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休暇は夢か幻か

皆さんは、「うつ病による療養休暇」と聞いてどんな休暇をイメージするだろうか。

ちなみに私は、うつ病でこうして療養休暇を取るまで、休暇と言ったらとても穏やかな時間をイメージしていた。
まるでアルプスの少女ハイジに出てくるような、どこまでも広がる青空と草原のまぶしい高原で、白いワンピースに麦わら帽子を被って、ハンモックに揺られながら、心穏やかに過ごしているイメージだった。

まあそもそも、あなたの家はハイジみたいな高原じゃなくて、都会の密な住宅街の一角にあるでしょと言われればそれまでだが、少なくともぽかぽかのお日様の下、穏やかな気持ちでゆっくりとお散歩したり、道端に咲く花を眺めて「わあキレイねえ」、というゆったりした時間をイメージしていたのだ。


ところがどっこい、現実は全然違った。
全然心穏やかじゃない。
爽やかでも楽しくも何ともない。

この文章を書こうと思ったのも、世間に療養休暇と有給休暇・夏季休暇の違いを知らしめねば、両者を混同された暁に私が怒髪天をつくと思ったからである。
療養休暇明けに、誰かから「リラックスしてゆっくり休めたんでしょ良かったね」的なコメントを頂戴した際には、私の顔が阿修羅になること間違いないからだ。


そもそも、療養休暇と有給休暇・夏季休暇は、「休暇」という名称は共通していても、実態は天と地ほども違う。

経験者は言う、療養休暇は「休み」ではない、と。

どういうことか。
最大の問題はうつ病である。

うつ病による療養休暇と言うからには、「休暇」期間中ずっとうつ病に罹患している訳である。
人がうつ病になると、気力・体力・意欲・興味関心・喜び・楽しみその他諸々がごっそり失われる。人間を人間たらしめているポジティブな感情やエネルギーが全て無くなり、気分の激しい落ち込みや憂鬱感、身体の極端な疲れやすさと言ったマイナスの性質だけが何十倍にも増える。

その身体でアルプスの少女ハイジのような爽やかな暮らしは送れない。
何日もろくにに風呂に入れずに、髪はボサボサ、メイクはもとよりスキンケアすらできず、顔からは全ての感情が消えて無表情になり、絶望した人間が、ひたすら布団に横たわっている。
何の気力も湧かないので、天井の木目を数えるくらいしかできない。
この状態では、私たちが一般的に「休暇」に期待するような、楽しいお出かけや、美味しい食事、誰かとのお喋りや、リラックスタイムなど過ごせるわけがない。

つまり、療養休暇の実態は、世間一般に言う「休暇」のイメージとはかけ離れている。
休暇と休業は違うのである。休業していても、リラックスして休めているとは限らない。療養休暇というのは、単に「寝込んでいる」ということである。

だから、「休んでリラックスできた?」などと聞かれたら、「うつ病でどうやってラグジュアリーなリラックスタイムを過ごすんじゃワレエ」と、私の中のガラの悪いヤンキーがメンチを切ってしまうのだ。

有給休暇や夏季休暇と、療養休暇が違う証拠に、療養休暇の場合は傷病手当金が出る。
まあでもよく考えれば、南の島の海でプカプカしているような素敵な時間に傷病手当金が付くわけがない。
傷病手当金をもらっているということは、病気で辛い時間を過ごしていたということだ。


だからやっぱり、「休暇」という名前が誤解を招くと思う。
どうしても、心穏やかな良い時間というイメージがついてきてしまう。

もし、療養休暇明けに「寝込み」と「休暇」をうっかり勘違いする人がいたら、心の中のヤンキーを発動させていこうと思う。
ただ、「休暇」と勘違いする人が多いと、心の中のヤンキーが増えすぎて、徒党を組んで暴走族を結成してしまいそうなので、私の周囲の人におかれましては、是非、療養休暇を軽い話のネタに振らないよう、重々お願い申し上げる。

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