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【形成外科ローテ前必読!】初期研修医が知っておくべき基礎知識とオススメ本

■自己紹介

 みなさんこんにちは。東京都の順天堂医院形成外科に所属する市川佑一です。今年で形成外科8年目、病院では形成外科の中の再建外科という分野を中心に従事し、院外では全国の若手形成外科医が医局の垣根を超えたネットワークを築くための団体”NUPS”を運営しています。

 今回は、研修医の間に形成外科をローテートしてくれる皆さんに、形成外科を回る前の心構えや必要な知識など、事前に知っておくと役立つ情報を提供できればと思います。それではよろしくお願いします。

■事前に押さえておくとローテーションが楽になる形成外科の常識と他科志望の研修医に将来役立つ形成外科の知識

−形成外科って実際どんな科なの?−

 さて、そもそもみなさんは形成外科にどういうイメージを持っていますでしょうか?
 なんとなくは知っているかと思いますが、具体的に形成外科について説明できる研修医の先生はほとんどいないと感じます。

 かくいう私も、学生の頃は某大手美容外科のコマーシャルの影響で形成外科=美容外科だと思っていましたが、実際に研修医となり一緒に仕事をすると、実は形成外科はとてつもなく広い領域に関与していることがわかり、それをきっかけに興味を持ちはじめました。

 そこで、まずは形成外科を身近に感じてもらうために、形成外科を表現するに適したみなさんに馴染みのある言葉を引用して説明したいと思います。

 まずひとつめは「ゆりかごから墓場まで」です。これはイギリスの社会保障制度を表した言葉ですが、形成外科が対称とする患者の年齢層はまさにこれです。

 例えば乳児の代表的疾患としては、唇が裂けて生まれる口唇口蓋裂、耳の先天異常(副耳・小耳症)、四肢の指の余剰や癒合(多指症・合指症)など様々な疾患があります。

 ご高齢の方の代表的疾患としては、おしりなどの床ずれ(褥瘡)、上瞼が垂れて前が見えなくなる眼瞼下垂、動脈硬化や糖尿病が原因で足が壊死する下腿潰瘍などこちらも様々な疾患があり、本当に対象となる患者は老若男女を問いません。


 次に形成外科を表現した言葉はこちらです。それは「頭の天辺から足のつま先まで」です。みなさんも一度は聞いたことがある慣用句と思いますが、まさに形成外科の為に生まれた言葉と言えるでしょう。

 例えば私たちは手指・趾指の爪など指先の疾患もみますし、運悪く手指が切断された場合などはその欠片を元に戻す再接着手術や手の母指を失った人に足の母趾を移植するマイクロサージャリー手術等を行います。

 体幹の疾患としては、乳がん術後患者の乳房を作り直す乳房再建手術やお臍の変形を直したりもします。頭の天辺はというと小児の頭蓋骨の変形(先天性頭蓋早期癒合症)を治したり、禿髪(髪の毛のない部分)を手術で消したりもします。

 また眼窩底骨折や頬骨骨折といった顔面骨骨折や舌癌切除後の舌欠損を体の他の部分で作り直す再建手術なども頭部の疾患となります。

こうした「ゆりかごから墓場まで」「頭の天辺から足のつま先まで」という言葉からも形成外科の疾患の多様性がわかると思いますが、これらすべてに共通することがあります。それは直接命に関わる疾患は少ないけれど、患者の人生のQOLに大きく関わる疾患ばかりということです。

 例えば、唇が割れたままだとか、指がくっついたままといったお子さんは、他の子と同様に無事に社会に出ていけるでしょうか。乳がん術後で片側の乳房がない状態の女性が、気兼ねなく温泉やプールなどの公共施設に行けるでしょうか。

 まだまだ多様性を受け入れられない日本社会の現状ではなかなか難しいですよね。そこで、わたしたち形成外科がこうした体表や外観に大きく影響する疾患を担当し、患者のQOLを向上させる外科として世の中に存在していると考えていただければと思います。

少々前置きが長くなりました。

 もちろん研修医のみなさんはこうしたことは詳しく知らずに形成外科をローテートいただいても全然かまいません(注:後述しますが形成外科志望のレジデントは少し異なります)。むしろ研修しながら「ふむふむ、あの先生が言っていたのはこういうことか」と実感して、いろいろな種類の手術を楽しんでもらえればと思います。

−他科志望の研修医に将来役立つ形成外科の知識−

では、これから形成外科以外の科、特に外科系や救急系に進む予定の研修医の先生に、形成外科ローテート中に学んでほしい大事なところは何でしょうか?

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