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Rolling Stone誌が改訂したアルバムランキングが荒ぶっていた件について

こんにちは。

洋楽好きなら誰もがご存知Rollin Stone誌
その特徴は保守的であることに尽きます。

ランキングを開催すれば基本的にはビートルズ信者、他にもボブディラン、ストーンズ、エルビスなどの50,60年代で殆どが埋め尽くされる
そんな雑誌でした。

そんな雑誌だったんですが、先日のベーシストランキングではその価値観にかなり変遷が見られたと言えます。

今までの評価軸とかなり違う観点でのランキングを発表し、あのRolling Stone誌が!?と洋楽ファンの間では衝撃が走ったわけです。

そんな中、通算3度目オールタイム・ベストアルバム500を発表。
その内容が、驚くべきものだったのです。



1,2回目はどうだったの?

初めてこのランキングが行われたのは2003年。
2回目は1回目とほぼ変わらないメンツで少しだけ改訂され、2012年に行われました。

共にTop10のアルバムは変わりません。以下の通りです。

1. The Beatles - Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band
2. The Beach Boys - Pet Sounds
3. The Beatles - Revolver
4. Bob Dylan - Highway 61 Revisited
5. The Beatles - Rubber Soul
6. Marvin Gaye - What's Going On
7. Rolling Stones* - Exile On Main St.
8. The Clash - London Calling
9. Bob Dylan - Blonde On Blonde
10. The Beatles - The Beatles

ビートルズが4枚、ディランが2枚、60年代7枚、90年台以降0枚と、すがすがしいまでの懐古厨。保守の中の保守です。ほかの年代聴いてるのか?

Top10以外でも保守中の保守で、以下がランキング全体での年代割合です。

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どちらも~70年代が過半数を占めます。
2003バージョンなんて50年代が29枚も選ばれていますがこれは相当懐古厨じゃないとできません。
50年代はアルバムで一つの作品という考えがまだ生まれていないので、よほどの懐古厨じゃないと名盤には選出しないのです。


今回の上位は?

さて、そこで今回発表されたランキング、Top10がこちらです。

1. Marvin Gaye - What's Going On
2. The Beach Boys - Pet Sounds
3. Joni Mitchell - Blue
4. Stevie Wonder - Songs in the Key of Life
5. The Beatles - Abbey Road
6. Nirvana - Nevermind
7. Fleetwood Mac - Rumours
8. Prince - Purple Rain
9. Bob Dylan - Blood on the Tracks
10. Lauryn Hill - The Miseducation of Lauryn Hill

ほぼ総入れ替えと言っていいほどに変わりました。
ビートルズが1枚、ディランも1枚、60年代2枚、70年代5枚、90年台以降2枚と、保守的とは言えないランキング。
どうしたんだRolling Stone誌!

まあ70年代が多い時点で革新的かと言われたら微妙ではあるんですが、あれだけ60年代厨だったいままでのRolling Stone誌と比べると相当新しく見えます。

今回のTop10で選ばれたアルバムの、前回2012年のランキングでの順位は以下の通りです。

1. Marvin Gaye - What's Going On 前回6位
2. The Beach Boys - Pet Sounds 前回2位
3. Joni Mitchell - Blue 前回30位
4. Stevie Wonder - Songs in the Key of Life 前回56位
5. The Beatles - Abbey Road 前回14位
6. Nirvana - Nevermind 前回17位
7. Fleetwood Mac - Rumours 前回25位
8. Prince - Purple Rain 前回72位
9. Bob Dylan - Blood on the Tracks 前回16位
10. Lauryn Hill - The Miseducation of Lauryn Hill 前回312位

このように、ランク外だったものもなく、一つを除いて全て100位以内にいたアルバムではあるので、今までも評価されていたことは間違いなくはあります。
ただ、それまでTop10の変更が全くなかったことを考えると、驚くほど変わっているのが分かると思います。

逆に、今までのTop10の今回での順位は以下の通りです。

1. The Beatles - Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band 今回24位
2. The Beach Boys - Pet Sounds 今回2位
3. The Beatles - Revolver 今回11位
4. Bob Dylan - Highway 61 Revisited 今回18位
5. The Beatles - Rubber Soul 今回35位
6. Marvin Gaye - What's Going On 今回1位
7. Rolling Stones - Exile On Main St. 今回14位
8. The Clash - London Calling 今回16位
9. Bob Dylan - Blonde On Blonde 今回38位
10. The Beatles - The Beatles 今回29位

目立つのは、ビートルズとディランの順位が急落していることでしょう。
どうしたんだろう?ポールに嫌がらせでもされたのか?

冗談はさておき、ロックの順位が落ち、他のジャンルのものの上昇が見えます。


ランキング全体の特徴

ランキング全体の特徴として、ラインナップが激変し、大幅なヒップホップ増加と、ポップスの見直し、ロックの減少が挙げられます。
前回のランキングでは、ヒップホップの最高順位はPublic Enemy – It Takes a Nation of Millions to Hold Us Backの48位でしたが、今回はなんと15位(同アルバム)。
全体でもヒップホップは大幅増で、Kanye Westなんて6枚も入ってます。

また、90年代以降のアルバムの収録数が増えています。
60年代のものは105枚から74枚へと減り、70年代のものは186枚から157枚へと減り、80年代のものは84枚から71枚へと減りました。
一方で、90年代のものは73枚から103枚へと増え、2000年代のものは40枚から50枚へと増え、2010年代のものは2枚から36枚へと激増しています。

前回は2012年で、2010年代のアルバムの大半はその時点では出ていないため少なかったのはわかるんですが、90年代が激増しているのは不思議ですよね。
それがなぜかというと…


現代音楽に影響を与えたアルバムのリスト

基本的に、のちの音楽業界に与えた影響が大きいアルバムは評価されます。今の音楽業界の中心はヒップホップです。彼らは当然、ヒップホップアーティストから多大な影響を受けています。ロックからではありません
ヒップホップが大成し始めたのが90年代なので、90年代のアルバムが増えるのは当然と言えます。

例えば、今回のランキングで22位にランクインしているThe Notorious B.I.G. のReady to Die。
東海岸のスタイルを確立した、初期ヒップホップの代表的な名盤です。

The Notorious B.I.G.は現代では半ば神格化されているほど影響力の大きいラッパーで、その代表作である本作がこのような高い位置にランクインするのは納得ですが、2012年版では134位、2003位版ではなんとランク外でした。

他にも、今までは評価が薄かった、現代ヒップホップに多大な影響を与えた90年代ヒップホップの名盤が軒並みランクインしているのです。

Top50に入ったヒップホップのアルバムの順位の変遷を見るだけでも、その評価の上昇が分かります。

27位にはWu-Tang ClanのEnter the Wu-Tang (36 Chambers) (前回387位)
37位にはDr.DreのThe Chronic (前回138位)
43位にはA Tribe Called QuestのThe Low End Theory (前回153位)
44位にはNasのIllmatic (前回402位)
49位にはOutKastのAquemini (前回500位)
50位にはJay-ZのThe Blueprint (前回252位)

全て大幅に順位を上げています。

では逆になぜ今まではこういったヒップホップのアルバムの評価が薄かったか。それは、今までの音楽史観にあります。


ロック中心史観からの脱却

それまで、Rolling Stone誌を始めとして、所謂音楽評論家たちは、ロックを中心とした音楽史観を持っていました。

しかし、ロックの時代はとっくに終わり、今の音楽の中心は完全にヒップホップに取って代わられています

理由については以前シリーズもので書いているのでそちらをご覧ください。

今までのランキングでは、そのほとんどが白人男によるロックで埋め尽くされており、多様性は全然なく保守的でしたが、今回のランキングでは明らかにそこからの脱却が図られ、多様性を重視し、かつロックが衰退しヒップホップ隆盛している現代の音楽史観に基づくランキングになったと言えます。

実際、今までのランキングでは、トップ50のうち黒人のものは12枚、女性のものは1枚でしたが、今回のランキングでは、黒人のものは24枚、女性のものは7枚(Fleetwood MacとThe Velvet Underground & Nicoをカウントすれば9枚)と大幅に増えています。

音楽評論家はほとんどが金持ちの白人、しかもおじいちゃんです。どうしてもロックを中心に据えるのは仕方のないことでしょう。
しかし今までは明らかに過剰でした。

今回、ヒップホップのランクイン数は3倍になり、ビートルズはトップから陥落かつ軒並み評価を落としました。これは、Rolling Stone誌のロック中心史観からの脱却そのものであり、現代の中心であるヒップホップをより考慮した新しい音楽史観の提案と言えるでしょう。


BLMの影響

個人的には、その背景にはBLMも絡んでいると思います。

今までのランキングでも高い位置にランクインされていたアルバムで、今回評価を落とさなかったアルバム。
特に一位の、Marvin GayeによるWhat's going on。これは初の黒人によるコンセプトアルバムと言われるもので、BLMの原点ともいえるアルバムです。

そのほかにも、19位のTo Pimp a Butterfly、32位のLemonadeなど、BLMに関するアルバムの評価が高くなっています。

ヒップホップってのは、黒人が中心の音楽シーンであり、弱者に寄り添う音楽でもあるので、黒人が逆境を跳ね返すような内容のものが多いです。
なのでそもそもヒップホップにBLM的な文脈がのることは非常に多いんですが、個人的には、ヒップホップ中心史観への切り替えに加えて、昨今のBLM運動を意識して価値観をRolling Stone誌が変えたのかなと感じました。



私の感想

さて、Rolling Stone誌が大幅に内容を変更したランキングを発表するのはベーシストに次いで二回目です。

ベーシストランキングの時には否定的な評価を下しましたが、今回のランキングに関しては大賛成です。

私は、今までのランキングがあまり好きじゃありませんでした。
Top10のうち4つビートルズって。好きですけど流石にやりすぎですし、ヒップホップが音楽シーンの中心となって久しいのに明らかにロックに寄りすぎでした。

今回、音楽史観がある程度ヒップホップ寄りにはなりましたが、完全に入れ替わったわけではなく、ロックのアルバムも普通に何枚も入ってます。評価を上げたものも多いです。

例えばRadioheadのKid A。前回67位でしたが今回は20位です。David BowieのStation to Station。僕が最も好きなアルバムですが、前回324位から今回は52位です。
質の良いロックアルバムは評価を上げているんです。

逆に、古いロックが以前のランキングでは高すぎました。Robert JohnsonのThe Complete Recordingsなんて、30年代の録音テープをまとめただけでアルバムとして意識して制作されたわけではないのに22位でしたからね(今回はランク外)。
他にもビートルズに影響を与えたブルース歌手のMuddy WatersのThe Anthology、要は無茶苦茶に古い歌手のただのベスト盤が38位(今回483位)、ビートルズのオリジナルアルバムですらない編集版が53位(今回197位)、ローリングストーンズが初めてオリジナルアルバムを収録しました!ってだけのアルバムが116位(今回ランク外)と、ひいきが過ぎました

それに比べたら今回のランキングは現代の音楽シーンにより適合していますし、納得感は強いです。
正直Top10に一個もヒップホップがないのはどうかと思いますが、まあ次回もしランキングが改訂されれば確実に一つは入るでしょう。

しかしもうこれでRolling Stone誌が保守的だなんて言えなくなるかもしれないですね。
それはそれで寂しいかもしれない。

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