おじさんとプリクラを交換した話
これは私がまだうら若き女子中学生だった頃のお話。
時は世紀末、ヴィジュアル系バンドブーム最盛期。
推しバンドSOPHIAの写真を生徒手帳にペタペタ貼り、群青色のナップサックに缶バッチをつけてど田舎の田んぼ道を歩いていた。
※こちらの記事にもご紹介した頃です。
インターネットの世界に導かれ、CandyStripperの応援サイトを作っていた。
一方で推しバンドSOPHIAの情報を得るため、いくつかのファンサイトに入り浸りBBSにカキコする日々。
その中で同世代と思われる女の子達と仲良くなって、メアド交換をしてはポスぺのやりとりをしていた。
そのサイトの中で、1人異彩を放っていた男性がいた。
名前は、Mさん。
Mさんは、いつでもチャットにいて、掲示板でのメッセージ交換もとても盛んにしている人だった。
私が憧れていた管理人さんとも仲良くしているようで、ファンの中心にいるような人、今でいうインフルエンサーのような存在だと思っていた。
だからそのMさんから、初めてメッセージをもらった時はとっても嬉しかった!
人気者と仲良くなれたような感覚で、すごくなついていたのを覚えている。
ある時、同世代のネット友達とプリクラを交換しようという話になった。
共通のネット友達がいる同じ学校の子とプリクラを撮って送りあった。
こんな顔なんだね!とか
字がかわいいねとかお互いに感想を送り合って楽しんでいた。
(今思えば、本当に本人たちのものかどうかわからないが。)
さてそのプリクラ交換ブームの最中、
Mさんから直接メッセージが届いた。
俺とも交換しようよ!
ただし必ず1人で写っているプリにして!
おれも1人で撮るから!
"必ず1人で"という指定に少し違和感を感じた。
けれど、まだチャリで移動できる範囲の田舎しかしらぬ中学生。
知らない人とプリクラを交換することにどんな危険性があるのかわからず、その違和感を見過ごした。
人気者のMさんからの交換希望だ!
気が付けばすぐに送りますねと返事をしていた。
そんな気のいい返事をしておきながら、
1人で写っているプリクラは持っていなかった。
撮りに行こうと思ったけど、当時は田舎のショッピングセンターに念願のプリント倶楽部が設置された頃。週末となると行列ができていた。
1人で並んで撮るのは、なかなかハードルが高い。
あいつ1人で並んでいたぞ…
誰かに見られたら、翌日には学校中に広まる可能性がある。
まるで探偵のように、隣の書店からプリント倶楽部の機械を覗き見て空いてる時間を狙った。
ほぼ一日中偵察し、やっとのことで1人プリクラを撮った。
また、あまりめかしこんだ姿をクラスメイトに見られたら、変な噂になりかねない。
井の中の蛙こと私は、あろうことかクソださなジャージ姿でプリクラを撮った。
こんな一人芝居を繰り広げ、ようやく送ったプリクラ。数日後、待ちに待った返事が返ってきた。
そこには直筆の手紙とMさんのプリクラが入っていた。
手紙の内容はざっくりとこんな感じだった。
…思い出すだけで鳥肌案件である。
ちなみに私はど田舎の中学生。
強烈な天然パーマのせいでブロッコリーみたいな髪型と、おまけにジャージ姿。
送っておきながらなんだが、あれを見てとってもかわいいと言うのは、お世辞にしてもひどいなと思った。
さらに同封されていたプリクラを見て、
親に言えない悪いことしたという罪悪感でいっぱいになった。
Mさんは想像してたより、
かなりおじさんだった。
確か年齢は20代前半と言っていたと思う。
ただ送られてきたプリクラの写真はとてもそんなふうに思えなかった。
会社員やりながらバンドもやって友達も多くて…そんな話から勝手に思い描いていたMさんの姿とは全くちがっていた。
プリクラと手紙を机の引き出しの奥のほうにしまった。
親にも言えず、次第にMさんと交流するのも怖くなって、入り浸っていたサイトにもアクセスしなくなった。
次第にMさんからの連絡も途絶えた。
時は経ち、当時のネット友達と別の場所で交流をすることがあり、そういえばMさんていたよね!なんて話になった。
勇気を出して、手紙と共に机の引き出しに押し込んだ思い出を引っ張り出してきた。
実はプリクラを交換したらこんな手紙が入ってて、それ以来怖くなって…と告白をした。
すると『あの人他にもそれやって問題になってたよ〜。怖かったね。大変だったね。』と声をかけてもらった。
他にもやっている…となると、果たして送られてきたプリクラが本当にMさんなのかもわからない。
そして私が送ったプリクラをどうしたのかも、今となってはわからない。
ただ話すことができたことで、机の引き出しで熟成された気持ち悪さは楽になった。
ネットで怖い思いをした一方で、ネットの友達に助けられたのだ。
子供を持ち、きっと我が子もこれからゲームやインターネットの世界で、いろんな人と交流をするのだろう。
そんな時、姿の見えないあの人が本当にあなたの思うような人かどうかは分からないんだよと話すため、この思い出を忘れないでいようと思う。
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