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城山文庫の書棚から032『社会システム・デザイン 組み立て思考のアプローチ』横山禎徳 東京大学出版会 2019

社会システム・デザインの第一人者、横山先生が「原発システム」の検証を例にとって組み立て思考の枠組みとそれに基づくアプローチとは何かを平易に解説する。

本書の前提は、原発は推進であれ、反対であれ、マネジメントしなければならないという厳然たる事実である。特に陥りがちなのが反対派と推進派の感情的な応酬だが、それを続けても何の解決にもならない。課題解決の前提として、課題設定能力の不在が問題だと横山先生は看破する。

原発を社会システムとして捉えるならば、現状は何らかの悪循環が生じているはずだ。安全神話や政官財の癒着(原発村)がそれに当たる。悪循環を発見し、良循環に転換するための方策を考える。そこには感情論の入り込む余地はなく、冷徹な思考が求められる。

複雑な社会システムは「技術のロジック」と「社会の価値観」の最適なバランスが求められる。これらを一体として議論しないことが、原発を巡る推進派と反対派の対立が一向に収束しない原因だと横山氏は指摘する。

著者は冒頭で原発の是非について自身は「賢い日和見」でありたいと述べている。現状の原発政策に対して容赦ない批判を浴びせる一方で、現実的な代替案なく廃止を唱えても、かえってなし崩しの原発再稼働を助長するだけだと手厳しい。常に最新の状況を直視して分析し、思考停止に陥ることを避けるという科学者の態度だ。

事態の収拾には多様なステイクホルダーを束ねる統合能力を有する人材が求められる。いわゆる「専門家」ではなく「スーパー・ジェネラリスト」がその任に相応しい。原発問題に限らず、プロジェクトマネジメントに求められるのも、正にそういった資質ではないか。