見出し画像

文学フリマに向けて(徒然)

 5月19日に文学フリマ東京が迫ってきたので、今回はこのイベントの良いところを徒然書いてみたいと思います。

まるで陶器市のように

 最近は本を出すためのハードルが非常に低くなっているので、本当に沢山の本が日々出版されています。それはとても一人の人に追いきれるようなものではありません。昔なら、出版された本はある一定の社会的意義を持っているとされてたこともあったでしょう。今は、必ずしもそうではなく、むしろ、本は私達の生活を彩るもの、花瓶の花となったといえるでしょう(もちろん〈一面では〉ですが)。
 なので、文学フリマはまるで沢山の窯元が手弁当で出店する陶器市のようなものです。もともとそのような文化がないところではスノッブな雰囲気になってしまうかもしれませんが、本場ではむしろ爆発する多様性と品質、そして気軽さが際立つようなそんな空間。それが文学フリマではないでしょうか。

創作の鬱屈と「商品」の飛翔

 普通創作というのは孤独なものです。もちろん人によるのでしょうが、筆者について言えば、そんなに楽しい気分でやっているのではありません(どちらかというと、書いてしまうという感じ)。また、文学フリマも最初に出すときは何となく光栄な気分と気恥ずかしさでテンションが高まっていましたが、数を重ねれば慣れが生じて、自分の出すものの不完全さに困惑気味のような気がしています。
 自分の作るものをなんとか形として残したい、それも、目に見える本の形にしたい、という自負心もありますが、それが世の中に(ごく限られた空間であれ)出ることに困惑している自分もいるので、なんとも変なものです。
 それでもなお、文学フリマの小さなブースの内側に座ってみれば、自分の作ったものが、今、まさに命がけの飛躍に挑んでいる様子を見ることになり、とても刺激的でもありますし、楽しくもあります。

コミュニティの限界と万華鏡

 普段、言葉を使うコミュニティの中にいると、あまり外部の人々と顔を合わせる機会がありません。商業出版はともかく、ネットが発達した現代ではコミュニケーションのかなりの部分がデジタルで済むようになったからでしょう。だからこそ、普段は姿を見せないそうしたコミュニティが、文学フリマの会場のあちこちでその片鱗をのぞかせて、また同時にそれらが決して大きなものではなく、数あるコミュニティの一つなのだ、ということが見て取れるのは貴重な気がします。
 マーケティングがしっかりしているコミュニティもあるし、そうではなく、いぶし銀に突き詰めているところもあります。流れがきているところもあれば、ちょっと停滞気味だけどノンビリしているところもあります。それぞれが、好きに自分の時間を使って、自由に表現活動をしているのですから、そこには手製の歴史が溢れていて、ちょっとした万華鏡のようです。

知識を扱うことについて

 さて、知識を扱う道具としての言葉、本を扱っていると、どうしても知識の包括のための機能を論じたくなります。文学フリマはそんな風な機能を目指しているわけではない、ということが確かだとしても、やはりその機能には批判ができる(できてしまう)点を見逃すべきではないでしょう。
 もちろん、言うまでもなく、これはフリーマーケットです。図書館でもなければ本屋でもありません。知識は雑然と、思い思いの強調と取捨選択と、デコレーションとで提示されています。お隣同士のブースの売っているそれぞれの本の内的な関係性など、あった方が驚き、というべきでしょう。
 とはいえ、知識が伝達するときの形態というのは本当に多様であって、その大部分が系統立てられない雑談である、ということを思ってみましょう。たしかに、雑談の中で取り上げられる知識は、その場限りで消費されて、すぐに消えていってしまいます。けれども、全体としては、何かが言われているということが、何も言われていないこととは雲泥の差です。そういう事態と比べてみると、文学フリマはかなり丁寧に知識を扱おうとしているようにも見えてきます。

コミュニティか、媒体か

 文学フリマで本を手に取る時、その本を扱っているコミュニティに所属する、という可能性が幾分か感じられます。これは結構特殊な状況です。もちろん、一消費者として本を購入して楽しむのも自由。そこは共通認識が持たれているところだと思います。
 媒体としての本は、本棚に収まればかなり期待通りの働きをしますが、それまでの道のりは結構遠いし、売っている場所やコミュニティに影響を受けます。結局は、楽しくなるような、積極的で健全なコミュニティ形成というものが大事、ということになるのでしょう。

 以上、とりとめもなく書いてきましたが、少しモチベーションにもなったので、この記事の意図は達せられたかなと思います。


front image"大陶器市@大通り公園" by arty822, link
trimmed for upload, CC BY-NC-SA 2.0 DEED

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?