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余談@1個目〜小学校の思い出〜

本とはまったく関係のない話をしよう。
これは私が小学校4年生の、マラソン大会で起きた出来事である。

こちらの記事にも書いたとおり、

私は子供の頃から運動がひたすら苦手だった。もちろん走るのも遅かった。

マラソン大会は、私の足の遅さを全同級生に思い知らせるには絶好の機会である。

私の学年の男子は約60人。その中で私は、40位以上になった試しがなかった。

そして迎えたマラソン大会当日。
あいも変わらず40位以下でゴールインした私。
ゴールした順に1列に並ぶ決まりになっていたため、私は列の最後尾についた。

私は当時、軽いぜんそく持ちであったため、ゴールした頃には呼吸するたびにヒューヒューとかすれた笛のような音がノドから鳴っていた。

傍目からは痛々しく見えたのだろう。
私の一つ前でゴールしていたSくんが、
「暦くん、苦しそうだけど大丈夫?」と心配して声をかけてくれた。

しかし私からしたら、大丈夫?は私のセリフだ。
なぜならSくんこそ息があがり苦しそうな呼吸を繰り返しており、顔も真っ青だったからだ。

さらにそこで、私の一つ後ろでゴールしたTくんまで顔面蒼白であったものだから、3人でお互いの栄誉を讃え合い、お互いの苦しさを共有した。

「ぼく、産まれたときから心臓が悪くてさ。激しい運動をすると、どうしても心臓が痛くて」

そう話したSくんの左胸には、かなり大きな手術痕があったことを私は今でも覚えている。

「ぜんそく持ちだから、息が苦しいんだよね。少し走るだけですぐに息があがっちゃって」

私も恥ずかしながら自分の事情を話した。だから息苦しそうだったのかーと2人が労ってくれた。

「そっか。じゃあ3人とも、それぞれ身体に負担があるのにここまで頑張ったんだね。おれたちは頑張ったよ!」

そう言ったのはTくんだ。彼の笑顔を合図にしたように、私たち3人は笑い合った。

遅くたっていいじゃないか。
身体が辛くてもいいじゃないか。
こうしてゴールしたのだから。
私たちは"頑張った"のだから。

「Sくんは、心臓に痛みを抱えて。暦くんは、ぜんそくの息苦しさを抱えて。そしておれは、3つの口内炎を抱えて。それぞれに事情があったわけだしね」

「えっ」
「えっ」
「えっ?」

私とSくんの笑顔が、見た目は変わらず、中身が作り笑いのそれへと変貌を遂げた。

Tくんは相変わらず爽やか極まりない笑顔を浮かべている。

彼の3つの口内炎は、彼が今覗かせている並びのいい歯と同じくらい白く輝いているのだろうか。

爽やか極まりない笑顔だけでは飽きたらず、彼は右手で力強くサムズアップした。

私とSくんは、右手で力強く拳を握った。

今にして、その拳がTくんにはガッツポーズに見えていたことを祈るばかりである。

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