行き先のわからない旅行記 (4)

なんとなく佐賀駅に向かおうと、新鳥栖(しんとす)駅で新幹線を降りたところ、今流行りの「駅ピアノ」が設置してあった。駅ピアノを見かける度に「ピアノが身近になったなぁ」と感じる。

インターネットの普及のおかげで”生活が変わった”。注文すれば翌日に商品が届くとか、テレビ通話で会議ができるようになったとか、劇的に変わった事は説明しやすい。けど、実はもっと(ちょっと説明しにくいような)心情的な部分もインターネットの普及の影響で変わった部分があると思う。

例えば「ピアノに対する世間の感じ方」が、その一つ。個人的にはすごく感じていることだったので今回文章にしておこう。

本来、人前でピアノを演奏するというのは、おおごとだったと思う。練習や訓練で特別な能力を十分に培った上で、ようやく人前での演奏が許されるような空気があった。それが少しずつ、少しずつ変わっていって、今では「駅ピアノ」が受け入れられている現在につながっている。おそらくインターネットの普及が影響していると思う。ピアノという楽器をそれまでよりいっそう「カジュアルに聴く」ことができるようになったからだ。

昭和初期。ピアノは高貴な人のための上等な習い事だった。それが高度経済成長期に手の出しやすいピアノが量産されたことで、ぐっと広がった。平成になって、男性が弾いていてもバカにされなくなった(昔は男がピアノを習っていると「女々しい」と言う人もいたのです…)。そして令和時代、ピアノは街角に置かれるようになった。(そのあたりの詳しいことは↓コチラに以前書きましたのでもしよろしければ…)

特に、日本人的な考え方…「遠慮感」みたいなものが駅ピアノみたいなストリートミュージック文化の発展を遅らせていたんだと思う。積極的な自己表現は「はしたない」と思われないだろうか…と。しかし、きっと「ピアノ演奏を聴くこと」がここまでカジュアルになったことで、そのあたりのもやもやが晴れていったのだろう。

僕が10数年前にピアノの動画を投稿した際、すごく気にしたのは『下手のクセに投稿するなよ』というコメントだった。些細な弾き間違いも『いま失敗した』と言われるし、編集でつなげると『ここ編集してる』と言ってくる。だから絶対に間違っていない動画を投稿しなくてはいけないのがプレッシャーだった。「そんなの気にしなきゃいいのに」というご提言は、まったくそのとおりだと思う。でも、それは、今だからこそ言える話。

「弾き間違いもひっくるめて楽しむ」という余裕が世間に出てきた(出して良くなってきた)のは、結構最近のこと。「楽しんで弾けてればいいんだよね」と、発信者も受信者も考えられるようになったのは、やりとりできる情報の量が増えたから…つまりインターネットが高速化したことも、一端だと思うのだ。

ふぅ。まったく旅日記じゃないな。

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とにかく、駅ピアノを街なかで見かける度に「インターネットは、そういうところも変えたよな」と思っているのである。

新鳥栖駅のストリートピアノは、弾けなかった。いや、弾こうと思わなかった。怖かったのだ。

僕が初めて「駅ピアノ」を弾いたのは(海外旅行中を含めずに言うと)それから数カ月後。神戸の「デュオこうべ」でなのだが、実は、緊張で手も足もガタガタに震わせながらのストリートピアノデビューだった。「自分がこんなに緊張するなんて」と驚いた。こんなに人前で弾くことになれているつもりだったのに。それからは駅ピアノを見つける度に「弾いて心を強くさせよう」と自分自身を鼓舞し、弾いている。まだこの時は、怖かった。

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現代的なデザインの「特急かもめ」に乗って、佐賀駅へ。行ったことはあるけど、思い出に乏しかった佐賀に、ようやく参上することができた。雨の中予約していたホテルへと向かい、美容室を予約した。旅先で髪を切るのは、ちょっと楽しい。自分の一部だったものが切り落とされて、僕がその場から去っても留まっていることがちょっと不思議な感じがして。

ちょうど水曜日だったので、札幌のラジオ局から放送されている自分のラジオを聴く。東京で収録したものが、札幌から発信されて、佐賀で受信しているという様子も、ちょっと楽しかった。

佐賀で、教えられたバーに行く。佐賀の「バー通り」は「白山(しらやま)」というところに集中しているようだ。

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Bar Cask、寿し政、Bar YAMAZAKI(すべて佐賀市白山)

タクシーの運転手さんに「どちらから?」と聞かれたので「東京です」と答える。「佐賀は水路が発達してましてね、ほら見てください、至る所にクリークがあるんです。」と教えてくれた。「素敵ですね」と言うと「いやぁ、蚊が多いだけですよ」と一言。

なんと返せば一番良かったのか。 (続く)

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