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鼠輩(そはい)

僕はこの時代にそぐわないのか?
それとも何もないだけなのか?
また終わりのない疑問に耽ていた、カーテンの隙間から細長い光が朝を知らせる。
僕はベッドからスッと起き上がった。
軽く背伸びをして、椅子に掛けてあったアウターを着て飄々と砂浜に向かった。
砂浜には朝早いから誰もいないだがそれがいい。
氷のように冷たい砂浜にそっと腰掛ける。
波の音が何もない男の心に染み渡る。
太陽が地平線から少し顔を出している。
太陽光が海に当たる。
ガラスのように乱反射する海を見ている間だけは全てがどうでもよくなる。
この時間だけ。
両親とはあまりうまくいっていない。
彼らは僕と顔を合わせれば「学校に行け」なんて軽く言いやがる。
自分でも薄々気づいている単位が足りなくなることくらいただ、親に言われてはいった学校なんて何の面白みも無い。
何度か学校には顔を出したが、友人といえるほどの人はいない、僕には人と仲良くなる技術を持ち合わせていないからだ。親には言わなかったが学校なんてとっくにやめている。
学校なんて言わば収容所と大差ないんだ。
兄を見ているからか会社に勤めたくもない、でもだからといって自分には才能もない学もない野望もない何もない。
それでも、兄のように毎日死人より白い顔しながら、会社に向かうのもごめんだ。
でも、学校にも戻りたくはないな、妹が和気あいあいと友人と家の前で待ち合わせして学校に向かっていく姿を目にすると嘲笑する。
僕には何処までも表面上の友情な気がしてならない。
妹は僕よりも優秀で友人も多くいつでも彼女の隣は誰かが立っている。僕には誰も見向きもしない。
最近の僕は毎日魚のように素潜りをして綺麗な海を堪能している。
後は家事をして家族から人として認識されずにひっそり生きてる。
小さい頃に絵本で読んでいた{シンデレラ}にそっくりだ。シンデレラも僕のような扱いを受ける魔法使いにであってから人生が変わり王子結婚するハッピーエンド話だ。
1つシンデレラとの違いは、魔法使いが僕の前にいないことだ。
太陽が地平線から半分以上顔を出してこちらを見ている。
そそくさとアウターの袖を捲り時計を見た。時計の針は7時示している。
「まずい」ボソッと言い残し家に戻った。
まず始めに、家族を起こし朝ご飯作りみんなを送り出した。
家族は僕を家政婦か何かとだと思ってやがる。
騒々しく家族が出かける準備を済ませ各々自分の収容所にむかっていく。
みんな出て行ってから僕は朝ご飯を食べる。
今日はパンにイチゴジャムさらに色彩はるが新鮮でない野菜たちそれと珈琲だ。
僕しかいないから家の窓に海風あたり、窓枠がカタカタ鳴る。
その普段は気にも留めない音が家中駆け巡る。
僕は真っ白な食パン、バターナイフ使い赤い果肉がごろごろ入ってる瓶の上のほうをバターナイフの半分くらい取り出す。
真っ白なキャンパスである食パンに赤いジャムを気が済むまで塗りたくる。
一面甘酸っぱい赤いジャム塗られてるパン口に運び、珈琲をすすって飲み込んで海を眺めた。
ふと、つきっぱなしテレビから少し聞いたある会社の犯罪行為を摘発されたと報道していた。まったくあきれたもんだ。
世の中悪いやつが多いな。
時々、つきっぱなしのテレビは夕方のカラスに酷似し、どちらも気にならないが不快ではないことは確かだ。
パンは耳まで食べきった、指についたジャム軽く舐めた。指から甘酸っぱい味がするのは不思議だ。
コップの底が見えないくらい入ってた珈琲が、気が付けば底の隅に少し溜まるだけになっていた。
タールのように黒く顔をしかめたくなるくらい苦い珈琲を全部飲み干して、水着に着替えて水中メガネを持って海に向かった。
9時くらいだからパラセーリングやサーフィンをする人が数人向けられる、みんな朝活なのかただ暇人かまぁいい。極力関わらないように注意深く潜ろう。
砂浜の階段を1段降る度に割れんばかりの胸の高鳴りが起きている。
サンダルを手に持ち替えて、遂に砂を踏みしめた。
砂を踏む音を立てながら波打ち際に向かう。
砂がサラサラしていたが、次第に水を含み始め粘着性のある砂になる、足首位の波が気づけば胸くらいまで上がっていたいや、僕が海に入っているから上がってはないかな。
そうこうしているうちに波が顔にかかってきた、水中メガネを着け潜った。
目の間に広がるは、透明度の高い水と太陽光がビームのように、水中を照らす光と僕がより先輩な珊瑚礁。そして、何の音も聞こえない状態これがいい。
海にいれば現実のうるさいトラックなど走行音が邪魔にならない、近所の人噂話だって、携帯電話に来る学校からの単位のお知らせのメールのことだって考えなくていいんだ。
しかも、潜れば重力だって全然感じないまるで空を飛び回る鳥のように水中を駆け巡ることができる自由な空間だ。
あれからどれくらい経っただろう、そろそろお腹が減ってきたし家に帰ろう。珊瑚礁を背に砂浜に向かって泳ぎだした。
足がつき波が顔にかかるところまで戻ってきた、つぎに胸にかかるようになって最後には足首にあたって乾燥した砂に足を運ぶ。
何だか海から出る時段々と鎧をはがされるような気分だ。
海にいる間だけの諸刃の剣に過ぎなかった。
どこか自分の醜態を晒される気分になってしまう。
心底落ち込みながら家に戻り昨日の残り物を食べ、部屋に戻って気合を入れて机に向かいノートを開くがペンは動かないピクリともしない。
頭では「これからについて」と考えたが、体が拒む。
そこまでしてこの先の真っ暗で何も見えない未来が不安なのかと、自分でも引いてしまうくらい自分は、考えたくないらしい。
少し空いている窓の向こうから海鳴が聴こえる。どこかホッとする気分がいい。
遅くなったが私の家族を説明しておこう。
父は56、7歳の公務員だ。いつも眉間にしわを寄せ険しい顔して無口な人だ。
単語しか発さないから長文話せない模様。
母は49歳出版社の原稿チェックをする仕事らしいいわゆる校閲という仕事だ。
仕事柄か普段生活でも重箱の隅をつつくように相手の非を責め立てる。
兄は26歳の家電メーカーの営業に努めている。
毎日くたくたになるまで契約を得ようと企業を駆け巡っているらしい。話は面白いが他人に興味がない奴だ。
妹は17歳高校生になった。風の噂では優等生で有名大学に行くこと決意してるらしい。
妹は自分が世界の中心だと思ってるタイプだ。
いいやつではあるが僕の事を机にのっかてる埃くらいにしかおもっていない。
更に夫婦仲はこの世の終わりくらい酷い感じで表すと犬猿の仲だ。
目があえば互いの悪い所を吠え続ける。そういう場では、兄は疲れているから部屋からでてこない、妹はイヤホンを付け他人顔してる、仕方なく僕は仲裁を試みるが火に油を注ぐことになり自分にまで飛び火来るくらいだ。
だから家族がそろう頃には僕は部屋で海を眺めている。

さて僕はネットを見ながら考えた、海にかかわる仕事がいい。
だが、漁師は好みじゃない朝はやく起きるのは苦手だ。
水族館のスタッフも考えたが、水槽に入ってる生物を見てると息が詰まる。
そこから幾つもの職業を候補除外した、残ったのがスキューバダイビングインストラクターだ。確かにスキューバは楽しいしこれを他の人に体験してほしいとも思う。
それにしても、資格習得への費用がバカにならない今のままでは払えない。
この時僕は一歩進めた気がした、今までだったら意固地になって海に逃げていたが今は微々たる進歩をできた。今までで一番活気にあふれていた。
そこから数週間かけてこれから夏なのもあって浮輪の販売する店舗アルバイトとして入社した、仕事は単純明快だ。
客が売り場からほしい浮輪の紙を持ってくるそれを受取り裏で浮き輪に空気を入れはちきれんばかりの空気を入れ客に渡すそれだけだ。
初日は緊張していたが汗と共に床や服に滲んで消えた。
職場の人も顔見知りばかりで肩の力を抜いて仕事に打ち込めた。
今年の夏は海にも行けず働き詰めになっていた。
バイトが終わり静まり返った商店街を歩いて帰った。すると、初嵐が僕の肩を叩いて通り過ぎていった。不思議なこと僕の皮膚は、絹豆腐如く白かった
バイト先に行き給料を貰った。封筒の中の金額を見て自分でも信じ難いことが起きた。
資格の費用を4回出せるくらいの額に足した、早速インストラクターの資格に応募しようと着実と準備をしていた。
バイトが終わり辺りは夜だったが、自分の心は晴天で足が羽のように軽くスイスイ足が進む。しかし、家に帰るとリビングに家族が集まっていた。
みんな一言も発さずただ机をじっと見ていた。
さすがに異様な空気感に僕も急いで席についた。長方形の黒いテーブルに右端に僕が座り左隣は兄、真正面は妹さらに左隣は母誕生日席には父が座った。
どのくらい経ったろうか沈黙が続いた、海から波の音が浸透するように5人の間を通り過ぎていく。
父がやっと重い口を開いた「先に謝らせてくれ、私に責任がある」だが何の話をしているかわからない兄、僕、妹はポカンとしていた。
次に、母が申し訳なさそうに話出した。「数月前から株を買っていたその企業が犯罪行為をしていてそれが警察に摘発され、株が暴落し全財産の三分の一がなくなったわ。それで妹の高校の学費も払えない状況になってしまったわ」そこまで話して両親揃って金を貸せと言ってきた。
兄は車のローンが残っているから難色を示した。もちろん妹はバイトなんかしていない。
これを必然的というのか消去法で僕が頼りになった。僕の背中に氷水みたいな汗が腰まで伝った。一先ず、何も言わずに家を後にした。
夜更けの冷たい砂浜に1人座っていた。
自分の心の中は幾何学模様のように複雑な心境だった。
今まで僕に対してひどい扱いをしていたのが噓のようにこびてきやがった。
兄も金出せよ、何故、真っ先に自分から出来ないと言い出して。
妹も妹だ。当たり前のように出してくれるでしょみたいな目で見てきやがって。
僕は誰の操り人形でもない、僕の人生なのに何故妹を助けなければならないのか。
もし仮に僕が学費を負担するとインストラクターの資格は取れない。一人で何時間も暗闇の砂浜で秋の嵐に巻き上がる砂を全身で受けながら苦慮していた。
やっと思いで砂まみれ腰を上げ家に戻り一言だけ発した。「僕が負担するよ。」言い終わった。
両親は俯きながら涙を流していた。兄も妹も「ありがとう」なんて思ってもいない言葉をそっといった。
僕は部屋に戻り、机の上にノート開き「今後について」と書き、すぐ下に「自由になりたい」と汚い字で書きたした。
おかしなことに、目の前のノートの文字が歪んで見える。
次第にぽたぽたと音につれノートが水玉模様になっていった。
静かな家に男のすすり泣く声と波の音が絶え間なくこだまし続ける。
ただ現実逃避をし続ける男のお話でした。
僕のことを馬鹿らしいと嘲笑ってもいいです。
僕のことを見て「人のふり見て我がふり直せ」じゃないですけど悪い例として、参考にしていただいてもいいです。
こんな僕から少し助言なんて大層なことではないのですが、自分を無力に感じるかもしれないそれでも足掻き続けることは重要だと思います。
もしかしたら、現状打破するかもしれない、もし失敗に終わっても少しでも抵抗を続ける事は悪い事じゃないのです。
必ずその足搔きは何かに生きると思います。


                               甲骨仁



少し悲しいお話になりましたが、現状を変えたいと考える主人公がほんの少しだけ成長する話でした。何だかこの主人公を見ていると自分に似ている所があるなって思います。                         皆様いかかがでしたか?よろしければ感想お願い致します。

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