withコロナの時代に日本酒はどこを見るのか。
はじめに
日本酒に関わる仕事をしていると、良い面ばかりでなく、もちろん不満な面も見えて来ます。
自分はもちろん一飲み手として日本酒が1番好きだし、この日本酒の面白さや美味しさなんてものが、より多くの人に広まっていけば良いな、と一提供者として思っています。
その中で新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)の猛威は、現状日本酒を取り巻く環境の脆弱さや歪さを露わにしてしまったものと思います。
応援の声もあがっているが、その甲斐虚しくメディアでは悲しいニュースも流れている。回復の見通しは未だ遠く、行き先はまるで出口の無いトンネルのように真っ暗にも思える。
でも、誰かが声を上げないといけないと思う。
上げていたとしても届いていないのなら何度でも。
これから偉そうなことを言うと思います。
でもおかしいと思うのならば主張しないと、伝統産業の日本酒業界は変わり得ないでしょう。
これは、色んなお酒が好きな一飲み手として、また一提供者として、都内で自分の見てきたものからHayateさんのnoteへのアンサーのひとつとして書くものでもあります。
主観のためデータは無いですが、感情論は抜きにあくまでフラットな目線でいきたいと思います。
今、現場では何が起きているのか
飲食店では。
緊急事態宣言に伴う休業要請に伴い営業自粛を余儀無くされたこと、またそれ以前まででも飲み会の自粛や感染予防の観点から飲食店を避けてきたことで、この数ヶ月の売上高は前年同月比8〜9割減、というお店も多いでしょう。
本来歓送迎会シーズンで売り上げが見込める季節ではありますが、その分のお酒の消費がまるまる抜け落ちているのです。
かくいう自分の勤務するお店も今月は売上8割減くらいです。
酒販店さんも同様に苦戦を強いられています。
飲食店への販売割合の多い地酒専門酒販店では、飲食店が購入出来なくなった分をECや店頭販売などでカバーしようとしていますが、普段店頭に並んでいないようなプレミア銘柄が店頭に置かれていた、という報告も多数。
また都内では、有名酒販店のはせがわ酒店さんが十四代や新政などを購入出来るセット販売をECで行うなど、どうにかして販売しようと様々な企画を行っています。
しかし、「飲食店でなら日本酒を飲む」人も多い現状、それぞれかとは思いますが地酒専門店の売上は5割前後に落ち込んでいるのではないでしょうか。
飲食店も購入出来ず、よく地酒を飲む人の多数はプレミア系日本酒を主目的に購入しに行くため有名地酒ですらなかなか購入されない。これが導いたものが先日ニュースにもなった新澤醸造店さんの回収と廃棄でしょう。
これについては酒蔵さんからも指摘の声はあるようです。
果たして「飲んで応援」とはなんなのか。
ではスーパーなどではどうでしょうか。
大手メーカーの日本酒が多く並ぶスーパーやディスカウントショップでは、Hayateさんのnoteにもあったように大手メーカーの日本酒は販売数が少し伸びている可能性すらあります。実際に夕方スーパーなどでお酒コーナーを覗いてみると、紙パックの日本酒が意外にも売れている様子を見れると思います。あの棚の所々に空白が見られるのです。安く日本酒を飲む、という需要にこちらは合致するのでしょう。
是非買い物に行った際は常温の紙パック酒のコーナーも、少しだけでいいので気にしてみると、新しい発見もありますね。
しかし、全体的に見るとそうとも言えません。
冷蔵庫の日本酒の置き場、確認したことはありますか?
ビールやチューハイなどが所狭しと並べられている中で、目立たない隅の下の方に入れてあればむしろ良い方。常温コーナーにしか日本酒は無いという状況もザラです。
日本酒を選ぶ機会は、思っているよりも減少しているようにみえます。
この流れに追い風をかけるように、一人当たりの酒類消費量は平成4年をピークに減っていくばかり。
安く量を飲む時代はとうの昔に終わりを告げ、美味しいものを適度に嗜んでいく時代に移り変わったものでしょう。
さてここまでは日本酒だけの話。問題はここから広がります。
ライバルとなる他のお酒たちは
もしかしたらこの記事を読んでいる方の中には
お酒といえば日本酒、それも有名で人気のある地酒ばっかり飲んでいます
という人もいるかもしれません。
でも日本酒の販売数量が減っている現状、今消費者に選ばれているお酒に注目していく必要はあるでしょう。
まずは今一番人気ジャンルといってもいいレモンサワーをはじめとしたチューハイ・サワー
レモンサワーは数年前から飲食店での人気向上がとまらず、コカ・コーラの檸檬堂を追うようにキリンやアサヒなど大手メーカーもこの数カ月で新商品を投入しています。ストロング系チューハイも含めると店頭でも売り場の占める割合は非常に高く、ビール系との棚の取り合いになっているといってもいいと思います。
→100~200円/350ml缶
そしてビール。
飲食店に行かなくてもこのジャンルの販売量は不動のものでしょうね。
ビール・発泡酒・新ジャンル・クラフト系など。
「とりあえずこれ」というような選択が容易に出来るビール系飲料の強さはこの時代でも揺るがないでしょう。
→80~350円/350ml缶
日本酒とよく比較されるワインはどうでしょう。
皆さんは、スーパーで売られているボトルワインの価格、思いだせますか?
具体的には思いだせない方もいるかもしれません。
TPPによる日欧の関税撤廃などを受け、スーパーなどで見かけるワインの価格が数年前に比べよりお手頃に感じるようになっています。
デイリーワインのイメージがついているチリ産はもちろんのこと、本場フランス産ワインでも600~900円において様々な選択肢があります。この価格だとしても分かりやすく美味しいと思わせるキャッチ―な味わいはワインの魅力の一つにもなっているのではないでしょうか。
→500~2500円/750mlボトル
ウイスキーではハイボール人気が、カクテルでは味わいの幅広さなど、飲む人が気軽に購入できる環境は着実に整っています。
「今日はこのお酒にしよう」
というような選択肢が豊富に用意されている状況。これらの商品をかき分けて日本酒は今後人々の生活に入り込んでいく必要があるわけです。
この壁は日本酒というものが抱える本質的な弱点や日本人の嗜好を理解しないと乗り越えられないのでは、と思っています。
日本酒が選ばれていない理由の考察
日本酒の特徴といえば何でしょうか?
・お米から作られる酒
・アルコール度数が他の醸造酒より高い傾向にある
・味わいの幅はワインに比べると格段に狭い
・熟成の概念はあるが、他の酒類に比べるとイメージは弱い
・時間経過による味わいの変化が大きい場合がある
・他の酒類に比較して原価率が高い
など色々あるかと思います。
まず一つ質問です。
日本酒の味わいは「飲み物として」美味しいものになっているのだろうか?
ビールやサワーは炭酸の爽快感や度数の低さからゴクゴク飲める手軽さ
カクテルは言わずもがな。あえて言うなら果物の味の分かりやすさ
ワインは度数は比較的上がりますが、ぶどうから造られるという、果実由来の飲料ということで本質的に味わいの中に甘酸っぱさを含んでいます。
これらのライバルに比べると?
正直美味しくないと思いますよ。ええ。
これはいくら日本酒が好きだからといっても覆りません。
今人気の日本酒は甘味や酸味が主体なものも多いですが、コンビニなどで手軽に入手できるものは基本的に旨味主体なもの。
食事において白米を「すごく美味しい」と絶賛しにくいように、穀物の旨味は本質的に美味しいの優先順位は低いのです。
またアルコール度数が高く、飲むと酔いやすいというイメージがある。
そして基本的に大容量パッケージ。
また日本人は「生」や「新鮮」など、新しいものが基本的に大好きです。
冷蔵庫に入っていないものに新鮮さを思わせる要素はありませんよね。
端的で手軽な美味しさを求められがちな現在では、一般的な日本酒はそもそも選択肢に入れられる要素を持ち合わせていないのではないでしょうか。
いくら地酒が盛り上がっている、色々な味わいが出てきている、と内輪で盛り上がっていたとしても、それで満足していてはこれ以上広がりようがありません。中小日本酒蔵に製造数量を今の味わいのまま上げて一般流通してくれ、とも言えません。
興味の無い人には情報は届きにくいですが、日本酒というものを認知されるような動きが日本酒業界を含め流通や小売なども含め行われる必要はあるでしょうね。
生き残るためにどうするのか・案
今後の日本酒はどうなっていくのでしょうか。
このままでは、ある意味で中間層に甘んじていた日本酒は淘汰されていくような予想さえあります。
・大手メーカーを中心としたデイリーユース。
・飲食店での飲み比べなどを中心に消費されてきた日本酒。
・新進気鋭の蔵元やテーマ性の強いものなど、購入したくなるような話題性ある地酒。
・プレミア銘柄を含めブランドの確立された、一定の購買層が獲得できている地酒。
1番目は高年齢層を中心に売り上げの地盤は向こう数十年はある程度獲得できているでしょう。ただし、人口が減少している現在ではここの減少傾向は確実でしょう
3や4番目は現在の地酒シーンを彩るもので、世代交代での話題性や、テロワール等の地酒としての価値の向上、海外展開など、現在でも人気に映りますが今後の伸びが更に期待できるブランド力を有しているものと思います。
2番目にいると感じる日本酒について。
日常酒に入り込めるか、それとも飲食店の看板銘柄になるのか、またはちょっといい日に選ばれるのか。
どこを目指して何を造るのか。
選ばれる理由や付加価値の明確な設定は今後より求められていくことになりそうです。
「今売れている味わいだから」
この言葉は、今後も購入される理由になり得るでしょうか。
正直自分は疑問です。
そうして変化をしていく上での案はどうでしょうか。
Hayateさんの案に肉付けする形で考えてみましょう
①ECへの対応
伸びているネットショップの需要、これに対応していくのは今後求められていくことでしょう。
利益構造を考えると、可能であれば自社でECサイトを立ち上げて販売したいとは思います。
しかし、一般消費者が日本酒を購入する際に「銘柄を指定して」購入することがどこまであるでしょうか。既に知名度のある銘柄であればそれは成功する可能性は高くなるでしょう。
ただ、多くの場合、蔵元1社だけで集客することは非常に困難となるでしょう。
県や地域でまとまったプラットフォームを作成して、複数の蔵が共同してテーマ性を活用した方が生存確率は上がるのではと考えます。
クラウドファンディングも、この「応援ムード」が収まったときにどうなるのか。少し検討は必要かもしれませんね。
②家飲み需要への対応
今後日本酒の主戦場になるかもしれない家飲み需要に対して。
現状日本酒は、選択肢が増えてくるのは720ml瓶(4合瓶)か一升瓶。300ml以下のパッケージは大手メーカーのワンカップを中心にして、300ml瓶がいくつか。
よく思うのですが。
720mlって多くないですか?
好きな人が地酒を買う場合でしたらいいのかもしれません。
しかし普段使いするには量は多い上に値段も割高です。アルコール度数の高く、味わいの変質しやすい飲料である日本酒は、もっと一般消費者の需要に近づいても良いのではと思います。
1日の基準アルコールに対応したサイズ、一晩や二晩で簡単に飲み切れる容量は今後必要だと思います。というか自分が欲しい。
多くても500mlくらいであれば価格もかなり抑えられるのでは。
こういった180mlパウチみたいな気軽さ、良いと思うのですがいかがでしょう。
また今後を考えると、若年層に日本酒を選んでもらうきっかけが必要になってきます。
いくらいいお酒、中身が出来たとしても、入れ物の形状やラベルデザイン、パッケージなど外見が今までのようにオジサン臭いと手に取られる可能性は低くなるでしょう。
日本酒には「かわいさ・おしゃれさ」が圧倒的に足りていません。
これは本気ですよ。
日本酒のイメージの悪さは想像以上に深刻なのです。
大手メーカーでも新商品が定期的に発売されていますが、「若い女性がコンビニなどで一人で買っても変な目で見られない」ようなパッケージ、今後期待していきたいところです。
まとめ
地方の中小蔵を中心として、危機的状況は今後も続いていくことが予想されます。
今回このnoteに書いたことも、もちろん見当違いだと批判されたりすることもあるかもしれません。
それでも現場の一人としてただ見ているだけではいられないのです。
この厳しい流れにおいて、ただ酒蔵さんだけが変われば良いものでは決してなく。
保存や陳列まで含めた一般流通や小売、酒瓶メーカー、ラベル標記や酒税などの法体制、情報拡散のための広告、社会全体の労働環境など……
造り手から飲み手まで、日本酒だけでなくお酒に関わる全ての業界が変わっていかなければ、と感じます。
もしかすると何も変われないのかもしれませんね。
それでも、1つでも多くの銘柄が、今後も残っていて欲しい。それは変わらないものです。
多方面に問題提起をしたかもしれませんが、これが誰かが生き残るための一助になれば。そう思います。
願わくば、この暗い状況の先に一筋でも光が見えてくることを。
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