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ムロツヨシなのか、ワレキノコなのか。「短めのマッシュ」オーダーの末路

美容室ではマンツーマン施術がお気に入りだ。

美容師が複数人在籍するような組織的な美容室へは、ここ10数年来行っていない。


ふだん、会社では、仕事以外の雑談はほぼしないコミュ障で、

カットはスタイリスト、シャンプーはアシスタント・・・

みたいに、美容室の1時間(カラー・パーマならもっとだろう)の滞在のうち、
複数人とおしゃべりするのは、気をつかうし、疲れるからだ。

(その昔は、女子と一切話せないコミュ障だったが、それなりに年も重ねてきたので、今では話をうまく合わせる程度の社交性は身につけている)


で、20代後半くらいからか、マンツーマン施術の美容室を選ぶようになった。

マンツーマン施術とは、基本的に従業員はオーナーひとりで、
シャンプーをはじめ、カット、カラー・パーマまで、
すべての工程をひとりの美容師が担当する施術スタイルを指す。

そんなマンツーマン施術の美容室に通うようになって、
かれこれ10年近くがたった頃。

年齢で言えば、30代半ばをすぎた頃・・・


年甲斐もなく、マッシュに目覚めてしまった。


マッシュとは、そう、言わずと知れた“あの”菌類のことだ。

あの菌類に似たフォルムの髪型だから、マッシュと言う。


要するに「キノコヘアー」だ。


もちろん、あなたが想像したまんまのキノコヘアーではない。

齢40に近づこうとせんおっさんがそのような髪型をしていたのでは、
ダサいしキモいし、目も当てられない。

まあ男なら、誰しもキノコは生えているが・・・


それはともかく、
求めていたのは、“韓流マッシュ”だ。

韓国のイケメンアーティスト、俳優風のアレ。


で、10年近く通い詰めたその美容室で、
韓流マッシュのヘアカタログを見せ、

「こんな感じで!」

とオーダーした。


もともと、ファッションは人とは被らないスタイルが好きで、
髪型も例外ではなく、
流行りの前髪重ための王道マッシュではなく、
「短め」のスタイリッシュなキノコを頭から被りたくて、

「短めのマッシュで!」

とオーダーした。


・・・が、しかし、施術が終わっておどろいた。


想像とはまったく違ったフォルムのキノコを被っていたからだった。


施術が終了し、鏡のまえに座っていたのは、
かの「ムロツヨシ」だった。

ムロツヨシと言っても、固有名詞のそのヒトではなく、
勇者ヨシヒコのメレブ役のときのムロツヨシだ。

あるいは、「キノピオ」と言ったほうがイメージできるだろうか。


ショックだった。


なぜにこのキノコなのだ?


なにをおもってこのフォルムにしたのだ?


まあ、“キノコ"には変わりねえんだけどさ。


その日はそのまま帰ったのだが、
元来そのようなコミカルなキノコを被るようなキャラではないゆえ、
まわりからおどろかれ、次第に気になってきたのでお直しに向かう。


イケてるマッシュにリオーダー。


過去にもその美容室で一度だけお直しをしてもらったことがあるが、
その日の対応はひどかった。

10分くらいでテキトーにカットして、

「ハッ、こんな感じでいいっすか?」

実際に「ハッ」と口にしたわけじゃなかったが、
顔が「ハッ(メンドクサ)」と言っていた。


そりゃ、無料でお直ししてもらってるし、
カットしたその日に言わなくて申し訳ないともおもっていたが、
そういう対応をされて、さらに申し訳ない気持ちになった。

来なきゃよかったかな・・・ともおもった。

と同時に、腹が立った。


お直しで入店した直後、

「何が気に入らなかったんですか?」

と聞かれたのだが、この言い方も何となく引っかかっていた。

お店を出たときには、もうその美容室には行きたくなくなっていた。


「短めのマッシュ」

そう軽い気持ちでオーダーしたことが、10年にも渡る付き合いを終わらせようとは、
まさかおもいもしていなかった。


だがこれはまだ序の口で、
この呪文が持つ真のおそろしさを、後日、知ることになる。


行きつけの美容室とお別れしたため、次の行きつけを探さなければならなくなった。


そんな折も折、嫁様があたらしい美容室を開拓してきた。

カットがうまいとの評判を聞いて行ってみたお店だそうで、
嫁様自身も仕上がりに満足していたらしかった。


で、「行ってみたら?」と言われたのだ。


ほいじゃーまぁ・・・行ってみるか。


と、軽い気持ちで行ってみたら、
人の良い、低姿勢な美容師さんで、
話もおもしろく、韓流マッシュにカッコ良く仕上げてくれた。

(このときは「短め」オーダーではなく、王道だった)


つぎの行きつけの美容室は、存外すんなりと見つかった。


ところが・・・だ。


何回か通っていると、だんだん嫌な部分も見えてくる。


カットが雑なのだ。


この美容師さん、話はおもろしいのだが、
話に夢中になるあまり、カットがおろそかになる。

刈り上げもわりかしテキトーで、濃い部分と薄い部分がある。


それでも、居心地はいいし、カッコイイ髪型が何たるか
(少なくともメレブ風のマッシュがカッコイイとは定義していない)
の認識がお互い合っていたので、気づけば1年通っていた。


だが付き合いが1年を越したある日、事件が巻き起こる。


キッカケは言うまでもなく、例の呪文。


「短めのマッシュ」

だ。


この呪文をとなえたせいで、
まさかまさか、自分史上最悪の髪型を更新することになろうとは・・・


1年継続した、前髪重めのTHE・韓流マッシュに飽きてきたその日、
アナザーキノコを被りたい欲に駆られ、ついに禁断の呪文を放ってしまったのだった。


「短めのマッシュで!」


いつものようにしゃべりに夢中、カットは雑。

だか不安はなかった。

ちょっと毛がそろってなかったり、
刈り上げの剃り残しがあったりすることはあったが、

そんなのは自分で手直しできる。

いつも仕上がりは、遠目にはカッコ良かった。


だがその日は違った。


期待値割れを起こしていた。

・・・というか、キノコの笠が割れていた。


ワレキノコ爆誕。


おいおいどうした。


なんか部分的に短くないか・・・?


施術中に気づく。


しかし当人は、しゃべりに夢中である。

こちとら、鏡が気になって仕方がない。

話の内容も頭に入ってこない。


うわのそらの態度を見て、ようやく相手も気づいたもよう。


割れ目にやさしく手を触れる。


ああ゛ッ・・・ソコはッ・・・!!!


言葉は吐き出さなかった。


だが、

「やっちまった」

と顔が言っている。


人のホンネは、口に出さずとも、
どうやら顔が代わりに伝えてしまうらしい。


いや・・・この場合は割れ目が、か。


・予想より短くなった
・オーダーと違った(全然キムタクじゃないやんけ!とか)

※ちなみに「キムタク」でオーダーしたことはない


そんな経験なら多くあるが、
前髪をこんなカタチで失敗されたことは、40年近く生きてきて、一度もない。


センスはあるが、さすがにヘタすぎる。


メレブは「ワロタ」で済んだけど、ワレキノコを被るのはいただけない。


センスの良さ、おしゃべりのウマさ、居心地の良い空間。


これらは付加価値であって、断じて『技術料』ではないぞ!


その後、何ごともなかったかのようにキノコの割れ目をセットで隠され、
技術料ならぬ、「おしゃべり料」6000円を請求された。


ねぇ。プライド出すとこ間違えてない?


自分の経験や技術にじゃなく、仕上がりにプライドを持ってくださいよ。


嗚呼。


罪なお人。


あなたのおかげで、
このワレキノコが過去イチ気に入ってしまったようです。


気に入りすぎて、何度も何度も鏡を見てしまいます。


嗚呼。


いとしきワレキノコ。


「短めのマッシュ!」


この呪文には、とてつもない威力がある。


美容師様の手元を狂わせてしまうおそれがあるので、くれぐれも取り扱いにはご注意を。


さいごに、ワレキノコを被ったワレがコレである。

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