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きみのおめめ ある6月の朝に #6

白いカーテンの隙間から、遠慮がちに光が差し込んでいたのを覚えている。
窓から見下ろした道路に、黒いラブラドールがいた。
4時間ほど寝たらしい。時計は7時を過ぎたところだった。
病院は細い路地に囲まれていて、道路の半分ほどが影に覆われていた。犬は影の落ちた道を悠々と歩いている。
等間隔で揺れる尾を見ながら、ふわふわと体が浮きそうになった。まるでリアリティがない。病室の天井から私が私を盗み見ているような、そしてその私を違う私が見ているような、とにかく落ち着かない気分だった。

数センチほど窓を開けた。
外を見ると、東の道路に伸びる白線の一部が朝日に照らされ輝いている。ガラスを砕いて散りばめたようなちいさな光が舞う。ちちち、と鳥の声がちいさく聴こえた。木の匂いがする。手を添えたアルミサッシはひやりとした。かたり、と音を立て艶やかに光る。
隙間から入ってきた渇いた風に頬を撫でられ、私はやっと朝を迎えた。


6月の初夏、娘の産まれた日の朝の話。

すごくすごく喜びます!うれしいです!