Pavementの“Terror Twilight”新リリース

"Terror Twilight: Farewell Horizontal"

いつのまにか、Pavementの“Terror Twilight”の最新版が出ている。"Terror Twilight: Farewell Horizontal" というタイトル。

“Spit on a Stranger (SM Demo)”

SM Demo バージョン、Echo Canyon バージョンなど、リマスターされたオリジナルに加えたくさんの別バージョンが収録されている。上に挙げたSpit on a Stranger の SM Demo というのは、オリジナルに増して気だるげな感じ、メロディアスで切なげな感じが強調されている感じがする。歌詞もオリジナルと違う形で歌われている。スティーブン・マルクマスの弾き語るシンプルなバージョンもいいが、やはりこのビニョーンビニョニョニョーンという気の抜けた電子音が入っているかどうかでぜんぜん雰囲気が違って、よりひねくれた感じや、クールさが演出されているように感じる。

聴くたびに不思議に思うのだが、この曲の、どこかなつかしさを感じさせるような雰囲気はどこからくるのだろう。コード進行だろうか。Pavement の曲は、激しい曲もおとなしい曲も、全体的にそんな懐かしい感じがする。Pavement だけじゃなく、他のローファイと呼ばれるバンドたちの曲もそうかもしれない。はじめて聴いても、どこか懐かしい。最近のバンドでも、Snail Mail 等が似たような雰囲気を持っていると感じる。

Orange Juice の "In a Nutshell" 

Pavement の、とくにこの Spit on a Stranger を聴くと、なぜか、時代も国籍も違うバンドであるOrange Juice の

“In a Nutshell”

という曲が想起せられる。こちらも、静かで切なげな美しい曲だ。

ちなみに、In a Nutshell というのは、「一言でいうと」と言う意味。To put it in a nutshell を直訳して、「くるみの殻(ぐらい小さな空間)につっこむ」ということ。シュシュシュシュードゥーというコーラスの意味はわからない。

Orange Juice とPavement はどちらもルーツに The Velvet Underground や Lou Reed の影響があるという共通点があり(たぶん)、そのルーツがこの二曲に似た印象を持たせるのかもしれない。ちなみに “In a Nutshell” は、このバージョンが一番シンプルでいい感じだ。名曲なのに、YouTube の公式動画のほうはあまり再生されてない。昔のアーティストの場合、どの曲もそうだが、違法アップロードのほうがたくさん再生されているという印象。 

でも、やはりオリジナルのコーラスとアコギの音がして、リードギターの存在感がある雰囲気も捨てがたい……。

ネットリリースの良さと疑問

しかし、私はいわゆるデジタルネイティブな世代の人間だが、こういうふうに、リリースされてすぐにスマホに通知がきて、すぐにそのアルバムを聴けるようになるというのは、アーティストの活動とモロにつながっているライブ感みたいなものも感じる一方で、やはり味気ないというか、ただジャンクな味を味わうためだけにファーストフードを口にかっこみ、激烈な甘さだけをもとめてコーラを飲むというのに、なにか似ている感じがする。丹精込めて作った曲が、指のタップ一つで聴けて、しかも順番に聴かずに好きな曲だけ聴いてもいいわけで、しかもサビだけ好きならサビだけ聴いてもいいのであるが、アーティストのほうは、こういうリリースのあり方をどう感じているのだろうかとも思う。でも、それはアーティストの考える問題で、聴いているほうには関係ないのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?