先行公開・異世界転生モノ

ノベルアップ+に初の異世界転生モノを連載しようと試みています。
とりあえずある程度書き溜めてから投稿しようと思っていますが、とりあえずプロローグが完成したのでnoteで先行公開をしてみようと思います。
ノベルアップ+に公開したらまたnoteで報告いたします。
タイトルも仮なので後に変える可能性大です。
ではでわ。


『俺は異世界が嫌いだ』

勇者が帰ってきた。たった一人で世界の平和を土産に。
国民達は歓喜していた。魔王に脅かされて過ごす日常とさよならできるからだ。
しかし民は気付かないのだろうか、勇者のあの目に。
冷めた目つき、事を終えた安堵感ではない。
英雄と称えられるであろう彼が、なぜあんなにも無関心で人ごとのようにいられるのか。
それを知るのは勇者本人と王女のアラベラだけだった。

「やり遂げましたね、ヒノ」
用意された豪華な部屋に入り、ベッドに寝転んでいた勇者に声をかけるアラベラ。
ヒノと呼ばれた勇者は相も変わらず冷ややかな目つきで不機嫌そうな表情をしていた。
「パーティにはまだ時間があるぜ。王女様が勝手に抜け出していいのかい」
起き上がりもせずに返事する。王家に対する無愛想な態度にアラベラは怒りを見せず、むしろ心配そうに見守っている。
「あなたが以前話してくれたことを信じるのならば抜け出しもします。なんとしてでも止めなければなりませんから」
アラベラの視線がヒノから身の回りに移る。武器類は見当たらない。
城に通された際に王女の命にて彼が持っていた武器やそれに値するモノは全て兵士に没収されていた。
「入念なこった。王女様に話すんじゃなかったと今更後悔してるよ」
ため息をつきながらやっとベッドから降りてアラベラに近づくヒノ。
彼はまだ20歳そこらの青年だが、妙に落ち着いた話し方と鍛え抜かれた体によって傍から見れば老練の傭兵だ。
対してアラベラはまだ年端もいかない小柄な少女でありながら、近寄ってくるヒノの圧にも屈さずしっかりと彼の目を睨みつける。
「あなたを監視しなければなりません。この世界のために。あなたが取り戻してくれた平和のために」
「勝手な話だ」
「勝手はあなたのほうです」
アラベラが合図をすると武装した兵士達がぞろぞろと部屋に入ってくる。
「あらら。魔王の次は勇者を討つってかい?」
「ふざけないでください。あなたを護るためです」
さらにアラベラが合図をすると兵士達が銃を構えヒノにゆっくりと近づいていく。
待った、とヒノが叫ぶと両手を挙げて無抵抗の意を示す。
「まいった。俺の負けだ」
だが兵士達は構えを解かない。
「手荒な事はしたくありません。しかし我々はあなたを手放すわけにはいかないのです」
アラベラが力強く説得する。対照的にヒノは力なくため息をつく。
「はいはい。頼りにされて嬉しいです王女様」
兵士がヒノを取り押さえようとしたときだ。一番近くにいた兵士の意識が瞬間、途切れる。手を下ろすと見せかけて放たれたヒノの掌底が兵士の額をまっすぐ打ち抜いたのだ。
兵士が気を失うことはなかったが、目くらましには十分な打撃だった。
周りの兵士達もあまり突然のことで思考の時間が止まってしまう。
ヒノはそのわずかな秒の世界で兵士の銃を奪い取り、身軽に兵士達の合間を身を屈ませてすりぬける。
そしてアラベラの後ろを簡単にとってしまう。
「しまった!」兵士が慌ててアラベラに視線を移すとそこには妙な光景があった。
ヒノはアラベラの目を手を塞ぎ、奪い取った銃はヒノ自身の頭に向けられている。
必死にヒノの手を解こうとするアラベラだが、その手は一切動かなかった。
「ヒノ! なにをしているのです! あなたまさか・・・・・・」
「お察しの通り。銃口はあんたには向いてない」
「止めてください! あなたが望むものは全て差し上げます。だから・・・・・・だからこの世界に――」
「おい、お前ら。流血が苦手な奴が見たら目を閉じておけよ」
ヒノはお構いなしに兵士に忠告する。
「お願いします。あなたがいなくなったら。またいつこの世界が・・・・・・」
アラベラの悲痛な叫びも届かず、ヒノは語り始めた。
「俺にはどうしてもぶん殴らないといけない奴がいる。俺の運命を弄びやがった奴だ。そいつがこの世界にはいなかっただけのことだ。だからこそ俺はまた死ななくちゃいけないんだよ。またどこかの異世界へと、転生しなくちゃならないんだ。あんたにはもう話しただろ。俺の決意は変わらん」
「そんな・・・・・・でも・・・・・・」
アラベラが言葉に詰まるとヒノはまた続けて語る。
「この世界に銃があってよかったよ。比較的楽に死ねるしな。でも痛いんだぜちくしょー・・・・・・アラベラ、あんたは王女として勇者なんぞに頼らなくてもいい世界を創れ。善に溺れず、悪に騙されず、民を想え」
「あなたに・・・・・・説教なんかされる筋合いはありません・・・・・・」
ヒノの手のひらがじんわりと暖かくなる。
「すまんな。俺は異世界が嫌いなんだ。早く俺の世界へ帰りたいんだ」
ヒノにとっては何度も経験した今生の別れ。彼の涙は既に枯れていた。
「さよならだ。お前が生まれ変わったら、いつかまたどこかで会おう」
引き金にかけた指が躊躇なく滑る。
空気を切り裂くような音が響くと、アラベラの視界が明るくなる。
滲んだ世界のまま彼女が振り向くと、既にヒノの姿はなく床に血しぶきだけが残っていた。
兵士達は呆然とする者、慌てふためく者、恐怖におののく者、様々な感情が部屋の中で暴れ回っていた。
そんな中、アラベラは床に飛び散った血を抱きかかえるように手を置くと。
ヒノの赤い血に自分の透明な涙を落としていた。

そしてヒノは知らない世界で目を覚ます。

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