おいでやす!シドラん家〜赤のスライサーがお邪魔します〜
万病を治す秘薬、大海の如き財宝、それがとある洞窟に眠っている奇跡。だがそこは最強を冠するドラゴンの根城。ドラゴンを倒しものは世界最大の栄誉を手にする。今日も野望を抱き、ドラゴンに挑む者あり。
凄まじいパワー、鋭い眼光、そして溢れ出る闘争心。今巷で売り出し中の若きクリーチャー、「赤のスライサー」はどデカい実績を求め旅をしていた。手の刃で敵を切り裂くまさに強者。そんな彼が目につけたのは「シドラの洞窟であった。」
「さて、もうそろそろ着く頃だな。最強のドラゴンが住まう洞窟は、、、。」
スライサーが歩いていると、禍々しいオーラを放ちつつも「シドラん家」と入り口に看板が立てかけられている洞窟を発見する。
「え、ここ、で間違いないよな?ガキのイタズラじゃないよな?え、さっき近所の人から聞いたんだけどここじゃない可能性とか、、、。しかし、洞窟から出ているオーラは尋常じゃない。ドラゴンがいなくても、入る価値はありそうだ!」
赤のスライサーは戸惑いながらも洞窟に入る。するとどうだろうか、湿度が高い割にはコケやカビがない!手入れが行き届いているのだ!
「え、なんでこんなに綺麗なん?なんならちょいといい香りする!ハーブかなんか?逆に怖いんだけど!」
赤のスライサーはその後、やたら手入れの行き届いた洞窟を進むと広い場所に出る。日光が差し込み、綺麗な水辺が一層輝いている。よく見れば地面にはわずかながら金や鉱石のかけらが埋め込まれている。スライサーは先ほどの怯えは消え、期待感が戻った。
「間違いねぇ!この洞窟には物凄い何かがあるんだ!それに比べりゃドラゴンなんて目じゃねぇ!よし、探検に挑む前にそこの水でも貰うか、、、。」
「君、コップ使う?」
「おう!気がきくな!どこのもん、、、。」
スライサーが振り向くと、その名は青色の肌、4本の角、そして程よく大きい、なんか、こう、マスコット的なドラゴンがいた。
スライサーはそれを見て身構える。
「お、お、お前がこの洞窟のドラ、ドラゴンかぁ!?に、しては、その、、、。」
「何?イケメン過ぎて直視出来ないって?」
「あ、いや、そうじゃなくて、、、。それより、お前がシドラか!俺の名は赤のスライサー、絶賛売り出し中の戦士だ!」
「あぁ、ネットに出てたねー。その辺のクリーチャーに片っ端から喧嘩売ってる可哀想な子、、、。」
「可哀想とか言わない!こちとら世界一のクリーチャーになる為に日々強いやつに挑んでんだよ!、、、。ここ、ネット通じてるの?」
変な所に衝撃を受けるスライサー。話を続けるドラゴン。
「あ、オイラ邪炎覇竜シドラだよ。」
「(名前と容姿が見合っていない。)そ、そうか。お前が最強のドラゴン、かどうかはさておき、この俺様を前にして随分生意気な態度じゃねえか。」
「人の家勝手に上がり込んで丁寧に扱われると?」
「え、何、そういうのいるのファンタジーに!?」
「あー、あれか。君もオイラに挑戦しにきた感じ?オイラ最強だからよく来るんだよねー命知らずが。まぁ暇してるからむしろありがたいけど。」
「ふふふ。ならありがたく思えよ!俺様を知ってるなら好都合じゃねえか!暇つぶしというより、お前の命日になるかもなー。」
シドラは大きい欠伸をしてつぶやく。
「725位。」
「あ?」
「期待値ランキング。トップは魔王とか勇者。んで、君はオイラの中で725位。」
眠そうにするシドラ。今にも目から血を流しそうなほどキレるスライサー。
「てめコラァ!!唐揚げにしてやんよオラァ!!」
スライサーは大きく振りかぶり手の刃をシドラの腹に当てるが、シドラは何もなかったかのように欠伸をしたのち、フッとスライサーに息を吹きかける。スライサーは勢いよく吹き飛び地面をえぐりながら倒れる。スライサーは傷つき天を見上げ、大量の冷や汗をかく。
「(は、え、はぁあ!?まさか、今の息でやられた!?馬鹿な、そんなやわな鍛え方してねぇよ!手の刃だって、、、!)」
スライサーは自分の手を見ると、大きく刃こぼれしていた。そしてヨロヨロと立ち上がりながらまた挑むも、再び息を吹きかけられたのち倒れ、今度は数分気絶した。
スライサーはその後絆創膏や包帯で雑に治療され、シドラの説教を正座で受けていた。
「挑むのはいいんだけどさ、もうちょい準備してきてくんないかなー。普段治療道具なんてオイラ使わないの、無敵だから!君たちみたいな馬鹿の為に用意してんの!この馬鹿!君20代?」
「は、はい、」
「オイラ6千才から数えてないけど、最近の若いやつはサルより知能低いわけ?この馬鹿!馬鹿サル以下の馬鹿!」
スライサーは涙目になりながら耐える。
「(チクショウ!めっちゃ馬鹿っていうじゃん。)す、すみませんでした、、、。シドラさんが強いのは、身をもって知りました、、、。」
「てかね、君弱すぎよ。この間来た魔将は炎のブレスにもギリ耐えてたよ。」
「えぇ!魔将レベルが来るんですか!?」
「そうだよ。そいつ君と同じくらいの時から毎年来てる。他にも勇者とか、一国の主人とか色々ね。宇宙人って名乗るやつも来た。でも、オイラに勝てたやつは1人もいない。」
スライサーは下を向き己の弱さを痛感した。
「(魔将や勇者でも勝てないなんて、、、。俺が今まで手にした勝利って、ドラゴンに比べればしょうもないもんなのかよ、、、。これを機に、最強を目指すなんてやめた方が良いのかもしれない、、、。)」
スライサーは立ち上がり礼をする。
「色々、ありがとうございました、、、。」
スライサーは帰ろうとするが、シドラはそれを止めた。
「ちょいと待ちなよ。」
シドラは洞窟の奥に行ったかと思えばすぐに帰ってきて、小さな宝石をスライサーに渡す。
「はい、頑張ったで賞。」
「え、いいんすか?」
「うん!確かに君クソ弱いけど、最後まで戦ったじゃん。次は期待値50位くらいになれるよう鍛えなよ。大物になれるといいね。」
スライサーは受け取り、大粒の涙を流しながら誓う。
「50位なんてもんじゃねぇ!いつかお前を唐揚げにしてやる!それまで、、、!」
「あ、この後飯だからそういうのは手短にね。」
「生きてるうちに切る!以上!」
そういうとスライサーはそそくさと出て行った。シドラは最強のドラゴン。それ故に自ら挑む事は卑怯としている。だから来てくれる挑戦者は意外と手厚くもてなす。そして最強に挑んだ彼らは、どこかで成長し名を馳せるのだが、それはまた別の話。
「今晩はニラ鍋にしよう。」
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