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22年ベスト:音楽編(ベストアルバム)

2022年の私的ベストの音楽編(ベストアルバム)です。

今年も例年同様30枚ピックアップしました。

(30枚選定するにあたっては、超激戦、逆転に次ぐ逆転(オレの中では)で下記Tweetをしましたが、M-1ファンとサッカーサポーターを敵に回し、9イイね)

9イイね!

なお、毎度のことながら自分は「22年を代表するアルバム」だとか「音楽史的に意義ある作品」だとか言う基準で選定しているわけでなく、単純に私個人が22年を生き抜くために必要だったアルバムを私的な感情に基づきランク付けしたものに過ぎません。

以下ランキング。
※()内はレーベル。

30位 LEYA - Eyeline(NNA Tapes)

アーティスト自身「これはLEYAの新譜ではない」と明言しているとおり、いきなりアルバムではなくミックステープ。

とは言え、ミックステープと(正規の)アルバム、そしてEPといったものの垣根は従来以上に曖昧になってきていると思っているので、その辺は深く考えず選出。

LEYAはニューヨークをベースに活動するハープ奏者兼ボーカリストのMarilu Donovanとバイオリニスト兼ボーカリストのAdam Markiewiczによるデュオ。 

今作は複数のアーティストとのコラボミックステープであり、Julie Byrne、Eartheater、Deli Girls、James K、claire rousay、Sunk Heaven、Okay Kaya、Martha Skye Murphyと言った自分の好みストレートなアーティスト達がこぞって参加。(Actressのリミックス曲も収録。)

参加アーティスト見ても想像がつくように耽美で夢想的な作品。

29位 Iceboy Violet – The Vanity Project(2 B Real Records)

本作も一応ミックステープの扱いで、尺から言えばEPなのかもしれないけど、この作品はマスト。

Iceboy Violetはマンチェスター出身のグライム/HIPHOP系アーティストで今作はSpace Afrika、Emily Glass、Jennifer Walton、Slikback、Nick Leon、Mun Sing、Blackhaine、Daemon、Orlandor、Exploited Body、LOFT(AYAの旧別名義)が参加。

シンプルながら幻惑するかのようなグルーヴ、クールでエクスペリメンタルなムード、極め付けはIceboy Violet自身のポエトリーリーディングに近いボーカリゼーション。

短い作品ながらトータルアートの完成度に魅了される。

28位   Chronophage – Chronophage(Post Present Medium) 

このご時世、シンプルでローファイなロック、パワーポップ、ガレージパンクといったものが天下を取ることはほぼ不可能だけど、インディー/DIY/ヘタウマ/ヘタヘタ等の精神のみに宿るマジックもある。

テキサス発のパワーポップ&ロックバンドであるChronophageのセルフタイトルの3rdアルバムも音楽メディアや評論家筋受けするかは別として、己のインディー愛を注ぐべき要素が詰まった名作。(その意味ではワシントン発のFlasherなんかも同様。)

「Big StarとHomosexualsの中間地点」とも形容される一見素朴ながらどこか捻くれたロックチューンの数々、中でも収録曲「Burst The Shell」は最高。

2022年を代表する音でなかろうが、私以外誰一人として年間ベストに選ばなかろうが、そんなことは気にしない。 

27位 Racine – Amitiés(Danse Noire)

スイスのDanse Noireは近年Yikii、Gabber Modus Operandi、bod [包家巷]、Aisha Deviといったアーティストの良作を多くリリースしていて大注目のレーベル。

そんなDanse Noireから今年リリースされたカナダのアーティストRacineによる本作はポストインダストリアル+ポストアンビエント+ポストクラシカル(何でもポスト付ければ良いってもんじゃない)にドローンノイズをまぶしたかのような濃厚な作品。

只でさえクールな音響を何処にでも顔を出すRashad Beckerが当然の如くクールにマスタリング。

因みにCD盤の両面シールジャケの意匠も無意味に凝っていて異形。

26位 Pot-pourri - Diary(HEADZ) 

これはアルバムなんでしょうか、EPでしょうか。

まぁそんなことはどうでも良くて、フロントマンのSawawoを中心としたオルタナティブバンドの2nd。

オーソドックスなインディーギターロックとしてもアブストラクトなポストパンクとしてもプログレッシヴなポストロックとしてもエクスペリメンタルなサイケとしても歌ものとしても秀逸と言う、"1枚で5度楽しい"作品に仕上がっている。

今年もインディーロックは欧米のポストパンク勢やポストスロウコア系を始め、刺激的な音が山程あったけど、そんな激戦の中でも邦ロックの本作は響いた。

歌詞とコーラスワークにも注目してほしい作品。

25位 Juan Fermín Ferraris ‐ Jogo(YUNTA)

Mono Fontanaの最高なアルバム『Cribas』に由来していると勝手に思っているグループCribasのメンバーでもあるJuan Fermín Ferrarisが盟友Diego Amerise(コントラバス)とPablo Bianchetto(ドラム)と組んだトリオ編成による作品。

現代音楽、ワールドミュージックとも結びついたモダンジャズだけど、あくまで芯は優しさに満ちたアコースティックジャズ。

タイトルの『Jogo』は「遊び」を意味するポルトガル語で、その名のとおりおもちゃ箱をひっくり返したような遊び心に溢れてる。

24位 Madeleine Cocolas ‐ Spectral(Room40) 

オーストラリアの音響作家Madeleine Cocolasによるアンビエントアルバム。

今年もRoom40は絶好調でこの他にも同列で大好きな作品が複数あり(TbaことNatalie Beridzeの『Of Which One Knows』とか)、どれを選ぶべきか非常に頭を悩ませた。 

決め手はやはりネオクラシカル/アンビエント/ドローン/テクノを越境するバリエーションと音の重ね方の丁寧さによる酩酊感、そしてラストの美メロのギタートラック「Rip」への偏愛か。

アンビエント系は毎年大量のアルバムが投下され、作品単位で特色を出すのが本当に難しく、ともすればありきたりなものになりがちながら、きちんと時代と共にアップデートした作品をモノにしてるところにこのアーティストのセンスの高さを感じる。

23位 Carmen Villain – Only Love From Now On(Smalltown Supersound)

Sun City Girls好きが高じてファッションモデルからアーティストに転身したというCarmen Villain。

そんな経歴や『Infinite Avenue』でジーナ・ローランズをアルバムジャケットに起用する最高なセンスだけで応援したくなってしまうという贔屓目は抜きにしても、今作ではアンビエント/エクスペリメンタルミュージックとして数段階ステップアップ。

冒頭ノルウェーのトランペット奏者Arve Henriksenをフィーチャーした『Gestures』からエキゾチックで、滅茶苦茶本気度を感じる。

Jon Hassell好きの方は必聴、そうでない方も必聴。

22位    Ellen Arkbro, Johan Graden – I Get Along Without You Very Well(Thrill Jockey) 

スウェーデンのサウンド・アーティスト Ellen ArkbroとピアニストJohan Gradenによるデュオ作品。

Ellen ArkbroはLa Monte Youngからも影響受けてる才能あるマルチ・インストゥルメンタリスト兼コンポーザーであり、1stソロ『For Organ And Brass』(私の中では通称『黄盤』)と2nd『Chords』(私の中では通称『赤盤』)から大好きなアーティストだったけど、本作で驚きなのは彼女の歌唱。

「Emily Sprague(Florist)か!」と思えるような繊細で素敵な歌声を全編で披露しているのだから畏れいる。(こんなに歌える人だったとは嬉しいサプライズ。)

クラシックとジャズを素養とするJohan Gradenのピアノやゲストミュージシャンのトロンボーン、クラリネット等の管弦楽との相性も最高で何よりも全曲メロディーの良さがずば抜けてる。

21位 Alvvays - Blue Rev(Transgressive Records) 

各種メディアや音楽愛好家の年間ベストに軒並み顔を出すアルバムだと思うけれど、自分がインディーギターポップど真ん中の本作をベストに入れるのはちょっと意外な気がする。

今の時代、インディーギターポップで賞賛を得るのは決してたやすいことでないのだけど、全曲キャッチ―で聴けば聴く程味わいが出てくる本作で彼らはそれをいとも容易く達成している。

特に冒頭「Pharmacist」はアルバム1曲目に普通持ってこないタイプの曲だし、イントロの入りからラストをぶっだぎる展開と演奏時間の潔さまで神がかかってて個人的にTeenage Fanclub『Bandwagonesque』(古い!)の冒頭「The Concept」に近しい完璧なインディーロックのオープニングだと思う。

20位 Tomberlin – I Don’t Know Who Needs To Hear This…(Saddle Creek)

Sarah BethのソロプロジェクトTomberlinの作品をがっつり聴いたのは恥ずかしながら本作が初めてだけど、1stアルバムがOwen Pallettプロデュース、その後のEPがAlex Gプロデューサーで、今作はBig Thiefのメンバー(Adrienne LenkerやBuck Meek)やCass McCombsのエンジニアでも知られるれるPhilip Weinrobeがプロデューサーという前情報だけである意味信頼できるアーティスト。

今年自分に刺さったインディーフォークと言えば、Floristのセルフタイトルアルバムと本作が2大巨頭だったわけだけど、前者がローファイアンビエントフォーク+フィールドレコーディングで長尺のアルバムを飽きずに聴かせるのに対し、こちらはよりシンプルな楽器演奏と素朴ながら強力なTomberlinの歌唱というミニマル且つ普遍的な要素で真っ向勝負に出てる感じか。

聴くたびにどんどん身体に染みてこんでくるかのようなSSW力は流石Hand HabitsやHop Alongを擁するSaddle Creekリリースと言う感じ。

19位 Jockstrap  – I Love You Jennifer B(Rough Trade) 

EP『Wicked City』の頃から待ちに待ってたJockstrap(Black Country, New RoadのメンバーでもあるGeorgia ElleryとTaylor Skyeによるデュオ)のデビューアルバム。

EP収録の大名曲「Acid」の正当進化系「Concrete Over Water」を始め、レトロなダンスチューン「Greatest Hits」、アコースティックなモンド曲「What’s It All About?」等など、期待を裏切らないオルタナティブでストレンジなポップス集となっている。

因みにIsaac Woodが抜けた新生Black Country, New Roadの方はフジロックの演奏に個人的にいたく感動したので、新作にも秘かに期待している。

18位 Wu-Lu – Loggerhead(Phantasy Sound)

サウス・ロンドン拠点のヴォーカリスト/マルチ・インストゥルメンタリスト/プロデューサーであるWu-Luによる本作は、ポストパンク(今年出たアルバムも最高だったSorryのAsha Lorenzが自身の曲の変奏のような「Night Pill」で参加していたり、black midiのMorgan Simpsonが「Times」で参加してたりするのが象徴的)もHIPHOPもジャングルもアブストラクトも全てをのみ込んだ傑作。

ベッドルームでのトラックメイキングとバンドによるスタジオセッションがセンス良くエディットされたトラック群は一時期のBeck、Tricky、RZA、cLOUDDEADといった先達のアーティストの楽曲を想起させるレベル。

特にLex Amorが参加したノイズHIPHOP「South」とLéa Sen(ボーカル)とMica Levi(ストリングス)が参加したアブストラクト・インダストリアル「Calo Paste」はこのアルバムの白眉。

17位 The Orielles – Tableau(Heavenly) 

マンチェスター拠点のThe Oriellesに対しては、ダンスポップ寄りのインディーバンドといった印象程度しか持っていなかったのだけど、本作はジャズやエクスペリメンタルミュージックへの傾倒、果てはBrian EnoによるOblique Strategies(創造性を掻き立てるためのカード手法)を利用した実験プロダクションといった野心的な取り組みにより大きくステップアップ。

実際、音を聴いてみても、Wadada Leo Smithにインスパイアされたビジュアル・スコアから派生した「Beam/s」や即興的な「The Instrument」、「The Improvisation 001」、「Darkened Corners」、「The Room」等野心的な楽曲が並んでいる。

昨年邦訳がヒットしたブラジルの小説家クラリッセ・リスペクトルの作品からインスパイアされた歌詞なども採用されているようで色んな意味で尖った作品。

今年最も進化に驚いたバンド。

16位 Billy Woods – Aethiopes(Backwoodz Studioz) 

もはやHIPHOP好きも音響好きも無視できない存在となったBilly Woodsの堂々たる大作。

今作はYasiin Bey、Ka、RZA、MF Doom等と共演してきたDJ/プロデューサーPreservationを全曲のプロデューサーとして招いた共作の形を取っていて、ジャズ的サウンドプロダクション、アブストラクトな実験性、90年代HIPHOPの持つリアリティ(こちらもアルバムが傑作だったEarl Sweatshirt同様、ピアノが効いてる)をベースにBilly Woodsのスキルフルなラップが乗ってくると言った無敵構成。

Billy WoodsのようなアーティストをSam Wilkesとブッキングするセンスでショーが実現するんだから、日本も捨てたもんじゃない。

15位 Caroline  – Caroline(Rough Trade)

ロンドンの8人組即興音楽集団Carolineのデビューアルバム。

今年聴いた新人バンドの中で一番好きかなと思えた作品。

ロンドンから次々と生まれるグループの中では最もアメリカのインディーシーン(シカゴ音楽、ポストロック、アパラチアンフォーク)やエクスペリメンタル、アヴァン・ジャズ系統のアンダーグラウンドの影響が色濃いバンドで、そこにUK式サイケデリックフォークやフリーインプロヴィゼーションの影響までもが重なって、何とも言えない複雑な音楽性を纏っている。

14位    Whatever The Weather – Whatever The Weather(Ghostly International)

Loraine Jamesの新名義Whatever The Weatherとしてのデビューアルバム。

Loraineは今や飛ぶ鳥を落とす勢いのIDM界のスーパースターだけど、今作はIDMよりもアンビエント寄り、クラブ向きというよりリスニング向きとなっていて、個人的にはLoraine James名義の過去アルバム2作以上に好み。

アーティスト/タイトル名にちなんで全ての曲名は温度(摂氏)になっていて、0℃から36℃までアーティストが感じる寒暖がボーカルや曲に込められている。

マスタリングはTelefon Tel Aviv。

13位 Caterina Barbieri – Spirit Exit(Light-years)

Important Recordsからの『Born Again In The Voltage』やEditions Megoの『Ecstatic Computation』『Fantas Variations』の頃から私的年間ベストアルバムの常連、イタリアのコンポーザー/モジュラーシンセの名手Caterina Barbieriのニューアルバム。

ベストアルバムの常連には厳しく採点することにしてる私も結局降参してこの順位。

過去作におけるテクノ、ニューエイジ、アンビエント等における実験的手法がここに来て、ポップでメロディアスな音楽に昇華していく様は単純に感動する。

Caterina Barbieriのボーカルも途轍もなく素晴らしい。

12位 Daniel Avery – Ultra Truth(Phantasy Sound)

『Drone Logic』以来まともに聴いたDaniel Averyの変化、と言うか進化に驚愕。

Ghost CultureやManni Deeによるプロダクション、HAAi、Jonnine Standish(HTRK)、AK Paul、Marie Davidson、Kelly Lee Owens、Sherelle、 James Massiahらのボーカル等を駆使して、ロック好きにこそ聴かせたいレイヴミュージック筆頭と言うに相応しいアルバム。

美メロ、静謐なフィードバック、ストイックなドラムマシン、どこを取っても文句なし。

ジャケとタイトルの印象で最初聴くの躊躇ってた自分を責めたい。

11位 Romance – Once Upon A Time(Ecstatic)

Celine Dionを料理してこんな音楽作っちゃうって天才か?

タイトル曲は2002年にリリースされたCeline Dionによるバラード曲「Have You Ever Been In Love」を解体したものらしいけど、当然そんな曲は知りません…(爆)。

とは言え、ヴェイパーウェイブとアンビエントミュージックに昇華された平行世界のAORといった風情はシニカルでも何でもなく、純粋にアーティスト名同様、ロマンチックさに溢れている。 

実は猛烈な毒を含んでいるのかも?と懐疑的になる瞬間もあるものの、そんな邪念もいつの間にか消え去っていくという何とも感動的な作品。

10位 Sam Gendel, Antonia Cytrynowicz – Live A Little(Psychic Hotline)

個人的にはSam Gendelにはこれまで然程嵌ってこなかったけれど(『Satin Doll』と Sam Wilkesとの共作だけは例外)、当時11歳の少女であったAntonia Cytrynowicz(Gendelのクリエイティヴ・パートナーであるMarcellaの妹)と自宅でほぼ一発録りで録音したという本作にはやられた。

Antonia CytrynowiczはGendelの演奏に合わせ、すべてのメロディと歌詞をその場で自然に作り上げたらしい。

Gendelの実験性と、11歳のピュアで天然なファンタジーと素朴さ(とは言えやってることは無茶苦茶高度)のミックス、即興と偶然の在り様に稀有な音楽的マジックを感じる。

これがとある夏の終わりの午後に録音されたなんて素敵過ぎるでしょ。

9位 CS + Kreme – Orange(The Trilogy Tapes)

メルボルンのロックバンドDevastationsのConrad StandishとSam KarmelによるプロジェクトがCS + Kreme。

歪んだギターノイズやヒプノティックなドラムプログラミングがローファイなプロダクションによるエレクトロニクスやボーカルサンプリングと融合し、曲毎にミニマルテクノっぽかったり、ジャズっぽいリズムを刻んでいく様が異様にスリリング。

同郷のエクスペリメンタル系コンポーザー/演奏家James Rushfordと並んでの英国フォークの至宝的SSWことBridget St.Johnをフィーチャーしてるのも反則級な技で良い…。

8位 Yaya Bey – Remember Your North Star(Big Dada Recordings)

現代R&Bの傑作を産み出す手法として、Beyoncéのような絶対的王者が世界中の最先端/レジェンド級アーティストや先鋭的アーティスト(今年の例だとKelman Duranが代表)を集めて怪物的ポップアートを編み出すという形態は勿論好意的に捉えられるべきものである一方、それとは違った戦術で闘っているアーティスト達が異なるベクトルで素晴らしい作品を産み出しているという事も忘れてはならない。

アラスカ生まれブルックリン拠点のZenizenやウェストロンドンのGeorge Rileyもそうだし、ニューヨーク出身のYaya Beyもそんな中の一人。

ソウル、ジャズ、レゲエ、アフロビート、ヒップホップを融合した高い音楽性は勿論、政治や社会問題(ミソジニーや女性地位問題等)等をテーマにキューレーターとしてのセンスもフルに発揮して作品に昇華する手腕は見事としか言いようがない。

シリアスになり過ぎない、諧謔的とも言える彼女の資質は「Big Daddy Ya」や「Keisha」のMVにもよく表れている。 

7位 Mary Halvorson – Amaryllis/Belladonna(Nonesuch)

Mary Halvorsonについても過去数回ベストアルバムに選出しているため、今回躊躇したけれど、この2枚組(と言うか正確には2つの異なる作品。但し、両者は繋がっている)は選ばざるを得ない。

まず、六重奏団構成(ヴィブラフォン、ベース、ドラムス、トロンボーン、トランペット、ギター)による『Amaryllis』については、彼女にしては比較的わかりやすい、オーソドックスジャズの体裁ながら、Halvorsonによる特徴的な実験的ギター演奏のみならず他の楽器にもそれぞれ見せ場がある。

対する『Belladonna』は『Amaryllis』の後半の流れを受け継ぎ、The Mivos String Quartet(弦楽四重奏団)のみとの共演となり、非常に美しくもモダンで尖ったコンテンポラリーミュージック。 

両作共、前衛さに逃げるのでなく、ダイナミックでエレガントで普通に聴けるジャズにもなっているという凄さよ。

6位 More Eaze – Oneiric(OOH-sounds)

昨年の年間ベストアルバムに選出した盟友Claire Rousayとの作品『An Afternoon Whine』も記憶に新しいMore Eaze。

盟友に負けじと、今年は彼女が(も)作品を矢継ぎ早に発表し、大活躍の1年だった。

そのうち、OOH-soundsからリリースされた本作はRomanceの『Once Upon A Time』と一部リンクしたかのようなロマンチックなヴェイパーウェイブと白昼夢的なベッドルームポップス(勿論お得意のオートチューンもある)が混濁した名作。

当然Claire Rousayとの共演も収録されてるけれど、個人的には米国在住の韓国人実験音楽家Lucy Liyouを迎えた曲とラスト「crii」でのミニマルハウスのような響きが素晴らしい。

5位 Moin – Paste(AD 93)

今年の私的ベストアーティスト・オブ・ザ・イヤーは何といってもValentina Magaletti(TomagaやVanishing Twin等での活動が有名なドラマー/パーカッショニスト/コンポーザー)以外に有り得ない。

インダストリアルなインプロヴィゼーション実験を経て、真にエクスペリメンタルな境地に達している傑作ソロ『La Tempesta Colorata』に加え、Yves Chaudouëtとの共作、グループとしてのBetter CornersとHoly Tongue等どんだけハイクオリティな作品に絡むんだという感じだった。

そんな彼女がBlackest Ever Blackレーベルの中心アーティストであったRaime(Joe Andrews並びにTom Halstead)と組んだユニットがMoin。

彼らの最新作である本作では、前述のソロ作にもあったポストパンク的傾向を有したドラム/パーカッションプレイにノイジー且つハードコアなギターが合わさり、乾いたドゥーム・オルタナ・エクスペリメンタルロックが見事に展開されている。

リズムの組み立てが格好良く、電子音楽ではないのに電子音楽的。

4位 Sault -  Untitled(God)/11/Aiir/Earth/Today & Tomorrow (Forever Living Originals)

年末にとんでもない5枚組(正確には独立した作品を5枚同時リリースしたものと思われる)を出したSault。(そもそも5作独立なので5枚でのランク入りはおかしい!と言う突っ込みは置いておく。)

いずれにせよ、この一連のリリースのせいで年間ベスト全体の構成が大崩れしたことは否定できない。

単純にボリューム(物理)の力で圧倒されたという部分も若干ありつつ、個々の作品のクオリティ、1作毎に微妙に異なる作品の個性、リリース形式のエンタメ性や批評性(パスワード保護での期間限定フリーダウンロード。結局、その後サブスク解禁←なんで??)といった総合力が凄い。

5作品、いずれも過剰に音を詰め込み過ぎず、アルバムによってはデモのようなラフ感を残していて、個人的に凄く好感度の高い作品群。

昨年同様、フィジカル購入限定作品のみから私的ベストアルバムを選定しようとしてた前提を崩したのは半分程度彼らのせい。

実際今回の30枚でフィジカル買ってないのこれだけだし。(まぁ来年、本作もフィジカル買っちゃう気もするが…。)

3位 Ann Eysermans – For Trainspotters Only(cortizona)

本作で初めて知ったアーティスト。

ベルギーを拠点に活動するハープ/コントラバス奏者であるAnn Eysermansによるソロ作品。

A面(2曲)における幼少期に機関車に乗った体験を機関車音(HLD51、54、55、60)とハープで表現した「Prelude For Four Diesel Locomotives And Harp」「Fuga For Four Diesel Locomotives And Harp」も圧巻だけど、B面(6曲)のボーカル、オルガン、チャイム、オルゴール、犬の鳴き声、駅のアナウンス、その他フィールドレコーディング等を幽玄・神秘的に組み合わせた楽曲群が特に素晴らしい。

Chris Watson×Alice Coltraneとか形容されるのも納得のエレジーと魔術的リアリズムが横溢するサウンドスケープは本年屈指。

2位 Nilüfer Yanya – Painless(ATO Records)

正直初回聴いた時の印象は「年間ベストに選出した前作ほどではないかも」って感じの印象だったけど、通年聴いてるうちに自分の中で熟しに熟して年末にはこの順位に到達。

インディーポップ界でのセンスにおいてやはり頭一つ抜けてる。

マスの共感を誘うポピュラーポップスとは対極にある都会の片隅で一握りの人を救うべく鳴ってるポップスがこれ。

「Stabilise」や「Midnight Sun」には何度も心の底から救われた。

流石、昔からPJ Harvey「Rid Of Me」やPixies「Hey」をカバーして公開してる(この選曲センス、私自身じゃん)だけあって、もうこれは自分が作った音楽だ!とすら思えてくる。(←錯乱)

1位 FKA Twigs – Caprisongs(Young)

自分の場合、繰り返し聴いた作品が年間ベストの上位に入るとは必ずしも限らないけれど(数回の聴取レベルでもその衝撃等から上位ランキングが確定する作品も過去幾つもある)、今年の年間リピート回数では圧倒的ナンバー1アルバム(と言うかミックステープ)であり、年間ベストにも相応しいという稀有な作品がこちら。

登場以来、英国のアーティストにお決まりの「ハイプ」扱いされることも多かったけれど、近作でその実力を証明し続けている。

本作ではThe WeekndやJorja Smith等豪華ゲストもフィーチャーしているが、あくまで主役はTwigs本人であり、見事なアートポップ/実験的R&Bを彼女の抜群の身体的能力をも用いて如何なく表現している。

冒頭「Ride The Dragon」からラストの「Thank You Song」まで序盤中盤終盤全くもって隙のないミックステープであり、一大ポップ絵巻。

まとめ

以下まとめです。

おまけ1(その他良アルバム)

以下あたりのアルバムもとても良かったのでおまけ。。。(キリがない。)

おまけ2(ベストEP)

Burial – Antidawn(Hyperdub)

既にベストアルバムにEP的なものを複数選んでるものの、これこそが真のベストEP。

冒頭の「Strange Neighbourhood」がもうヤバい。

おまけ3(ベストリイシュー/リプレス/未発表アーカイブ)

Vox Populi! – Psyko Tropix(Touch Sensitive Records)

80年代に活動したらしいフランス拠点のエスノ・インダストリアルバンドの未発表(?)アーカイブ音源。

サイケでアヴァンでたまに女性Voが入る塩梅もツボです。

裸のラリーズ – ’77 LIVE

『’67-’69 STUDIO et LIVE』、『MIZUTANI / Les Rallizes Dénudés』も再発されてるけど取り敢えず聴けたこちらを。

とうとうLes Rallizes Dénudésの伝説的なライブ音源が自分の手元に…。

リマスタリングながら音質含めいろんな意味で凄い。

Various – Sky Girl(Efficient Space)

この作品は元々CDで持ってたもののヴァイナルリプレスされたので。

フランスのヴァイナルコレクターDJ Sundae&Julien Decheryによるコレクション物。

Woody Guthrieの娘Nora Guthrieの曲とかモンドなJoe Tossini and Friendsの楽曲「Wild Dream」とかレアなトラック満載で最高。

※おまけ2とおまけ3を追記しました。(12/18)

‐END‐

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