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21年ベスト:音楽編(ベストアルバム)
私的ベストの音楽編(ベストアルバム)です。
LP/CD/Cassetteいずれかのフィジカルで購入したものに限定して30枚チョイスしました。 ※()内はレーベル
30位 Innode - Syn (Editions Mego)
元々Radianの『Rec.Extern』がとても好きだったのでグループが分裂した時は残念だったけどこうしてInnodeとなって進化したアルバムを聴けるのは素直に嬉しい。
アルバムスタートの一音目からギアが入って徐々に盛り上がっていく感じ。
緻密に練り上げられたノイズ/エレクトロニック/ロックの現在進行形の見本のような作品。
PitaことPeter Rehbergの訃報により今年はEditions Megoにとりとても悲しい1年だったけどMegoとその関連レーベルから出た音源は永遠。
29位 Slow Crush – Hush (Church Road Records/Quiet Panic)
MBVの存在の大きさ故、自分は良くも悪くもシューゲイザーというジャンルやシーンに偏った認識を持っていたように思う。
今年は幾つかの要因がありそうした認識を見つめ直し、改めてそう呼ばれる音楽群の多様性や現代性に気づけたのは収穫だった。(過去作も良く聴いた。)
本作はそんな一年の象徴的作品である一方、彼らは轟音美麗で歌詞カード無しにはリリックが聴きとれないある種MBV直系でもある。
28位 Black Midi – Cavalcade (Rough Trade)
10年代後半から興隆した英国のロックシーン、特にサウスロンドン周辺の(広義の)ポストパンクと称される音楽の中でも異彩を放つBlack Midi。
多様な音楽のミクスチャーであり、今作は特にプログレ的要素やソングオリエンテッドな志向が強調されているように思うけど、即興から緻密な編集による音作りへ変化していった結果としてこのような音が鳴ってる所が面白い。
メンバーの一人が健康上の問題でほぼ欠けているという状況下でこの威力は流石。
27位 Moor Mother – Black Encyclopedia Of The Air (Anti)
サウンドの奇抜さよりも詩情を優先した結果、Moor Motherの伝道師的な音楽性をより感じられる作品に。
聴き始めるや否や、まさにエンサイクロペディアのようにリリックとサウンドが繰り出され、気づけばいつの間にか聴き終わっている。
26位 Dry Cleaning – New Long Leg (4AD)
クールで詩的なリリックを読み解くなら別としてこのバンドが日本でも相応に人気なのは少々不思議な程渋い気もする。
印象的で格好良いギターリフとバンドの佇まいのヒップさ故か。
デビューEP以降、彼らには次世代のSonic Youth的存在になり得るのではないかとの期待も抱きながら、別にこのアルバムで終わってしまっても構わないと思わせるクールな作品。
25位 Sylvie Courvoisier / Mary Halvorson – Searching For The Disappeared Hour (Pyroclastic Records)
毎度ながら唯一無二のMary Halvorsonのギターの良さは言わずもがな、Sylvie Courvoisierのピアノも無茶苦茶良い。
互いが曲を持ち寄り二人の超絶演奏が即興で奏でられるのだけど前衛的というよりは優美さが勝っている。
歪さも至る所に仕掛けられているけどメロディアスなのが秀逸。
因みにジャズはThumbscrewやAnna Webberの作品も良かったけど全体的に今年も余り聴けなかったと反省。
24位 Caterina Barbieri – Fantas Variations (Editions Mego)
アルバムタイトルそのままにCaterina BarbieriのFantasを超豪華なメンツ(Lyra Pramuk、Bendik Giske、Kali Malone、Kara-Lis Coverdale等)が再構築、多彩なバリエーションで魅せていく作品。
そこらのエスノ・エレクトロニックアルバムならJay Mittaの1曲だけで薙ぎ倒せそうな気がする。
Innodeに続き、Editions Megoのリリースからのチョイス。
23位 Alina Kalancea – Impedance (Important Records)
初めて聴いたルーマニアのアーティスト。
ヒプノティックで呪術的ビート、重めのヒスノイズが強烈な電子音楽で、年始に聴いた後寝かせて年末に向けヘビロテに。
聴けば聴くほど建築的と言うか空間的サウンディングの格好良さに気づかされる作品。
22位 Francisco Meirino – A New Instability (Helen Scarsdale Agency)
ローザンヌの剣道道場における男女の発声や竹刀がぶつかり合う音がノイズドローンに溶け込んである種ドキュメンタリータッチで展開し、エンディングを迎える。
心理的な不安を煽るような暴力的エッセンスを持ちつつどこかユーモアやポップさも感じ取れる魅力的な作品。
Francisco Meirinoの作品の中で過去一嵌った作品。
21位 Bendik Giske – Cracks (Smalltown Supersound)
ノルウェーのサックス奏者であるBendik Giskeは今年大活躍で、年初にリリースされたPavel Milyakovとのコラボレーション・プロジェクトも良くてどちらを選ぶか迷ったけどソロのこちらの方を。
電子機器による共鳴/ループとサックスのコラボレーションが生むミニマルで酩酊感を誘うエクスペリメンタル・サイケデリアサウンドがただ只管に格好良い。
20位 BadBadNotGood – Talk Memory (XL Recordings)
前作『Ⅳ』(大好き)の延長でもっとゲストボーカルを多用すると思いきやここに来てのインスト。
Arthur Verocai、Laraaji、Terrace Martin、Brandee Younger等のメンバーをバックに従え、ジャズに立ち返りつつも即興に重きを置き、プログレ的な格好良さが倍増。
クロスオーバージャズが苦手な人にこそ聴いてもらいたい。
19位 Klein – Harmattan (Pentatone)
クラシックレーベルPentatoneから出たKleinの新作。
2019年の『Lifetime』も傑作だったけど、本作はクラシックからジャズ、エスノエレクトロニック、アンビエント、ドローンまで呑み込んで更に先行く意欲作。
ウェールズのシンガーCharlotte Churchをフィーチャーしているのもジャンルの越境/クロスオーバーを意識してのことか面白い。
18位 picnic – picnic (Daisart)
Daisart主宰 JとC Minusの MdoとのプロジェクトPicnicによるセルフタイトル・アルバム。
アンビエント/エクスペリメンタル界隈の今年の良質な収穫。
繊細でメランコリックな音のテクスチャーが秀逸で単純に気持ち良い音の次元を超え美麗なサウンドスケープを描き出すことに成功している。
DJ Paradise、Dntel、The Humble Bee、Huerco S.のリミックス収録。
17位 Yu Su – Yellow River Blue (Music From Memory)
初っ端、Grimesのような軽やかなポップさから始まるけれど、作品の本質は黄河をタイトルにしていることからもわかるとおり、悠久なアンビエントやオリエンタリズム。
楽曲毎にダブやハウスのビート・リズムも取り入れていて、最初から最後まで飽きさせないバラエティに富む構成も良い。
2020年代のニューエイジミュージックであり、優れたダンストラック集。
16位 Little Simz – Sometimes I Might Be Introvert (Age 101 Music)
先行シングルの余りに堂々としたサウンドっぷりに「グラミー獲りそう」みたいな感想を抱いてしまい正直ピンと来なかったのだけど、アルバム全体聴いて印象が変わった。
タイトル通り、時に内省的にもなるこのアルバムは剛と柔、強と弱、喜と怒、哀と楽等の塩梅がバランス良く、アルバムトータルとしての完成度が高い。
とにかく主役であるLittle Simzのラップ/フロウの安定感が凄いし、InfloやCleo Solが絡んでいる、すなわちSault的なエッセンスも横溢してるわけでその辺りの角度から見てもサウンド的に間違いないアルバム。
15位 Nala Sinephro – Space 1.8 (Warp Records)
Warpと契約を果たしたマルチミュージシャンNala Sinephro待望のデビュー・アルバム。
フォーキー且つ瞑想的で穏やかなサウンドが作品全体を満たし、UKジャズのエレガンスさが結晶してる感じ。
Nubya Garcia、Ezra Collective、James Mollison、Eddie Hicks等の協力のもと、モジュラーシンセ・ペダルハープ等を駆使した美しきモダン・スピリチュアル・サイケジャズ。
14位 The Goon Sax – Mirror II (Matador)
Go-BetweensのRobert Forsterの息子、James Harrisonを中心とするブリスベンの男女トリオGoon Sax。
時にThe Pastelsばりの脱力男女ツインボーカルをかましてくるインディー・ポップ、ローファイ・パンクが完全にツボ。
中心メンバーは裸のラリーズや灰野敬二の影響も受けていると公言してるけど実際の所はよく分からなくてその辺もなんか好き。
13位 Buffalo Daughter – We Are The Times (Musicmine)
2017年の中原昌也と共演したセッションからスタートしたというBuffalo Daughter久々の新作。
悲観も楽観も超えて「We Are The Times」と言い切ってしまう所にある意味振り切ったポジティブさは感じるものの、やはり中盤以降は「ツイン・ピークス The Return」に大きな影響を受けている(?)と言うとおり不穏で混沌な感じに堕ちていってしまう。
街角を曲がると暗く哀しげな何かが潜んでたかのようなアルバム。
12位 Tirzah – Colourgrade (Domino)
前作も年間ベストの1枚だったTirzahの2nd。
引き続きMica Levi(Micachu)プロデュースによる本作は2010年のHype Williams登場から10年経過して辿り着いた境地と言うか、より低温でよりエクスペリメンタルなサウンドに。
素材感を活かすというか、もはや調理(加工)してない素材をそのまま出されてるような生々しさが素晴らしい。
11位 Anne Guthrie – Gyropedie (Students Of Decay)
フレンチホルン、フィーレコ、エレクトロニクスを駆使するサウンドアーティストAnne Guthrieの作品。
静謐ながらも物語性に富んだ楽曲のどことなく着地点がもやっとした異物感が魅力的。
フィーレコしてる佇まいもホルン演奏している姿も何となくキマッてて自分も何か音楽作りたくなる衝動に駆られてしまう。
アメリカのコンテンポラリー・クラシック・ミュージックのパフォーマンス集団であるS.E.M. Ensembleのディレクターを務めているという経歴も納得。
10位 Pino Palladino And Blake Mills – Notes With Attachment (New Deal Records/Impulse!)
このアルバムは結構の数のフォロワーの皆さんが推しててそのお陰で巡り合えたと言っても過言でない。
歴戦のギタリスト/プロデューサーであるBlake MillsとベーシストPino Palladinoによる共作(に加えてSam Gendel、Chris Daveらも参加)。
ジャズをベースに所々にソウルやエスノなエッセンスもまぶした作風で、何より立体的な楽曲群の美しさが飛び抜けている。
Pino Palladinoの47年に及ぶキャリアの中、リーダーとしてのアルバムは本作が初というのがまた格好良い。
9位 Leila Bordreuil – Not An Elegy(Boomkat Editions)
フランス人チェリスト、サウンドアーティストLeila Bordreuilの硬派な作品。
廃墟のような地下鉄とより密室的なブルックリンのアパートの廊下で録音された2作品はジャズ、現代音楽、クラシック、ノイズまでをクールにアウトプットしている。
ここ数年、一番好きな楽器がチェロな自分としては1年に1作はこうした作品を摂取しないとダメなんだけど2曲目はピアノやサインウェイブも混じってより好みのタイプ。
For Tamioは共演経験も多いNY在住のサックス奏者白石民夫に向けたもの。
8位 Fire-Toolz – Eternal Home (Hausu Mountain)
ヴェイパーウェイブの文脈から突然変異したカオスであり、ジャンクなビデオゲーム世界を地でいく強烈で異能な作品。
従来よりも攻撃的で混沌としながらも、ジャズ/フュージョン/ブラック・メタル/アンビエントetc.が同じ地平で鳴り響き、意外な程に整合性のある多様な音楽性を感じさせるところにアーティストとしての成長を感じさせる。
毎度のことながら曲名見るだけで楽しめる(?)全25曲。
7位 Diego Schissi Quinteto ‐ Te (Club Del Disco)
タンゴには全く詳しくないけど"ピアソラの系譜を継ぐ"とか"ピアソラ以来のタンゴ革命家"とか凄い形容がされているピアニスト/作曲家Diego Schissi率いる五重奏団の作品。
本作の全ての曲のタイトルはLuis Alberto Spinetta率いるPescado Rabiosoが発表した『Artaud(73)』に収録されていた「Por」(1:44の曲)に登場した単語から採用されているらしく、強烈なSpinetta愛に溢れる作品(因みにEgberto Gismontiに捧げられた曲もある)。
「タンゴ」だとか「タンゴの破壊」だとかはさて置いて必聴の傑作。
6位 Arooj Aftab – Vulture Prince (New Amsterdam Records)
Vijay Iyerとも共演経験のあるパキスタン出身、現在NY拠点に活動する歌手/作曲家Arooj Aftabの作品。
フォーキーでアンビエント、ジャジーでダビー…。
最早グラミーにもノミネートされるArooj Aftabの歌声の力強さと優しさに心を強く打たれる傑作。
5位 Grouper – Shade (Kranky)
Grouperはもともと『Ruins』が2010年代ベストの1枚であり、今作はベストに推すつもりなく何となしに聴いたのだが、結果嵌ってこの順位…。
15年に渡る楽曲のコレクションとのことだけどどの曲も今年初めて聴いたと思えないほど自分の感性にピタリと合致した。
休息と海岸についてのアルバムらしいが、テクニカルにどうこうという話ではなくて自身の記憶にしみついてるかのような「自分のための音楽」だった。
4位 Ulla – Limitless Frame (Motion Ward)
フィレーコによる様々なノイズ、ピアノ、ギター、エレクトロニクス、それら全てが自分にとって完璧な形で鳴っている。
か細くて泣きそうになる程美しいアンビエントドローンで、5位のGrouperとセットで一生聴いていたい。
これ聴いた後、"私は自分を抱きしめる方法としてこの音楽を作りました"などと言われてしまうと言葉を失う。
3位 Space Afrika – Honest Labour (Dais Records)
一聴して年間ベスト級と確信したマンチェスターのデュオ、Space Afrikaによるアルバム。
昨年のActressの作品同様、時代を切り取るディープなアンビエントであり、2020年代に蘇ったダーク・トリップホップとも言えるかもしれない。
ザッピング、コラージュされたノイズ、ギター、ストリングスに静謐な歌声やラップ、語りが混濁していく様が途方もなく美しい。
2位 Spirit Of The Beehive – Entertainment, Death (Saddle Creek)
自分の好きな捻くれたジャンクロック要素が目一杯詰まったこの作品でフィラデルフィアのSpirit Of The Beehiveは今年一お気に入りのバンドに。
そう言えば、大好きなノイズパンクバンドのEmpath(来年アルバムが出る)もフィラデルフィアだった気がするけど、彼の地にはこういうジャンクな音楽を生み出す土壌があるのだろうか。
世間でも意外と評価されているようで嬉しい限りだけど、Empath同様、誰もフォローしてなくてもいつまでも支持し続ける。
1位 Claire Rousay & More Eaze – An Afternoon Whine (Ecstatic)
今年のパーソン・オブ・ザ・イヤーと言えばClaire Rousayしかいない。
出す作品どれも質が高かったし、遡って聴いた過去作含め、自分にとっては貴重な発見だった。
そんなUSエクスペリメンタル、ドローン、コラージュ、アンビエント界の最先端たるClaire Rousayがテキサスの作曲家More Eazeとコラボしたアルバムが本作。
Claire Rousayの今年の作品の中ではおそらく世間的評価が『A Softer Focus』の方に向くと思うけど、個人的にはMore Eazeとのコラボによる化学反応が素晴らしいこちらを推す。
アンビエントドローンもアヴァンもインディーロックも吞み込んで、ポップネス/強度/実験性/批評性/総合的センスと自分が音楽を含むアートに求めるものの殆ど全てがここに詰まってた。
【まとめ】
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