Kendrick Lamarは何がすごいのか?
こんにちは。
さて、以前The Beatlesのすごさを解説する記事を書きました。
ただ、ビートルズの場合は比較的すごさがわかりやすいと思うんですよね。
曲を聞いたら耳にしたことがあるものばかりですし、歴史を追えばイチコロです。
その一方で、日本人にすごさがわかりにくい音楽ジャンルといえばヒップホップでしょう。
実際にチャートを見ればわかります。Apple Musicの年間トップ10、まずは日本のものがこちら。
半分ぐらい髭男ですね、すげえ
つづいて世界のものがこちらです。
黄色いマーカーが引いてあるのがヒップホップ。世界のランキングでは10曲中6曲がヒップホップであるのに対し、日本ではゼロです。
かなり前から、ヒップホップがロックに代わって音楽業界を席巻しています。
ただ、このチャートを見ただけでもわかるように、日本だけは例外なのです。
なので、日本人にとって馴染みの薄いジャンルであるヒップホップ、その中でトップと呼ばれているアーティストのすごさというのは、ロックアーティスト以上に分かりにくいでしょう。
今回は、そんな何もヒップホップについてわからない人たちにもわかるように、現在のヒップホップシーンのトップに君臨するラッパーである、Kendrick Lamarのすごさを解説していきます。
歌詞がすごい
歌詞、ヒップホップ界ではリリックと呼ぶことが通例ですが、Kendrick Lamarはリリックの質が群を抜いています。
どんなランキングを見ても、5位以内には入るほど評価されています。
死によって神格化されているラッパーも多い中で、現役バリバリでまだアルバム3枚しかないアーティストとしては異例です。
特にその歌詞のすごさは、アルバムを通して見てみるとよーーーくわかります。
アルバムがすごい
そもそもこれは前提論になるのですが、アメリカ含む洋楽界隈では、アルバムは曲の集合体ではなく、一つの作品であるという意識が日本よりもかなり強いです。
そして、その文化の一つの発露として、コンセプトアルバムという概念があり、これは「アルバム一つでストーリー仕立てになっているもの」を指します。
そして、Kendrick Lamarはメジャーデビュー後三つのアルバムを出していますが、これら全てがコンセプトアルバムです。
このうち一つのgood kid, m.A.A.d cityについては以前解説しています。これを読むだけで、いかに高度に歌詞を組み立て、アルバムを作り上げているか分かるかなと思います。
このアルバムはメジャーデビュー作で、その出来は批評家筋から絶賛されます。
Kendrick Lamarのすごいのは、その後プレッシャーのかかる中、これ以上に評価されるアルバムを作ったことです。不朽の名作、To Pimp a Butterflyです。
こちらも解説記事を書きましたので、是非ご覧ください。
曲の幅が広い
歌詞のすごさだけで正直十分すぎるほどやばいんですが、Kendrick Lamarはそれに比べて曲の幅が尋常じゃありません。
ジャズを基調とした高速ラップや
チルい感じの現代的な曲
もろファンクな曲
ネオソウルっぽく、色っぽい曲
G-Funkの影響を色濃く感じさせる曲
ダンサブルな曲
ブラックミュージックの要素を全て持ち合わせているのではないかと思えるほど、Kendrick Lamarの曲の幅は広いです。
ヒップホップは音像が非常に偏りやすい中で、これは驚異的です。
フロウがすごい
また、このような多様なビートに合わせてしまうフロウの技術も特筆すべきです。
フロウというのは、説明が難しいのですが、ラップのメロディの乗せ方、みたいな意味です。
Kendrick Lamarはあまり早口ラップをしません。ゆっくり目なフロウで、しっかりとリリックを聞き手に染み込ませます。
今のヒップホップ界ではトラップという、重低音を強調したビートにハイハットの連続音や派手な電子音が入っているものにオートチューンで合わせるジャンルが非常に人気で、これだとあまりフロウの技術は必要ないのですが、Kendrick Lamarはフロウの技術が強く要求されるビートでのラップにこだわっています。
個人的に好きなフロウは、The Gameの曲でKendrick Lamarが客演したThe Cityです。
この曲では、サビ(ヒップホップではフックといいます)も圧巻ですが、なによりも最後のアカペラのバースがすごいです。
ビートがカットされても、Kendrick Lamarはまるで後ろにビートがあるとしか思えない、非常に短い息継ぎの中で、ものすごい迫力でラップしています。
出身がすごい
good kid, m.A.A.d Cityを聞けばわかるように、Kendrick Lamarの出身地は治安が悪いComptonです。
このComptonという地、実はヒップホップ界では超絶に有名で、超大物ラップスターを何人も輩出しているのです。
というのも、N.W.Aというラップ界の原点にして頂点みたいなグループがあるのですが、彼らはCompton出身であることを前面にアピールしてデビューしました。
聞いたことがある人もいるでしょう。Straight Outta Comptonです。
日本ではあまり知名度がないかもしれませんが海外での知名度はものすごく、Straight Outta Comptonの名でその生きざまが映画化され、その興行収入は音楽系ではBophemian Rhapsodyに次ぐなど、大ヒットしました。
Compton出身のラッパーにはIce CubeやDr.Dre、Snoop Doggなど今でも第一線で活躍するラッパーがいます。
そんな、ヒップホップ界では超一級の土地出身のKendrick Lamar。しかも彼は、Compton出身の大御所のお墨付きのもとデビューします。
Kendrick Lamarが所属するレーベル、Aftermath EntertainmentはDr.Dreが設立したものです。
契約当時は所属アーティストがDr.Dre、Eminem、50Centと超一流しかおらず、Kendrick Lamarが彼らに比肩すると認められていることを示します。
ライブがすごい
なんとKendrick Lamar、ライブでのパフォーマンスもすごいです。弱点どこ?
以下はBest Buy(ヨドバシみたいなやつです)でライブした様子です。
こういうゲリラライブみたいなのもバイアスばっちりでこなしますし、かと思えばキャパが大きいのも持って来いです。
ぼくがいちばん好きなのは、The Tonight Show Starring Jimmy Fallonに出演した時に未発表曲をライブしたものです。
この曲はTo Pimp a Butterflyには入らなかった曲なのですが、のちに正式にリリースされています。
批評家的評価と売り上げを両立している
音楽業界には大量の批評家がいます。
芸術には質というものがあり、それと売上は必ずしも一致しません。
例えば、The Velvet Undergroundのデビュー作であるバナナアルバムは、批評家からの評価はものすごく高いですが、売上で言えば全然です。
一方、Kendrick Lamarは批評家からの評価も非常に高く、かつ売上も尋常じゃありません。
まずは批評家筋。先日更新されたRolling Stone誌のオールタイム・アルバムランキングではKendrick Lamarの作品が全作品ノミネートされています。
そして売上。
Kendrick Lamarの曲で最も売れたのは、3作目DAMN.に収録されたHUMBLE.です。
Youtubeでの再生回数は7.7億回、しかもこの直前にTravis Scottに客演したgoosebumpsというメガヒット曲も出しており、この年はKendrick Lamarが売れまくった年でした。
他にも、BLMのアンセムであるAlright、それに対する批判に真っ向からぶつかったDNA.、Taylor Swiftに客演したBad Bloodなど、再生回数が1億回を超えるような大ヒット曲をいくつも出しています。
余談
同じくトップラッパーであるEminemのすごさについては、既に分かりやすい動画があったので紹介しておきます。
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