行き先のわからない旅行記　(5)

例えば「一番好きな都道府県はどこですか？」と聞かれても、「もちろん◯◯県です！」などとは言わない。ゆっくりと、慎重そうに、「どの都道府県も…　それぞれ良いところがあり…　選び難く…」と返すと決めている。これは「ローマの休日ごっこ」という自分なりの一種のギャグ。どこにも角を立たせてはいけない立場であるアン王女の、新聞記者からの質問への返しを参考にしているわけだ。

しかし、もし「一番好きな餃子は」と聞かれたとしたら…

映画の中でアン王女が、上と同じような発言をしたあと急にスッとした顔になり「ローマ、なんと言っても、ローマです！」と言ったように、僕は「長崎、なんと言っても、長崎です！」と言うと思う。そのくらい、長崎県の餃子を気に入ってしまった。

鉄道のマップ編集ができず、車で移動した場合の地図になってますがご了承ください…　なんとなくってことで。

形がよくわからない都道府県ランキング(自分調べ)堂々１位である長崎県はこれまで何度か訪れた。古くから、他国の文化を取り入れる窓口みたいな役割を果たしているため、興味深いマッチングがさまざまな分野で行われている印象がある。何度でも訪れたい。

さて。旅行中に僕がよくやる遊びが「地元民ごっこ」である。トランクを持っていれば周りの人から「ああ、あの人は観光客なのね」と思われているだろうが、ホテルにそれらを預けて、スマホと財布だけ持って出かければたちまち、観光客なのか地元民なのかの判別が難しくなる。そんなときこそ「地元民ごっこ」なのだ。

「地元民ごっこ」の時は、やたらとスマホで地図を確認したりなどはしない。さも「僕は何度もこの場所に来てて、知り尽くしてるんですよ」と言わんばかりの”こなれ感”をまとい、街を歩くのだ。(※実際はまったく道がわからない)

そして、いつも会社に行く時に使ってる、馴染み深い路面電車にも当然、当たり前のように乗る。（※どう乗れば良いのか全くわからない）

本物の地元民が、世間話をしながら停留所に居る自分の後ろに並んだ。全くの初心者であることはバレていないようだ(※バレたら死ぬ設定)。自分を俯瞰的に見て、うまく馴染んでいる自分の様子を楽しむ。これが「地元民ごっこ」である。ちなみにBGMは「English man in NEW YORK」。

さて。当然ここで降りるつもりだったんですよ、という顔で別の停留所で降りた僕(※実際はあてずっぽ)は、地元民ごっこをやめて、観光客に戻らせて頂くためスマホで、おすすめされていた餃子屋さんを検索した。結果的にはちょっと遠回りだったみたいだけど、”ごっこ”ができたのだから別に構わない。

とある親交の深い歌い手の、母方の実家が長崎県ということで、過去に彼からもその餃子屋さんをおすすめされていた。今回は是非行ってみようというわけで、訪れたのは「雲龍亭」。

長崎名物の一つ「一口餃子」。こぶりな餃子が10個で一人前。おいしくておいしくておかわりした。もともと少食で、普通の一人前がなかなか食べ切れない僕なので、「おかわり」というなかなかできない体験がうれしい。飲むのは当然ビール。備え付けのタレで好みのカスタマイズをしていくのも楽しいし、タレの中に含まれている青唐辛子の一片だけを口に入れて箸休めにするのも最高だった。店内にはテレビが置かれていて、地元の人たちは画面を眺めながら時折笑っている。本当に、この餃子が近くで気軽に食べられる長崎県の人たちが羨ましい…

雲龍亭銅座店、BAR Wavery、BAR Strand

翌日は、そういえば行ったことのなかった眼鏡橋を写真に収め、近くにある長崎ちゃんぽんの名店「共楽園」へ。以前ちゃんぽんを初めて食べた「四海樓」のような、ちょっとだけ背筋を伸ばさなきゃいけない建物とは違い、とっても大衆的。味もすごく美味しかった。

昨日行った長崎のバーで「次にどこに行くかはあまり決めてないんです」と言ったところ「実は宮崎県のバーも面白いんですよ」との一言がマスターから出てきた。「宮崎県ですか！？」＿＿＿　突拍子もなく始まった旅も、まもなく1週間になる。「いつまで続けるんだよ」というセルフツッコミをしつつも、「ここまで来たら…」と思い始めている自分。スマホで宮崎までの道のりを調べてみるが…やはり遠い。

諫早を経由して、島原へ行くことにする。

島原鉄道は、今では少なくなった改札鋏(かいさつきょう)で、きっぷをカチャンとやるスタイルのローカル線。まだ残ってるもんなんだな。有明海の間際を走っていく時の風景は、旅行の風景そのもの…という感じ。

折しも各国首脳が大阪に集合してサミットが行われている時期で、テレビのニュースではトランプ大統領が到着したと報じていた。交通機関が至るところで規制されているらしいので「こりゃぁ今大阪に行かないほうがいいな」などと思いながらフェリーを待つ。

ただの「全国各地バー巡り旅行」みたいになってきたよな…。

ま、それでもいっか。

（続く）