行き先のわからない旅行記 (7)

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熊本から八代(やつしろ)へ。新八代駅で高速バスに乗り、宮崎へと向かう。この旅では初めてとなる、高速バスだ。景色がたいして変わらず、退屈だった。

そうそう。

このバスに乗ってる時に「都城市(みやこのじょうし)」を通った。以前その近くにある「曽於市(そおし)」までは行ったことがあるが、都城市は未踏である。そんな都城市の話を。

今でこそふるさと納税の返礼品には規制が掛かったそうだが、2016年頃はそれもまだゆるかった。全国の地方自治体が「我が郷土にぜひ税金を収めてもらいたい」とそれはそれは豪華な返礼品を用意して手をこまねいていた頃。僕は母親に「ふるさと納税を15万円分、好きなものを選んで良いよ」と言ったのだが、何を最終的に選んだのかと聞くと、答えは「豚肉」だった。

豚肉は、都城の特産品だそうだ。以前鹿児島で食べた豚のしゃぶしゃぶはとても美味しかったし、九州の肥沃な土地は素晴らしい味の豚を育てるのだろう。「都城市って所の豚肉。」と言ったので「まぁ、それが欲しかったのであれば。」と電話を切った。

それから数ヶ月した頃の母親からの電話は、興奮にまみれていた。「とんでもない量の豚肉が届いた!」

聞くに、豚肉が届く数日前、都城市の役所担当者から「いまから豚肉を発送しますが、冷凍庫の空きの方は大丈夫ですか?」とわざわざ電話を頂いていたそう。母親は(自宅にはかなり大きな冷凍庫があるので)「大丈夫ですよ」と返したところ、電話越しの女性は「そうですか」と言って電話が終わったのだという。

母親いわく、この「そうですか」の言葉が、少しだけ気になったそうだ。これは決して悪い意味ではなく「なんだか、語尾に、少し冗談めかした笑いの要素が入っていた」そうなのだ。「どうして最後に、ちょっと笑ったようなニュアンスを残して電話を切ったのだろう」と感じていたのが、実際の量を見て、その笑いが「冗談みたいな量ですよ(笑)」という意味だったんだと理解したそうだ。

数日後。ダンボール3箱。20キロを超える冷凍の豚肉が届いた。実家自慢の大きな冷凍庫は一瞬でその許容値を超え、祖母の家の冷凍庫をも占領し、ご近所にも配りまくり、息子である自分の家にも送り、それでも残った分は火を入れて加工し、ようやく使い切ったそうな。

実家から4キロほどの薄切り肉が東京の自宅に届いたので、急きょ友人を家に誘い、連日連夜の「豚しゃぶパーティー」を決行する。友人である歌い手や奏者、ボカロPの、文字通り「血肉になる」に至った豚肉は、ここ、都城市で育ったんだろうなぁ。___と、そんなエピソードを思い出しつつ都城市を通過した。いつか必ず、行ってみたい。

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雨上がりの宮崎駅は、南国地方の情緒を匂わせていた。宮崎市内を訪れること自体初めてだった僕は、昼にはぜひともチキン南蛮を食べようと決心し、地元の方からリプライで教えてもらった「おぐら」に向かう。「なるべく歩くこと」も旅の目的のひとつなので、ひたすら歩く。

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かつての賑わいを想像したくなる風景。宮崎市内には「昭和の町並みを歩けるスポット」が点在している。「自分には関係ない場所だけど、ちょっと何かが違ってたら、関係ある場所になっていたのかもしれない」などと想像して、古い商店街を抜けた。

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おぐら瀬頭店、Bar 続人間 (ぞくにんげん)、Bar 蚤の市、Bar 月の灯、Bar 赤煉瓦、Bar BUTLER

まわったまわった… ニシタチ(西橘通り)エリアを中心に、行ったり来たり出たり入ったり。

最後はもうほとんど酔っ払って、一度ホテルに向かっていたのに、リーデルのグラスが閉店セールで特売されているのを見つけ、その値段に驚き(リーデルが半額というのはほとんどありえない)、ワイングラスを2脚買って最後に飲んでいたバーに戻ってマスターにプレゼントしたくらい酔っ払っていた。

昭和31年、宮崎県内に初めてできた最古のバーと言われている「赤煉瓦」。そこで修行していたマスターが開いたのが「続人間」。そのマスターの弟さんが開いたのが「蚤の市」…と、今回訪れたお店は「宮崎県のバーに行くなら…」と先述のバーテンダー(この連載の”2”に詳しく書いた)から強くおすすめされたお店ばかりだった。

こんな暑い日にバーに入って銅製のマグカップを見つけたら、定番の「モスコミュール」を頼みたくなるのは当然だ。たいがいのオーセンティックバーには、モスコミュールを注ぐためにだけ存在している銅製のマグが用意されている。「豆腐を波形に切る包丁」や「ピザを窯から出すためのターナー」など「ニッチな道具」が好きな僕だからこそ、なおさら味わってみたい。

本来のレシピはジンジャービアを使うものだが、日本では代用としてジンジャーエールを使う場合がほとんどだ。ウィルキンソンの辛口…(「ドライ」と表示されているピンク色の瓶より、表示されていない小豆色の瓶のほうが辛口なのが少し迷うところ…笑)を使うお店が多いが、たまにわざわざジンジャービアを用意して使う店があったりと、お店の個性をこのカクテルもまた、表すものだと思う。

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さて。旅を始めてから6日目。そろそろ頭の中で「帰ってやらなくてはいけない仕事」がよぎっている。ラジオの収録の期限が、迫っていたのだ。明日、宮崎空港から羽田空港に飛んでこの旅を終わらせれば東京で収録できるのだが、「収録を旅先でやってしまえば、もう数日は旅行していられる」という選択肢もある。しかし旅先で録るとなると、そのための機材が何も無い。持っているのはノートパソコンだけなのだから。

さぁどうしたものか。 (続く)

おそらく次でこの旅行記も最終回だと思います!笑

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