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普通の人生

昔デイサービスに勤めていたころ、生き仏のようなおばあちゃんがいた。

「若い頃にある旅館で手相をみてもらったんだ。その手相見のおじさんが最後に寿命をみてくれた時に「ふ~~~ん・・・なるほどねえ」って言うだけで何も言ってくれなかったんだ。あれは今でも気になるけど、まさか百歳超えるとはね、自分でも驚いた」

「夢の中で、声だけ聞こえるんだけど、「寿命を17年伸ばしてあげよう」って言われて、土下座しながら「それだけは勘弁してください」って必死にお願いしたよ。長生きして誰も友達がいなくなるのは寂しいもんなんだよ」

おばあちゃんは東北生まれだけど、住んでいた場所は都会で、いろんなものが洗練されていたそう。
東京に嫁入りしたとき、見渡す限り田んぼと畑しかなくて、いつになったら東京に着くのかと思っていらしい。
こんな田舎に住むの?と悲しくなったそうだ。

「東京でもいろんな人に占ってもらったり、拝み屋さんに聞いたりしたもんだよ。若い頃は神様の仕事を手伝いたかったんだけどねえ。ある人に今度の人生は普通の人の人生を送らないとダメと言われてね、悲しかった」

おばあちゃんは霊が見えたり、聞こえるとかはない。


ある時車道を歩いていて交通事故に遭いそうになり、危ない!と思った瞬間、身体が浮き上がって車道からガードレールを越えてひょいっと歩道に移ったそう。
「あれは今考えても不思議だった。お稲荷さんが助けてくれたと思ったよ」

北海道にいた時、近所のおばさんと朝ごはんを食べていたら、おばさんにお稲荷さんが憑いて「もうすぐ大火事がくる、全部燃えてしまう・・・」と悲しそうに話したそうだ。
そのあと大火事になったけど、おばあちゃんの住む地域は焼けずに済んだと話していた。

おばあちゃんは私の夫の体調が悪いことも知っていて、折に触れ気にかけてくれた。夫がマージャンボランティアでデイサービスに来てくれた時に、夫と直接話したこともある。

仕事が終わるとおばあちゃんはいつも「二人で帰るんでしょ?」と
とても嬉しそうに聞く。
「昔は男女が手を繋いだだけでも後ろの大人が咳払いをしたものよ。いいわねえ、二人で一緒に帰るなんて」

夫が入退院を繰り返している時、おばあちゃんが
「介護は大変だけど、奥さんが先に死んだらだめだよ。仕事は無理しないでいいからね。奥さんに先立たれた夫はそれはもう見る影もない。義理の弟が奥さんに先立たれてね。毎日家に来て「辛くてどうしようもないよ、姉さんオレどうしたらいいんだよ」って泣くんだよ。それから1年もしないうちに弟も亡くなった」

おばあちゃんは百歳を超えて大往生で亡くなった。

その1年後に私の夫が亡くなった。

おばあちゃん、夫が先に亡くなりましたよ。
これでよかったんだよね。





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