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城山文庫の書棚から036『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』佐々木実 講談社 2019

実に面白かった。宇沢弘文と言えば白髭の仙人みたいなお爺さんのイメージが強かったが、一高時代はラガーマンだったという若き日々のエピソードを知り、この人の魅力に触れる。

東大のマルクスゼミで不破哲三と同窓だったとか、チョムスキーと一緒にベトナム反戦運動をしてたとか。アメリカで華麗な業績を積み、ノーベル経済学賞に近づいたが、帰国後は水俣病や三里塚闘争など環境問題、土地問題の解決に奔走する闘う経済学者だった。

「近代経済学では、人間を損得の計算をする機械とみなします。そこには一人ひとりの人間の心がありません。(略)経済学の原点は、人間の心を大事にすること、一人ひとりの生き様をどのように考えていくかなのです。そのために必要なのが“社会的共通資本”です。」

リーマン・ショック直後に憤怒を露わに語った晩年の宇沢の言葉が、彼の経済学そして哲学を端的に表していると思う。若き日に医者を志したこともある宇沢が最後にめざしたのは、行き過ぎた市場主義経済に踊らされる社会の病を治癒することだったのだろう。