。スタッフ間で読んでいる名前でいいからぜひお客様にわかるようにしましょう。出身地や生年月日がわかるように、それぞれの区別の仕方や特徴が載っているとしっかり観察してくれるよね。名前がわかれば寄り添いやすいよね。文字ばっかりだと読まないけれど、写真があれば目に留まるよね。その写真が担当飼育スタッフのお気に入りにすると個性が出て面白いかも。と、ひな形を作成し、掲示することにしました。


動物履歴書 (1)

「設置したプレーリードッグの動物履歴書」


動物履歴書を掲示してから、来園するお客様の反応を見ていると、以前の最新の論文とグラフのさしかえよりも明らかにしっかり読んで、楽しんで観察してくれているように感じました。SNSでも発信をして、遊びに来たらここに注目!とお伝えしながら、動物履歴書を本にしませんか?という依頼が来るのをキリンになるほど首を長くして待っていたのですが言うまでもなく、書籍化しましょうという依頼はありませんでした。そして予定されていたとおりその年の冬となり長期の休園期間に入りました。

リニューアルするための休園でもあったので、いつもよりずっと長くお休みすることになり、スタッフみんなで動物園を忘れてしまわないように、動物たちのことを思ってくれるようにといろいろな策を練って会議を繰り返していました。そんな中、「動物履歴書」を整えて本にしたら面白いのではと話になりました。ガイドブックになるよね。動物たちのことを見て、思いをはせてほしい。でもせっかく高いお金をかけて作っても売れなかったら困る。在庫は持ちたくない。作って配るほどお金はない。など作りたいけどどうしようという気持ちが交錯しました。


そこで欲しい人が注文し、製本してくれる仕組みを探し出し、動物園では日本初のオンデマンド印刷による動物履歴書販売が見えてきました。

リニューアル前の半年間だけ掲示したもう二度と見ることが出来ない動物履歴書を本にするため、データをそれぞれの担当者から集め、改めて見てみると、個性が出ていて非常に面白い・・・。伝えたいことが多すぎる人。名前!などいい意味で、とてもいいものが出来そうだと感じました。(こんなにいいものなのになんで出版社から声がかからないのだろう!)

大きくて目立つ立派な看板を設置している40枚が整い遂に販売を開始しました。2021年の2月2日に販売を開始し、動物園では日本初のオンデマンド印刷による「動物履歴書」はマスコミにも取り上げられ、多くのご注文を頂き着々と注文数が増えていきました。

ダウンロード

「マスコミに取り上げてもらった動物履歴書の中身」


そして・・・・。予想していなかったことが起きました。リニューアル工事の着工が遅れることが決まり急遽2021年の4月から9月末まで暫定開園をすることになったのです。(実は開園が決まったのは開園予定日の約1か月前でした・・・。)


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「オープンを伝えるポスター。昨年のさよなら忘れないで~をちょっとはずかしく、申し訳なく思っているのを表現しています」


工事の着工前のため看板は同じです。二度と見ることが出来ないと言っていた動物履歴書をそのまま掲示するわけにはいかない・・・・。開園が刻一刻と迫る中、飼育スタッフは改めて新しい履歴書を作成し、現在は新バージョンを掲示しています。今掲示しているものも動物に対するスタッフの愛が垣間見えるものとなっていますので、ぜひ開園期間中に遊びに来ていただき、動物履歴書をチェックしてください。(リニューアル後看板が変わる予定なので、“さしかえ“はたぶんなくなります)
動物園で日本初のオンデマンド印刷による動物履歴書は現在100冊を超える注文を頂いています。そしてこの仕組みで、どうぶつうらばなしと昆虫図鑑、植物図鑑も販売しています。そろそろ出版社から依頼が来てもいいのにと待っているのはスタッフの中でも一人だけかもしれません・・・・。

企画営業広報 森