見出し画像

ローレンツ変換に対する加速度変換公式の導出

状況の整理

 慣性系S,S'を用意する。S'はSから見て、x軸の正方向に速さVで進んでいるものとする。またt=t'=0において、両者の座標系は一致していたとする。
 この時、慣性系S,S'による事象Pの座標の間には、ローレンツ変換

$$
\begin{align*}
t'&=\gamma \left( t-\dfrac{V}{c^{2}}x\right) \\
x'&=\gamma \left( x-Vt\right)\\
y'&=y\\
z'&=z
\end{align*}
$$

が成立する。ただし、

$$
\gamma =\dfrac{1}{\sqrt{1-\left( \dfrac{V}{c}\right) ^{2}}}
$$

今回のテーマ


 ある粒子が時空を漂っている。
 この粒子の世界線が、たまたま事象Pを通過するとしよう。
 粒子が事象Pにおいて持つ加速度を考える。
 S,S'はそれぞれの座標系により粒子の加速度を観測するが、その2つの間にはどんな関係があるか調べたい。
 以下では、特にx軸方向の加速度に限定して見てゆくことにする。今後、話は全てx軸上で完結するので、いちいちxを添え字に付けることはしない。

速度の変換公式

 加速度の前に、速度で同じことを考えてみる。
 また、これを少しユニークな方法で行うことにする。その方法とは、無限小を隠さずに積極的に用いてゆくというものである。微分を習った時、微分の記号dy/dxは分数ではないことを教えられるが、これを本当に無限小dyとdxの商と考えることにする。そもそも、微積分の黎明期は無限小を使うのが当たり前であった。それが、近代になって数学が「洗練」されてゆく過程で、無限小概念は綺麗さっぱり捨て去られてしまったのである。ここで、その復権をしようと思う。どれだけ直感的に話を進められるかに注目して欲しい。
 事象PにおいてSが観測する粒子の速さは、無限小の時間間隔dtにおいて、粒子が起こす無限小位置変位dxとの商である:

$$
\dfrac{dx}{dt}
$$

 今、S,S'はローレンツ変換で結びついているから、Sにおいて座標の変化が起きれば、S'においてもローレンツ変換に従った座標の変化が起きなければならない。つまり、S'においても無限小の時間間隔dt'がdtによって「誘起」されて経過する。同様に、S'における無限小位置変位dx'も誘起される。そして、dt'やdx'は全く自由に値を取ることは出来ない。なぜならこれらはdt,dxとローレンツ変換を仲立ちとする関係性を保たなければならないからである。したがって当然その組み合わせであるdx'/dt'とdx/dtの間にも、何らかの関係性が成立しているはずであり、それがこれから求める速度の変換公式に他ならない。
 さて無限小の間にはどんな関係性が成立しているだろうか。
 ローレンツ変換の1番目の式を用いて、dt'を計算してみる。
 考えを整理しやすいように、粒子が無限小変位の末にたどり着いた事象をQとしよう。すると、

$$
dt'=t'_{Q}-t'_{P}
$$

であるが、$${t'_{Q}}$$はt+dtをローレンツ変換したものだから、

$$
t'_{Q}=\gamma \left( \left( t+dt\right) -\dfrac{V }{c^{2}}\left( x+dx\right) \right)
$$

となる。(x+dxであることに注意。)
 このアイデアで少し計算すれば、

$$
dt'=\gamma \left( dt-\dfrac{V}{c^{2}}dx\right)
$$

となる。
 この結果は、ローレンツ変換の1番目の式においてt'をt,xの二変数関数と考えて、無限小についての公式

$$
d(af+bg)=a\cdot df+b\cdot dg
$$

を適用すればすぐに得られる。
 同様に、

$$
dx'=\gamma \left( dx-Vdt\right)
$$

となる。したがって

$$
\begin{align*}
v'=\dfrac{dx'}{dt'}&=\dfrac{\gamma \left( dx-Vdt\right) }{\gamma \left( dt-\dfrac{V}{c^{2}}dx\right) }\\
&=\dfrac{\dfrac{dx}{dt}-V }{1-\dfrac{V}{c^{2}}\dfrac{dx}{dt}}\\
&=\dfrac{v-V }{1-\dfrac{Vv}{c^{2}}}
\end{align*}
$$

という、速度の変換公式を得る。

加速度の変換公式

 加速度についても全く同じ方針で進めることが出来る。つまりdv'とdv,dtの関係を明らかにする。
 ただし、ここでは商についての無限小公式:

$$
d\left( \dfrac{f}{g}\right) =\dfrac{df\cdot g-f\cdot dg}{g^2}
$$

を使うと楽である。

 上で求めた速度の変換公式に対してこの公式を用いれば、

$$
\begin{align*}
dv'&=\dfrac{d\left( v-V\right) \cdot \left( 1-\dfrac{Vv}{c^{2}}\right) -\left( v-V\right) \cdot d\left( 1-\dfrac{V\upsilon }{c^{2}}\right) }{\left( 1-\dfrac{V\upsilon }{c^{2}}\right) ^{2}}\\
&=\dfrac{\left( 1-\dfrac{V^{2}}{c^{2}}\right) }{\left( 1-\dfrac{V\upsilon }{c^{2}}\right) ^{2}}dv
\end{align*}
$$

を得る。これに既に求めてあるdt'とdt,dxの関係式を組み合わせれば、

$$
\begin{align*}
a'&=\dfrac{dv'}{dt'}=\dfrac{\dfrac{1-\dfrac{V^{2}}{c^{2}}}{\left( 1-\dfrac{V\upsilon }{c^{2}}\right) ^{2}}dv}{\gamma \left( dt-\dfrac{V}{c^{2}}dx\right) }\\
&=\dfrac{1}{\gamma }\dfrac{1-\left( \dfrac{V}{c}\right) ^{2}}{\left( 1-\dfrac{Vv}{c^{2}}\right) ^{3}}a
\end{align*}
$$

という加速度の変換公式を得る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?