詩「忘れたくないだけ」

窓の外に流れる雲の色がきれいだったとか、
朝起きたら鳥の声が聞こえただとか、
大きな声でハキハキ話す人がいただとか、
朝ごはんを作っていた姿がそこにあっただとか、
そんなことを、ただ忘れたくないだけ。

にんげんの脳なんて、神秘的ですぐ忘れるものだから。
にんげんの体なんて、頑丈ですぐ朽ちるものだから。
にんげんなんて、みんなみんな、すぐ居なくなってしまうものだから。

ただ忘れたくないだけ。
忘れないための一つの手段として、文字があるだけで。
文字もいつか忘れられて居なくなるものだけど、
すこしでも抗ってみたくて。

ただ、忘れたくないだけなんだと。
叫ぶように文字にしたって、けっきょく、いずれは。

美しかったこと悲しかったことすべてを、それでも文字にして。

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