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不貞の傑作「ボヴァリー夫人」フローベール

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 ボヴァリー夫人はフランス人作家フローベールGustave Flaubertの生んだ人妻です。ロマンチックな人生にうっとりとしてしまう若妻で、華やかな人生に憧れて夢見心地に自分もそうなりたいと思うような夢追い人でした。
 ボヴァリー夫人は繊細な感性に訴えかける器量に恵まれた美人で、夫のシャルルは世俗的な雰囲気からかけ離れた妻を敬愛していました。ボヴァリー夫妻は、ボヴァリー夫人の光を受けてキラキラと輝くシャルルには分不相応な宝物でした。シャルルは妻よりも凡庸だったので、シャルル一人では夫婦の華やかな結婚生活を維持することは不可能でした。
 ボヴァリー夫人は才能の無い夫を嫌い、自分よりも劣る夫を愛せませんでした。夢見た結婚生活と現実の違いに気づくと、夫婦の絆になんの価値も見出せません。理想に届かない夫婦生活に失望し、不幸な結婚から抜け出す道を探して奔走します。それなのに方々に伝手を作り行動を起しても、なぜか望んだように行きません。憧れに手を伸ばしかけても、いつも見えない壁に立ち塞がれます。終には、家計に合わない贅沢で破滅してしまい、毒を飲んで自死します。
 実生活に妥協を許さなかったボヴァリー夫人のパートナーは、人生そのものでした。ボヴァリー夫人は、人生が仕える主に奉仕するように自分の夢を叶えて現実にしてくれると信じていました。それが出来ないと分かった瞬間に、生きることを諦めてしまったのでしょう。言い逃れたい罪も、後に残した後悔もありません。夢を追っていたつもりが悪夢に近づかれて、危機一髪に毒を使って逃げきったのでした。
 「ボヴァリー夫人」は、名作小説となれば必ず上がる小説です。読書を好む人にとって色褪せない魅力があり、写実主義の傑作に選ばれる権威のある、一読の価値を授けられた名作中の名作です。
 作者のフローベールの語るボヴァリー夫妻と物語の登場人物たちには、現実と創作の垣根を忘れさせる新鮮な輝きがあります。文章の生むリアルとフェイクは自然のままで、現実と非現実の境界線を正確に表現するフローベールの手腕に魅力されます。多くの名作小説はあっても「ボヴァリー夫人」を忘れて選べる名作小説は数が限られるのではないでしょうか。愛読書とは別に、誰と分かち合っても目覚ましい感想が生まれる高尚な一冊です

「不貞の傑作「ボヴァリー夫人」フローベール」完

©2024陣野薫

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