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『トロッコ』

芥川龍之介シリーズ


今回は、芥川龍之介の短編小説『トロツコ』(Minecart)です。
主人公の良平は八歳。村外れの新線路工事に興味津々でした。ある日、枕木を運ぶトロツコの土工に頼むと、「おお、押してくよう」と手伝いを快諾。蜜柑の実る坂を登りつめると、急に下り坂になり「やい、乗れ」。飛び乗った良平は有頂天!しかし、トロツコはどんどん前進し、崖の向こうの海をみたとたん、遠くに来すぎたと気づきました。日も暮れ、帰りたくても土工たちはマイペース。ようやく二軒目の茶店で「われはもう帰んな」。下駄を脱ぎ捨て、暗い線路道を必死に走り、ようやく家にたどり着いた良平は、泣きじゃくるばかりでした・・・。
明治20年代 。東京方面から熱海温泉に向かう湯治客は、小田原から駕籠や人力車を利用していました。海沿いの険しい山道で時間がかかるため、1896年(明治29)に「豆相(ずそう)人車鉄道」を開設。6人乗りの小さな客車を車夫が2、 3人で押して走り、上り坂では客も押したり、下り坂で脱線したりと不評判でした。そこで、1907年(明治40年)、蒸気機関車で牽引する軽便鉄道用の、幅の広い線路敷設を開始。『トロツコ』はこの工事を題材としています。

人力トロッコ
猛スピードで坂を下る


補註
☆『トロツコ』(旧表記):芥川龍之介作。1922年(大正11)発表。湯河原出身のジャーナリスト力石平三が、幼年時代に見た人車鉄道から軽便鉄道への切替え工事の回想手記を芥川に提供。
☆「豆相(ずそう)人車鉄道」:「豆」は「豆州」(伊豆国・静岡)、「相」は「相州」(相模国・神奈川)。旧国名の略称。
☆人が押す「人車鉄道」の軌道は610mm、蒸気機関車が引く「軽便鉄道」の軌道は762mm。良平が乗ったのは後者の軌道。
☆所要時間:小田原・熱海間25.6kmを「駕籠」は約6時間、「人車鉄道」は約4時間、「軽便鉄道」は約3時間で走行。
☆「人車鉄道」は、坪内逍遥、国木田独歩が乗車。「軽便鉄道」は、内田百閒や吉川英治などが乗車。夏目漱石の小説『明暗』にも登場。
☆探訪:小田原市や熱海市のオフィシャルサイトで、「豆相人車鉄道」の詳しい情報を掲載。現地に人車復元模型、蒸気機関車、ジオラマや石碑などが点在し、一見の価値あり。

2003年の開園時より、貝たちとは「割らない」「塗らない」「削らない」と固く約束して制作しています。園長

              <貝の配役>
★良平:アマオブネガイ/スズメガイ/ウメノハナガイ/スガイ/ハツユキダカラ/ヒメキリガイダマシ/ヒメカノコ他
★土工:アマオブネガイ/スズメガイ/フジノハナガイ/スガイ/ハナマルユキ/フトコロガイ/カニモリガイ/ヒメカノコ他
★トロツコ:パイプウニ/マテガイ/サザエ/ガンガゼ他  
★線路:ノコギリウニ ★枕木:パイプウニ ★地面:ホタテガイ


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