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いろいろな、「あっ」。

遠い昔、「ゴキブリが死んでも、君は生き残る」と言われたことがある。
生命力の強さを言われたが、決して褒め言葉としてではない。

会社に入社して2年目ぐらいだっただろうか。職場の床に、もらったクッキーを落としてしまった。もったいないからすぐ拾って、ふ~ふ~して口の中に入れた。
目の前の先輩(A子)が、驚いた目をして私を見ていた。口を半開きにして小さく呟いた。

「あっ?!」

「どうしたんですか」と尋ねると信じられないような顔をして言った。
「落ちたもの食べた・・・」

「いや、大丈夫ですよ。落ちたけれどすぐ拾ったし、ふ~ふ~したから」と言った。A子先輩は首を軽く横に振って、言った。
「トイレに行ったりしている靴で歩いている床は、不潔で菌でいっぱいやのに。」

確かに言われてみればそうだが、思わず言ってしまった。
「三秒ルールでセーフです。」

A子先輩の口は軽く周りに、特に女性陣にこのことをお喋りしたから言われた。
「ゴキブリが死んでも生きている奴」

失礼な話だと思った。人からもらったものだし、もったいないと思った。死ぬ訳ではないし、と思った。

でも二回だけ、「やばい」と思ったことがある。

一つは、職場のゴミ箱に落ちたガムを口に入れたとき。

仕事が終わり一服ではないが(私はタバコを吸わない)、ガムを噛もうとした。手からガムが、ゴミ箱に落ちていった。思わず、もったいないと思い拾って口に入れた。入れた瞬間に心の中で叫んだ。

「あっ!、これはやばい」

噛まずに口から出して、うがいをした。そのゴミ箱はカンカンで、十年以上使っている。ゴミがこびりついて、触るのも嫌なボロボロのゴミ箱。
先輩(B男)が僕の挙動を怪しんで、「どうしたん?」と聞いてきた。経緯を正しく伝えた。

「あっぅ~」

B男先輩は息をはいて首を傾げた。

もう一つは、A子先輩からチョコレートをあげるといわれたとき。

A子先輩は、机の中を少し整理していた。何かを見つけて、苦虫を噛み潰したような顔でぼそっと言った。

「あっ(・・・)」

耳はいいので、A子先輩に「どうしたんですか?」と尋ねると、何事もなく言った。
「甘いの好き? チョコレートあげようか」

用心深い私は危険を察して、A子先輩に聞いた。
「さっき、“あっ”といいましたけれど、それはなんで?」

嘘がばれたような顔をしながら、A子先輩は白状した。
「いや、このチョコレートはちょうど一年前にもらった奴やねん」と。

夏場はうだるような熱さになる部屋。クーラーはほぼ利かず、扇風機を買ってきたり、団扇を仰ぎながら仕事をしていた。そのチョコは日本製ではなく、東南アジアの出張のお土産。
そんな夏を越えたチョコレートは、さすがの私でも食べる気がしなかったので断ると、A子先輩はまさかの一言を。

「やっぱり、ダメ?」
「殺す気ですか? これでも人間なんで、さすがにこれは危険です。」
「本当にダメなんかな」

こう言われると、本当にダメなのか気になった。タイミングよく、私以上に生命力の強い先輩(C男)が席に戻ってきた。C男先輩は、チョコをもっていた私に聞いてきた。

「あっ⤴、チョコレート欲しいなぁ」

思わず、悪いもう一人の私が現れて言った。
「欲しいですか? ○○さんの海外出張のお土産であげましょうか」と。

C男先輩は喜んでチョコレートを食べた。そのチョコレートを食べるC男先輩を、A子先輩と二人で興味深く眺めていた。その様子に気づいたC男先輩は、「どうしたん?」とチョコレートを食べきって聞いた。

素直に事情を説明して、「大丈夫でした?(過去形)」と聞いてみた。すると、C男先輩は珍しく怒った。

「あっ⤵、おぇー」
「殺す気か、君たちは」

すぐにチョコを吐きにトイレに行った。A子先輩と二人で、「やっぱり、あの人でもダメか」と結論がでた。戻ってきて別の新しいチョコをあげると、怒りは収まった。

同じ「あっ」でも、いろいろな表現がある。
似たような(?)状況でも、使う人によって表現は変わる。

過去のブログの在庫はすべて出し切った。
これからは、言葉の空間をみせるような文章を、書いてみたい。

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