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素数が無限にあることの証明(中学生向け)

 周りで見かける証明が、中学生にも分かるように書いてないので、書いてみました。(最近、一人称視点の小説を読んだので、解説も一人称視点で書いてみました。)

証明

前書き

 例えば偶数2, 4, 6, 8, …は$${n}$$番目の偶数が$${2n}$$と計算できると分かっている。素数はどうだろうか、つまり

($${n}$$番目の素数)=($${n}$$の何かしらの式)

の「何かしら」が分かったりしていないだろうか。分かっていれば$${n}$$にポンポン数を入れていけば、いくらでも素数が生み出せるから、素数が無限にあることはすぐに分かるのだが……

 しかし調べてみると、どうやら「何かしら」を見つけることは、数学上の超難問とされているらしい。

 ならば、諦めて別の道を探すのが賢明だろう。

 何も、$${n}$$番目の素数を具体的に知りたいわけではないのだ。ただ、素数の個数に限りがあるのか、無いのかを知りたいだけなのだ。

 であれば、もっと間接的なアプローチがあるはずだ。

 まっすぐ攻めるだけが道じゃない。


証明スタート

 そもそも「素数が無限になかったらどうなるか」を考えてみる。考えてみるだけなので、何も問題ない。思考実験というやつだ。思考の中なら、世界が100人の村だったらどうなるか、と考えるのも自由だ。

 素数が無限にはないってことは、つまり、素数には限りがあるってことになる。だから、1番目の素数は2、2番めの素数は3……といった具合に素数のリストを作ったら、この作業はどこかで終わる。

 ただまあ、具体的にどこで終わるのかは分からない。だから最後の番号は適当に$${n}$$とでもしておこう。($${a}$$とか$${b}$$を使うより、番号が英語でnumberだから、その頭文字を取って$${n}$$とした方が分かりやすいはずだ。)

 同じく、最後の素数である$${n}$$番目の素数も何か分からない。だから適当に$${p_n}$$としておく。(右下に小さく$${n}$$と添えることで、$${n}$$番目であることがひと目で分かる。あと、素数が英語でprime numberなので頭文字のpを取って使っている。)

 素数を小さい順番に並べてリストを書き出してみると、こんな感じになる。

             (素数のリスト)
             番号  素数
              1   2
              2   3
              3   5
              4   7
              ︙  ︙
             1157  9343
             1158  9349
              ︙  ︙
              $${n}$$  $${p_n}$$
              (おわり)

 うむ、悪くない。この世界のあらゆる素数はこのリストに載っていることになる。このリスト、売ったら儲かるだろうか。

 ありがたいことに、1158番目の素数が9349だと既に誰かが確かめてくれているので、$${n}$$は少なくとも1158以上だとは分かる。

 だから本当にこのリストをちゃんと書こうとしたら、かなり長いリストになる。書かないけど。

ターニングポイント

 何やら作為的な匂いがするが、この世界に存在する全ての素数をかけあわせてみる。

$$
N = 2 \times 3 \times 5 \times 7 \times \cdots \times 9343 \times 9349 \times \cdots \times p_n
$$

$${N}$$はよく分からんが、とんでもなく大きな数だ。それでも、とにかくある数だ。素数が無限にアレばこうはいかない。
 あと、$${N}$$は全ての素数で割り切れるのは、作り方から明らかか。

 こいつに、ちょっとしたいたずらをしてみよう。具体的に言えばこれに1を足してみる。

$$
M = N + 1
$$

 これだけなのに、効果は劇的だ。$${M}$$は全ての素数で割り切れなくなる。理由を次で説明しよう。


全ての素数で割り切れない理由

 $${M}$$が、たまたま何かある素数$${p}$$で割り切れたらどうなるだろうか。

上の式で$${N}$$を移項してみる。

$$
M - N = 1
$$

 さっき確認済みだが、$${N}$$はあらゆる素数で割り切れる。だから、素数$${p}$$で割り切れるのは当然だ。

 つまり、$${M}$$と$${N}$$は素数$${p}$$で割り切れている。

 すると、$${M - N}$$も$${p}$$で割り切れることになる。(理由は「補足1」で説明しておく。)

 これで左辺が$${p}$$で割り切れることが分かる。となれば、イコールでつながっている右辺も$${p}$$で割り切れないといけない。

 右辺とか言ったが、要するに1のことだ。1が素数$${p}$$で割り切れないといけない。しかし1だ。1を割り切るのは1だけだ。素数$${p}$$は絶対に2以上だから、1を割り切れるはずがない。

 だから$${M}$$が、たまたま何かある素数$${p}$$で割り切れるなんてことは起こらない。起こってはいけない。ということになる。


結論へ

 $${M}$$がどんな素数でも割り切れないことが分かった。
 あれ、$${M}$$ってなんだっけ?
 ちょっと書いてみよう。

$$
M = 2 \times 3 \times 5 \times 7 \times \cdots \times 9343 \times 9349 \times \cdots \times p_n + 1
$$

 そうそう、こんなやつだった。存在する全ての素数をかけ合わせて、1を足すんだ。こいつは、どんな素数でも割り切れないわけだ。

 しかし、算術の基本定理によれば、どんな数でも何かしらの素数で割り切れないといけない。(補足3)おっと、1は例外か。ただ$${M}$$は明らかに1より大きいから気にしなくていい。

 つまり、本当は、$${M}$$は何かしらの素数で割り切れないといけない。

 それが世界の決まりだ。

 素数が有限個しかないとすると、世界の決まりに反した数を作り出せてしまう。だから、素数は無限個ないといけない。

 証明終了だ。


補足1(差が割り切れる証明)

 $${M}$$と$${N}$$が素数$${p}$$で割り切れるなら、$${M - N}$$が$${p}$$で割り切れることを証明しよう。一見当たり前だろうか? ただ、改めて証明しろと言われると、ちょっと戸惑う感じだ。

 こういう時は定義に戻って考えるのが近道だ。

 調べてみると、「$${M}$$は$${p}$$で割り切れる」の定義は、こうだ:

$${M = kp}$$となる数$${k}$$がある。

 まあ、当たり前と言えば当たり前だな。ただ、その当たり前を途方もなく積み重ねることで、当たり前でない結論にたどり着くのが数学だ。ここは謙虚に受け止めよう。

 重要なのは$${k}$$という数の存在が保証されている、ということだ。

 同じように、$${N}$$は$${p}$$で割り切れるから、$${N = lp}$$となる数$${l}$$があるはずだ。

 とすれば、

$$
M - N = kp - lp = (k - l) p
$$

と書ける。これで$${M - N}$$が$${p}$$で割り切れると言える。少し分かりにくいだろうか。

 分かりやすくするために、$${k - l}$$を改めて$${m}$$とでもしよう。そうすれば、

$$
M - N = mp
$$

となる。これは$${M - N}$$が$${p}$$で割り切れる定義に一致する。

 証明終了!


補足2(矛盾の張本人)

 証明の核は、$${M}$$という数だ。$${M}$$が世界の理から外れた張本人だった。素数が無限にあることが分かった今、こいつの立ち位置はどうなっているのか、少し気になる。

 素数は無限にあるから、当然$${n}$$番目で終わりということはない。どんな大きな素数を連れてきても、「僕はそれより大きい素数です」というヤツが出てくる。

 ただ、$${n}$$を適当に決めて、

$$
M = 2 \times 3 \times 5 \times 7 \times \cdots \times 9343 \times 9349 \times \cdots \times p_n + 1
$$

という数を考えること自体は許される。何の問題もない。
 上でした証明と同じ流れで、$${M}$$は

$$
2, 3, 5, 7, \cdots , 9343, 9349, \cdots ,p_n
$$

の全てで割り切れないことが分かる。

 しかし、それだけだ。

 証明の時は、

$$
2, 3, 5, 7, \cdots , 9343, 9349, \cdots ,p_n
$$

がこの世界の全ての素数であるという前提があった。だから$${M}$$は全ての素数で割り切れない、と言えた。

 でも、今はそうはならない。$${p_n}$$の後にも素数は続いてゆく。

 $${M}$$は$${n}$$番目よりもっと先の素数で割り切れるだけだ。

 $${M}$$から矛盾が引き出されたのは、$${p_n}$$が最後の素数という前提があったからだ。今はそんなものはない。

 $${M}$$はただ「$${n}$$番目までの素数で割り切れない」という性質を持った数に過ぎない。

 ちなみに、ある$${n}$$について、たまたま$${M}$$が素数になることはある。しかしどんな$${n}$$についても$${M}$$が素数になるわけじゃない。

 本当かって?

 そこまで言うなら、試してみようじゃないか。俺もちょっと興味がある。

 $${n=1}$$の時、$${M=3}$$で、素数。
 $${n=2}$$の時、$${M=7}$$で、素数。
 $${n=3}$$の時、$${M=31}$$で、素数。

 ほう。頑張るじゃないか。

 $${n=4}$$の時、$${M=211}$$で、素数。
 $${n=5}$$の時、$${M=2311}$$で、素数。

 おいおい。まじか。

 $${n=6}$$の時、$${M=30031}$$で、素数ではない

 ふむ。まあ、こんなものだ。ちなみに、

$$
30031 = 59 \times 509
$$

と素因数分解される。ちなみに、59は17番目、509は97番目の素数だ。


補足3(算術の基本定理)

 1を除いたどんな数$${n}$$でも、必ず素数で割り切れることを証明しよう。

 と、思ったが、面倒なので証明のアイデアだけ書くことにする。数学的に問題のない形で清書する作業は、読者に任せる。

 で、アイデアだ。

 もし$${n}$$が素数なら、$${n}$$は自分自身という素数で割り切れるからOKだ。

 だから問題は$${n}$$が素数ではない場合。つまり合成数の場合だ。

 合成数は$${n=ab}$$と分解できる。

 分解先の$${a}$$または$${b}$$が素数であれば、話は終わりだ。なのでどちらも合成数と仮定することになる。だから、さらに分解可能だ。

 それでまた素数なら終わりだから、合成数と仮定して分解する。

 こうして分解を続けていって、どこかで素数が現れたら終わりだ。

 最後の可能性として、どこまで分解しても素数が現れない場合が残される。この場合、分解は無限に行われることになるのだが、これはありえないと分かる。

 なぜなら、分解をすると数は小さくなるからだ。各分解のステップ毎に、現れる数は小さくなってゆく。

 そして自然数には最小の数1がある。

 だからどこかで分解は終わる。つまり、あるステップで、分解後の数が合成数ではない瞬間が来る。

 それは素数が現れたということである。

 そこで、終わりだ。

 全ての場合について、$${n}$$は何らかの素数で割り切れることが言えた。

 証明終了!

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