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ボカロP大集合飲み会「同創会」に行ってきた

役所は嫌いだ。
番号を繰り返し叫ぶ役人と、自分の番号をじっと待つ住民とで埋め尽くされている。子供が泣く声、世間話、番号を呼ぶ声、ディスプレイから流れる機械的な案内…… 僕もまた人々に埋もれながら渦巻く音に耐え、呼ばれるのを待っているひとり。
マイナンバーカードの申請をずっと後回しにしていたツケがこれというわけ。効率化のために必要なのだそうだが、カードを受け取るだけでこんなにも非効率的なことを課してくるなんて、風刺画のような景色だな、と。

マイナンバーカードを受け取るためだけではない。
一ヶ月過ごしていた札幌から東京へ戻ってきたのには、それ以上に大切な予定があったからだ。
移動と役所で相当パワーを削がれたらしい。早咲きの桜が並ぶ中庭を見てようやく、クタクタの世界から我に返った。
「そうだ。今日は、”同創会”だ」

窓ガラス越しに「よぉ」と手を振ってくる人が見えた。運営の一人だ。
「よぉ」という口をして、手を挙げる。あの中は、もうすでに、仲間で溢れているはずなのだ。
僕は一瞬立ち止まって、心の準備をした。
《この世界が、ついに戻ってきたんだな》
6年ぶりにそのドアを開ける。

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ボーカロイドを使って作曲をする文化の起源を話し始めたら、きっと裏取りが大変な記事になってしまうだろうからここでは話さない。でも、ぽつりぽつりと自作曲を発表する人が増えた頃のことは覚えている。いつしか僕はたくさんのクリエイターさんを集める飲み会を企画し始め、次第にその規模は大きくなっていった。
ある時、みきとPとbuzzGを家に招いて数名で酒を飲んでいた時に「ああいうの、もうやらんの?」と聞かれたのだが、「裾野が広がりすぎて……」と答えるしかなかった。それから数カ月後に来た連絡は「みきとP・buzzGが音頭を取って、ボカロP飲み会をやる」という嬉しいもので、開催されたのが2018年4月だったわけだ。

詳しいいきさつは前回の同創会レポに書いてありますので、昔話にご興味お有りの方はそちらをご参照下さい。
https://ch.nicovideo.jp/zimuing/blomaga/ar1488413

6年もの期間が空いたのは、にっくき疫病えきびょうのせいにほかならない。しかしその間にも、ますます世に放たれていく音楽の数は増えていた。前回100人強だった参加者は185名にまで増えたそう。
(当日ご都合悪く来れなかった方もいらっしゃいますので最終的な人数です)
入口の長机に整然と並べられた名札を見て、目を見張る。
ゲストの名前のあいうえお順に並べられていて、ガムテープで「あ行」「か行」などと区分けされている。
ピンク色のゴシック体で大きく書かれた名札は『自分で名前を書き込む形式だった前回、名前を小さく書く人が続出して見づらかったから今回は印刷に変えた』のだそう。随所に運営の”話し合いの結果”を見出すことができた。

くじ引きBOXから引いたくじ丶丶を見ると、僕はE席だった。最初の乾杯は指定された席で行い、それからは自由に移動しながら飲むスタイルとのこと。E席に向かうと正面にGomさんが居たので、顔を合わせて少し笑った。
先に後日談をお話すると、この時真横に居たのがmeiyoさん(「なにやってもうまくいかない」「クラクラ(Ado)」等の作者)で、僕は最後までそれに気づかなかった。仕事で札幌のラジオ局に居た時に、オンラインでmeiyoさんが出演しているのをスタジオの窓ガラス越しに見ていた僕は、そのラジオ番組に局内からメールを送ってみるという行動に出たのだが結局読まれずに終わったという思い出がある(笑)。帰宅後に謝意をしたためたメッセージを送り、近いうちにお会いしようと約束をした。

荷物を置き、buzzG・みきとPほか運営の方々が居る出入り口付近に向かう。入場の列は少しずつ長くなっていき、一時は店の外までその列が伸びた。面白かったのは、名札を渡す係の人より前に、その近くに居た人が「◯◯P来た」と言って、本人が受付するより前に名札を探し始め、係の人に渡すというシステムができていたことだ。
「事務員、酒取ってきて」とbuzzGが言うので、一瞬《運営のくせに不真面目だな》とも思ったが、自分も多分同じ場所に居たらおそらく飲んでると思うので人には言えない。

「本人以外は入れない」というのが、この飲み会における重要なルールの一つ。これがいい。「本人と話すまでに、"おとな"という障壁が無い」という意味において。
なるべく「この人とお話がしたいが、接点が無い」という人をその人のところに連れて行くようにした。結果、他の人との話を割ってしまったことがあったが、そこは少しだけご了承いただきたいところだ。

アゴアニキが来た。「生きてたの?」などと冗談を言う。
ゆっぺ君だけは全員が「髪でわかる」と。
kzさん、小林オニキスさん、暴走P、キャプテンミライさん、アゴアニキ…などのボカロ創世記みたいな人たちは既に一つの卓で集まりがちになっており、そのテーブルだけは養老乃瀧的な風味を醸し出していた。

入り口付近には、buzzG・みきとP以外の運営スタッフと、主に若手への連絡を担当していた はるまきごはん君とsyudou君が立っており、続々と訪れるゲストに感謝の言葉を投げていたのが印象的だった。
はるまき君は髪がめちゃくちゃ伸びていて、さらにマスクもしていたので顔の判断材料に乏しく、名札の効果を改めて実感したなど。
syudou君は、無茶振りにより乾杯の音頭を任され、急場しのぎとは思えない見事な口上と「私が手に持っているビールとかけ、この会と解きます。その心は……『あわ(泡・会わ)ないとさみしい』でしょう」との謎解きを披露し拍手喝采を浴びていた。 記憶が違ってたらごめんなさい笑

会場の壁にかかった大きな旗に、自分のサインを入れていくスタイルは前回から継承されていた。前回よりも大きな旗だったが、みるみるうちにサインで埋め尽くされると余白がなくなり、どんどん隅へと追いやられていく。しかし、ミクを避けてサインを入れていくのはさすがボカロPだと思った(八王子Pをのぞくw)。

ビュッフェ料理のレベルも高く、特に麻婆豆腐が美味しかった。この店は、実は自分自身も以前プライベートで来たことがあったのだが、ワインの種類が豊富なのと料理がおいしいことに当時も驚いたものだった。
6年前と比べると、なんというか、この同創会はいちだんと大人な雰囲気になったと思う。酔いつぶれる人もなく、健全な盛り上がりだった。
6年前は、結構すごかったから(笑)。
きっとあの部活動みたいだったノリは、時間によってきれいなものに変わったんだと思う。あの頃のめちゃくちゃだった時代も懐かしいけど、こうやって一つの文化として形成されて続いているというのは素敵なことだ。
そういえば「ボカロブームが終わる」というような空気がいつだったか蔓延したこともあったけど、杞憂だったなぁ。すぐにまたボカロシーンを盛り上げる曲が放たれたわけだし、今も確実に続いているんだから。

さて、会も終盤に差し掛かった頃、受付を終えた二人が声を掛けてくれた。まふまふ君とEve君だ。すでに席決めの時間は終わっていたので、自分の居たE席に座っていいよと促す。まふ君は最後、ピザばかり食べていた。なぜ皿を使わないのかと問うと「洗い物が増えるから」と答えたが、めちゃくちゃ食べにくそうだったので皿を1枚差し出すと「やっぱり食べづらかった」と答え皿を受け取る。

散見したのは、6年前の"同創会"が開かれていた様子をSNSで見ていた人が「ついに来れた」と言っている様子だった。それを、当時影響を受けていたPのところに報告しに行くというのが多かったように思える。そして、そこに座っているのが普通の人間そのものであることを認識したのではないだろうか。そういえば「6年前は印刷会社で働いていて、偶然ですが当時のパンフレットを印刷していたんです」という人も居た。すごい。

会は一丁締めにて締めくくられ、二次会へと移行していく。
仕事の都合や急病で来れなかった方も多いが、この時に思い出していたのが「もうお会いできない人たち」のことだった。前回の自分が書いた文章を見ると、その当時の自分も同じタイミングで同じことを思っていたので、やはりいつまでも自分は自分なんだなと思う。

たくさんの人に出会い、そしていつしかその人の曲や声が街なかやテレビから聞こえるなんてことが普通になった。はちゃめちゃだった頃のことは僕も今までこのnoteに書ける範囲で書いたけど、それも昔のことになっていくのは当然のことだ。
僕がとっても大切にしてきたつもりだったものが、今もまだ輝き続けているということを認識できる、本当に最高の会。

今日の役所での喧騒を思い出す。
こんなにたくさん人が居るのに、こんなに騒がしいのに、こっちは全然疲れない。嬉しいからなのかな。
長い年月にわたっての連鎖を、こうやって改めて、実際に肉眼で見られていることへの感謝は筆舌に尽くしがたい。
これからもずっとこの会が続いていきますようにと、願わずにいられない。

いや、ぜひ続けていって下さい!(最後だけ口語体)

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おまけ

二次会場はちょっと遠く、しかも小雨が降っていたのでまふまふ君とEve君とでタクシーに乗った。
車内で「なかなかご飯食べれなくてお腹すいた。ラーメン食べたい」とまふ君が言うが、二次会場近くにラーメン屋はない。
ひとまず二次会場に入るがEve君が柱と柱の間から手招きし「Gさん」と呼ぶので言ってみると「抜け出しちゃいましょ」とまふ君。
羽生まゐご君含め4人でラーメン屋捜索するも、回転寿司に落ち着く。まふ君の独特な注文方法にちょい困惑。
二次会に戻って、煮ル果実君と譜面(……実は煮ル君のライブ用譜面は僕が書いているのだが)の話。jon-YAKITORI君と以前出させてもらったラジオの話。
ああ…このあたりから少しずつ記憶が薄れていく…
帰り際のふわしなさんに遭遇して驚く。「居た?」「居たよ」など。
youまんさんと…亜紗さんと…何のはなししてたっけ…
いよわ君に「ピアノで弾くのが大変なんだけど」とクレームを入れる。
店員さんにお願いして椅子を動かし、会場最奥にボックス席を作ってもらう。そこでは謎の「ホラー映画何がおすすめ」話題。なぜこんなにみんなホラー映画に詳しいのか。
この辺で参加者の一人が酔っ払ってぶっ倒れる(ご安心下さい眠っただけです)。自分も流石に疲れてきたので、各人に挨拶をし身支度。
カンザキイオリ君と帰るタイミングが被ったのでタクシーに同乗。思いあふれる話をつらつら。
先にタクシーを降りてコンビニでハイボール缶を買い、飲みながら5分ほど歩く。6年前の二次会後のことを思い出してちょっと笑う。
あさりのお味噌汁が飲みたくなった。


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