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⑴ 都心の大型書店は平日でも賑わっていた。書店の賑わいは、穏やかな静けさに満ちている。西山涼が好きな環境音の一つだ。 『集中して探していい?』 隣を並んで歩く友人に問いかけると、彼は表情を変えることなく頷いた。書店に誘ったのは涼だが、別行動はお互いに想定内だった。 『朝陽君もこのあたり見る?』 二宮朝陽が首を傾げ、涼が持つノートとペンに手を伸ばした。 『今日は見ない。適当にいるからごゆっくり』 朝陽は左右の髪を耳に掛けると、さっと向こうに歩いていった。鈍く光る補聴器がよく見