スタジオON AIR閉館の報せを聞いて。

スタジオ「ON AIR」が閉店するという発表を見ました。これは特に僕たち(とりわけ東京で音楽興行をやっている人)にとってはとても衝撃的なニュースなのですが、たいていの人にとっては「なにか、みんなの思い出のスタジオの中の一つが無くなってしまったんだなぁ」くらいの印象だと思います。これがどれだけのことか、少しだけでもわかりやすくお伝えしようかなと思いました。

僕たち、音楽をやっている人が使うスタジオには大きく分けて2つあります。レコーディングスタジオ(つまり、楽器や声などを録音する事に特化したスタジオ)と、リハーサルスタジオ(ライブの練習をするために使うスタジオ)なのですが、ON AIRというのは後者です。

そんなリハーサルスタジオにもざっくりわけてしまうと「プロが使う」ものと「趣味の人も使える」ものの2種類があるのですが、ON AIRはプロの人たちが使うものです。会員証を作って誰でも気軽に入れるスタジオ…というよりかは、基本的に会社の名前で予約するような、そんなスタジオです。ミュージシャンの人たちはたいてい自分の機材を使うので、搬入のために大きな駐車場やエレベーターも必要ですし、ライブをするための専門的な機材が揃っていないと本番さながらのリハーサルはできないですから、それらも必要です。だからこそON AIRのような、いろいろなものが揃った、プロの人たちが使うスタジオがあるのです。

こういった「プロ用のリハーサルスタジオ(以下リハスタ)」というのは、実は東京でも、思った以上に数が少ないのです。なのでおのずと「きちんとしたリハーサルをしましょう」となった場合「だいたい数軒のリハスタのうちのどれか」しか選択肢がないのです。だから、東京で音楽をやっている(特に、大きなライブでパフォーマンスする人)だったら、もう”絶対”に近いくらい行ったことがあるはずです。場合によっては毎日のように(それぞれ毎日違う現場なのにもかかわらず)通っているような状況になっている人だっていました。この界隈の人に「明日は大久保で」と言われたら、イコール「オンエア」であるくらいでした。

ただでさえ数が少なく、予約が取りにくいリハスタのうちの一つが無くなるというのですから、実際にステージに上がる歌い手さんや奏者さんはもちろん、舞台制作スタッフの方々からしてもとても大変なことです。

こういう話は、普段、ライブなどを楽しんでくださっている人たちにとってみれば「楽屋話」というか、裏のはなしなので聞くことはあまりないものですよね。でも、ライブで歌ったり演奏している人たちにとっては本番の何倍もの日にちをそこで過ごしてから本番当日を迎えているわけなので、思い入れと行ったら半端なもんじゃないわけです。久しぶりに別現場で演奏したり歌ったりしている人とたまたま会って、外階段で近況を報告し合うこともあるような…いわば社交場みたいな要素もあったのかもしれませんね。もしかしたら「母校が無くなる」くらいのショックに近いのかもしれません。

建物に入る時のドアの取っ手が太すぎるとか、その取っ手が金属製だから冬場は静電気が怖いとか、エレベーターの階数とスタジオの番号が違うから最初は迷うとか、隣の建物の上にある病院のネオンが怖いとか、一番近いコンビニが微妙に遠いとか、控室にいる歌手にガラス越しに”次出番だよ!”と手を振る(ドアが重いのでめんどくさい)とか、、多分そういった「オンエアあるある」は、歌い手さんや奏者さんには通じると思う…と考えると「母校」のニュアンスはあながち間違っていなさそうです。

みなさんが楽しみにしてくださっていたたくさんのライブが、本当にまさに、ここで練られていました。本番を見に来てくださったみなさんの、嬉しそうに、楽しそうにしてくださっている顔を一番想像していた場所でした。貴重な場所が無くなってしまうこと、今回の平時ではない甚大な影響を感じさせられます。

いやはや… 本当にお世話になりました。スタッフのみなさま、今まで本当にありがとうございました。たくさんのイベントをここで用意させてもらえたこと、嬉しかったです。願わくば、また再開される日が来ることを願いつつ…!

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