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小説

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小説が繋ぐものを私なりに繋いでみました。初めに書いた「現在」を読んでみてもらえると嬉しいです。
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#春

春は一時間

⑴ 「髪、色綺麗だね」 「ほんと?ありがとう」 はしゃいだ声に同じような声で返し、高野涼香は彼女から目をそらす。春のこんなやり取りは、正直面倒くさい。 大学に入学してすぐは、どの授業でもオリエンテーションのようなものが行われた。90分よりも早く済んでしまうことが多く、この教室でも30分の空き時間を持て余した一年生が固まりつつ散らばっていた。 「昼、みんなで食べよ!」 誰かの声にうんざりとする。もう、今日は一人になりたい。でも、この場を抜け出すとなると何か理由が必要だ。 「ね