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タバコ

あなたの匂いはすぐわかる。

昔から嗅覚が優れているけれどそうじゃなくて。
探してなくても。
あ、あなただ、
って勝手に身体が反応するの。

汗とタバコと柔軟剤が混ざった香り。

あんなに大嫌いだったタバコも、
あなたのせいで
前ほど嫌じゃなくなっちゃったし。

ね、すごい影響力でしょう?
気づいてるの?
私があなたにこれほどのめり込んでること。
確信犯なの?

でもね、本当はタバコ、やめてほしい。

だって死んでほしくないの。
年老いてく私をできるだけ見ていてほしいの。
なのになんでだろう。
吸ってるあなたはやっぱりかっこよく見えて、
似合ってて、
すごく様になってるの。

あー会いたい。
あなたの吸ってるタバコを取って
私がそのままくわえてやりたい。

絶対に怒るでしょうね。
叱られちゃう。

タバコは吸わないほうがいいよ、
なんていつも言ってくるくせに。

あなたのせいでもう嫌いになれないんだよ。
今度教えてあげようかしら。
やってる事と言ってる事が矛盾してるわよ、
って。

多分困った顔して目をそらすでしょう。

ねぇ、会いたいよ。
今何してるの?

たまに人が通り過ぎると
振り向いてしまうことがあるの。
あなたとね、
似てる匂いがしたから。

同じタバコの匂いなのかしら。

もし、
あなたが私の前から消えていなくなる時がきたら。
せめてそのタバコの種類を教えてください。
あなたの匂いがかげなくなるのは嫌だから。

私の安定剤みたいなものだもの。

その時になったら私も、
子供の頃あんなに嫌悪してたタバコを
吸ってしまうのかな。

貴方と同じ匂いになりたい
っていう気持ちのせいで。

だって。
もう依存してるの。

汗とタバコと柔軟剤が混ざった匂い。

いつかあなたの胸に飛び込んで
肺に入らなくなるほど大きく息を吸うわ。
あなたの匂いで窒息できたらいいのに。

前にあなたの服を借りたでしょう。
洗ってしまうのがもったいなくて、
洗濯機に入れられなかったの。

匂いが消えてしまうでしょう。
私の匂いと混ざってしまうでしょう。
それはそれで嬉しいのだけれど。

私、変態みたい?
そうかもしれない。

でもしょうがないの。
洗濯物を取り込んだあと、
本当に匂いが薄れて消えてしまった時。
あの絶望感。

私の前からいなくなっちゃった。
そう思ったの。
すごく、
すごく悲しくなった。

さっきまで隣にいた気がしてたのに、って。
香りってすごいわね。

それでね、
思ったの。

私は恋をしているのかもしれない。
あなたに。
あなたの匂いに。

汗とタバコと柔軟剤の匂い。

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