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シルヴァスタイン「おおきな木」と生きにくい男の子(絵本)

🖋Pdf版もございます。

 「The Giving Tree(おおきな木)」はアメリカのアーティストShel Silversteinシルヴァスタインの子供むけ絵本です。日本では村上春樹が翻訳して、作家の名前と共に有名になりました。
 男の子を見守る大きな木は、子供が少年から青年に成長して大人から老人になるまで精一杯の愛を男の子に与えます。木は男の子と一緒にいれば幸せでしたが、しかし男の子は木と親しむだけでは生きて行けません。
 木と男の子は、出来ることも出来ないことも違います。違うからこそ、木は自分を差し出して男の子の力になることができました。しかし、木は男の子を助けることはできても、男の子を幸せにすることはできません。
 木は男の子と一緒にいられたら幸せでしたが、たまに木を頼る男の子は人生の節目の変化に戸惑い、人生を良くすることに頭が一杯で、木の幸せにまで気が回りません。
 男の子がいれば幸せな木も、木に助けられても幸せになれない男の子も、どちらも人の心の中にもいます。絵本に感じる馴染み深さは、切り裂かれた心が感じている理不尽さと同じです。人の心は一つしかありませんが、心のなかでは沢山の思いが違うことを考えています。シルヴァスタインは心を二つのキャラクターに分けて、楽しませたり、話しをさせたり、離れ離れにさせて、心の中を物語にしました。動けない木は、遠ざかる男の子を待つあいだ寂しい思いをしましたが、生き方を見つけた男の子が傍に戻って来てくれて、二人とも幸せになりました。生きているあいだに離れ離れになってしまった心の欠片もさいごは一つに戻ると、作家は絵本を通して伝えてくれているのではないでしょうか。

「シルヴァスタイン「おおきな木」と生きにくい男の子(絵本)」完

©2024陣野薫


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