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映画『ミスター・ガラス』考察メモ

自在に空を飛ぶ。天候を操る。怪力で金属をねじまげる・・・

アメコミの世界には、たくさんのヒーロー、そしてヴィラン(悪役)が存在します。彼らはたいていの場合、なんらかの特殊能力を持ち、それを活かして、自分の目的のために戦います。

「”スーパーヒーロー”は、実在するか?」

『ミスター・ガラス』は、この問いについて、リアルに描いた作品です。
原題は『Glass(ガラス)』。
監督は『シックスセンス』で有名なM・ナイト・シャマラン氏。

この記事は、『ミスター・ガラス』についての考察文です。
同監督の『アンブレイカブル』『スプリット』という作品についてのネタバレも含まれますので、まだ見ていない方は読まないことをおすすめします。

※以下、ネタバレ注意※


まずはじめに

『ミスター・ガラス』についての感想・考察文と言いましたが、実際は『アンブレイカブル』『スプリット』『ミスター・ガラス』3作品についての考察文となります。

実はこれ、3つ揃ってひとつの作品になってるんです。
『アンブレイカブル』は単体でも見られますが、正直『スプリット』は他の2作品ありきの存在というか、オチが「実はこの映画は3部作の2作目でした〜」っていう・・・前の映画を見てないとわからんっていうオチになってまして・・・・・・
それで以前にボロクソな感想文をね、書いてしまったんですけども・・・

『ミスター・ガラス』を見た今、私は心からこの3部作を愛していると言えます。『スプリット』は『ミスター・ガラス』のための布石だったんだ!

というわけで、『アンブレイカブル』『スプリット』『ミスター・ガラス』、3作品について、まとめて書いていきたいと思います。

ストーリー

ある家庭で、1人の子供が生まれた。その赤ん坊は生まれながらに骨折していた。先天性の病気により、異常に骨がもろいという体質の持ち主だったのである。彼の名はイライジャ。あだ名は「ミスター・ガラス」
骨折の苦しみから逃れるため引きこもりになりかけた彼のために、母親は「出かけるごとに続きを買ってあげる」と漫画を与える。やがてイライジャはヒーローとヴィランの物語に夢中になり、漫画の原画を扱う画商となる。

熱烈なアメコミ信者の彼には、独自の理論があった。
「スーパーヒーローは実在する。自分のように体がもろい人間がいるならば、それと真逆で、何が起こっても傷を負わない、ヒーローとしての素質を持った存在がいるはずだ」というものである。
彼は、”とある方法”でその素質を持った人間を見つけ出した。その人物の名前はデウィッド。乗客全員が死亡するという悲惨な列車脱線事故で、たったひとり無傷で生き残った人物である。

イライジャはデウィッドと接触し、彼にヒーローになるよう促すが、デウィッドはそんなイライジャの持論を否定し、「不死身の人間なんて存在しない」と断り続ける。一方で、息子のジョセフは「パパはヒーローだ」と信じ、デウィッドもだんだんと自分の人間離れした力に気づき始める。

やがて自分の能力を自覚したデウィッドは、緑色の雨合羽に身を包み、触れることでその人の罪を知覚する力を用いて、ヒーローとしての活動を始める。イライジャはそれに満足し、デウィッドに握手を求める。
デウィッドがイライジャの手を握った瞬間、”列車の脱線事故はイライジャが「不死身の人間を探すため」仕組んだものである”という衝撃的な真相を知る。イライジャは素質のある人間を探すために、事故に見せかけた大量殺人を何度も行っていたのだ。デウィッドの通報により、イライジャは逮捕され、精神病院へと収監される。

10年後。パーティから帰るところだった女子高生3人が、1人の男に誘拐される。男は解離性同一性障害(以下DIDと略)を患う、いわゆる多重人格者であり、神経質な青年デニス、穏やかな気質だが興奮すると怖い女性のパトリシア、9歳のヘドウィグなど、計23もの人格を持ち合わせていた。
彼らは「ビースト」と呼ばれる人格の目覚めを待っており、その生贄のために女子高生を誘拐したという。必死に逃げようとする女子高生たちだが、「ビースト」の目覚めと共に、逃亡は絶望的なものとなっていく。
「ビースト」の人格は、文字通り”獣”であり、肉体そのものが強化され、素手で壁を登る、鉄の柵を捻じ曲げる、銃で撃たれても傷つかないという恐ろしい存在だった。

しかし、捉えられた女子高生のひとり、ケイシーは、誘拐犯の本名「ケビン・ウェンデル・クラム」を知り、ビーストを主人格のケビンに強制的に戻すことに成功する。
ケビンは過去に虐待を受けており、ビーストは”苦痛を知らぬ者たち(=虐待などを受けず生きてきた者たち)”を不純なものと見なし、制裁することを目的としていた。かつて叔父に性的虐待を受けていたケイシーの身体の傷跡を見たビーストは、彼女を仲間と見なして見逃す。

-ここまでが『アンブレイカブル』『スプリット』の話です-

-ここから『ミスター・ガラス』の話になります-

女子高生拉致事件について知ったデウィッドは、”苦痛を知らぬ者たち”を拉致しては殺害するビーストの犯行を阻止するため、息子のジョセフと協力しながら事件現場の近くを歩き回り、通行人に触れることでビーストの正体を突き止めようとする。
デウィッドには「監視する者」というあだ名がつき、雨合羽を着た謎のヒーローとして世間に知られ始めていた。また、ビーストを中心として動く多重人格者は「群れ」と呼ばれ、恐れられていた。

やがて、デウィッドは9歳の人格のヘドウィグと道端でぶつかり、彼が「群れ」であることを知る。拉致された女子高生を助け、ついにビーストと戦うことになるデウィッドだったが、彼らが本格的に戦い始めようとしたその瞬間、警察が到着し、ビーストは強力なフラッシュライトによって人格を強制交代させられ、デウィッドは抵抗すれば無駄な犠牲が出ると警告され、2人は精神病院へと収容される

その病院では、特殊な患者の研究を行っていた。「自分をスーパーヒーローだと思いこんでいる人物」を専門とした研究である。
Dr.ステイプルと名乗る女医は、超人的頭脳を持つ「ミスター・ガラス」ことイライジャ、23の人格と”ビースト”と呼ばれる怪力の人格を持つ「群れ」であるケビン、悪人を見抜き不死身の肉体を持つデウィッドの3人を対象として、「スーパーヒーローなど実在しない」と、彼らを妄想から目覚めさせるための治療を始める

ステイプルの説得は、非常に筋の通ったものだった。
ビーストが撃たれた銃は「火薬が湿気で駄目になっていた」ため、ビーストは傷を負わなないで済んだ。デウィッドが人の罪を知覚できるのは「無意識に相手の服装などから推理している(相手の服についた汚れなどから推測を行う、いわゆるメンタリストと同じことをしている)」。

説得に応じない素振りを見せつつも、「群れ」の人格のひとりであるパトリシアや、ヒーロー活動をしていたデウィッドは、段々と「ただの思い込みではないか?自分は一般人でしかないのでは?」と考え始める。
また、イライジャは10年の収容生活の間、その知能の高さを恐れられ、鎮静剤で薬漬けにされており、「妄想の治療」をするまでもない廃人状態となっていた。

しかし、ある日のこと、病院のスタッフはイライジャが部屋を出て廊下にいるのを目撃する。厳重なロックをしているはずの部屋からどうやって出たのか、イライジャに対する警戒を高めるため、ステイプルは病院のすべてが見えるよう監視カメラを設置する。

イライジャは、廃人のふりをしていただけだった。彼は「スーパーヒーローは実在する」という持論を、ずっと信じ続けていたのである。
病室から脱走し、同じく個室に閉じ込められている「ビースト」への接触をはかり、イライジャは脱走の計画を練り始める。

イライジャの計画は「スーパーヒーローが実在することを証明するため、ヒーローであるデウィッドとヴィランである”ビースト”を大衆の面前で戦わせる」というもの。舞台として選んだのは、新しくオープンする高層タワー。

「ビースト」の脱走を手伝い、自身も外に出る準備を整え、イライジャはデウィッドにマイク越しに告げる。「ヒーローとしての力を示さなければ、大勢が死ぬことになる。阻止したければ、鉄の扉を自力で突破してこい」と。

デウィッド、ビースト・・・彼らの”力”は果たして本物なのか?
イライジャの持論は、本当に正しいのか?

スーパーヒーローは実在するか?

さて。
3部作の1、2である『アンブレイカブル』『スプリット』に関しては簡単に全ストーリーについて語り、『ミスター・ガラス』に関しては、オチまで語らずに、あらすじ的なところだけ述べましたが・・・

正直、どうやって書けば、この3部作の構成の素晴らしさについて伝えられるのか、非常に悩んでます。マジでどう言えばいいんだろう。

まず、結論から言ってしまいましょう。

スーパーヒーローは実在しました。
イライジャの持論は正しかったのです。

ではなぜDr.ステイプルは、誇大妄想として彼らを”治療”しようとしたのか?
それは、彼女がある特殊な組織に属していたからです。

映画の最後の最後で、彼女はネタばらしをします。
”私たち”は善も悪も贔屓しない。バランスをとるのが仕事。あなたたちは、紛れもなく本物だった。でも、それを世間が知ることは、秩序を乱すことになる。だから、私が派遣された」・・・

「スーパーヒーローなど存在しない」とステイプルは3人を説得していましたが、それはあくまで彼らを一般人と思い込ませるための詭弁で、ステイプルとその裏にある組織は「スーパーヒーロー」の存在を世間から隠すために動く、いわば隠蔽工作が仕事だった、というわけです。

ステイプル率いる特殊部隊は、イライジャの目標である高層タワーに行かせることなく、病院の敷地内でデウィッド、ビースト、イライジャを囲み、彼らを無力化させます。
デウィッドは唯一の弱点である水によって溺れ死にさせられ、ビーストは主人格のケビンに戻ったところで胸を撃ち抜かれ、イライジャは肋骨を折られて息絶え絶えの状態。なんと、主要人物、全員死亡。

ここでまず、観客は「いっぱいくわされた」ことになります。
だってずっと「ヒーローなんていないんじゃないか・・・?」と思わされ続けていたわけですからね!まさかステイプルの方が工作員とは思わないわ!
(※ステイプルはあくまで工作員で、特殊能力を持つ存在ではないです)

しかし、そこで終わらないのがシャマラン作品。
さらなるどんでん返しが待っています。

黒幕としての「ミスター・ガラス」

デウィッドがヒーローで、ビーストがヴィランなら、ミスター・ガラスことイライジャは、一体なんなのでしょうか?
列車脱線事故を引き起こしたから、やってることは悪役のそれです。となると、ヴィランになるのか?しかし、ヴィラン枠にはビーストがいる。

ミスター・ガラスは、マスターマインド(黒幕)の立ち位置なのです。

では、黒幕は何のために存在するか?
1.ヒーロー/ヴィランの誕生に何らかの関与をしている。
2.裏で様々な計画を練り、真の目的を悟らせない。
3.最後に観客をあっと驚かせる。

まずひとつめ。
ヒーロー/ヴィランの誕生への関与について。

イライジャは、列車脱線事故によってデウィッドを見つけ出し、彼をヒーローに仕立て上げました。
そして、驚くべきことに、彼はビーストをも生み出していたのです。

ビーストの主人格であるケビンは、母親の虐待によって変貌しました。父親はそんな母親を病院に連れて行こうと考えていましたが、その前に失踪してしまうのです。ある列車に乗って、出かけてしまったために・・・。

デウィッドひとりを残して、すべての乗客が死んだ悲惨な脱線事故。
その犠牲者のひとりが、ケビンの父親だったのです。

つまり、イライジャは列車事故により、ヒーローとヴィランを両方誕生させたことになるのです。
これは、イライジャにとっても予想外の出来事だったようで、ビーストの誕生に自分が関わっていたことは、彼自身が驚き、そして喜んでいました。

次に、真の目的について。
イライジャの計画は「多くの人物に目撃させるために、新しくオープンする高層タワーで、ヒーローのデウィッドとヴィランのビーストを戦わせる」というものでした。表向きは。

結局その計画は失敗に終わり、彼らはタワーにたどり着くことなく、病院の敷地内で戦い、命を散らすことになります。
これでは、イライジャの「スーパーヒーローは実在する」という持論が正しくても、大衆に証明することはできない。ステイプルの目論見どおり、彼らは誰にも知られることなく、存在を消されてしまいました。

・・・と思いきや。
ここで思い出していただきたいのですが、イライジャは廃人状態の演技をし続けていたにもかかわらず、なぜか廊下に脱出してみせました。
これにより、イライジャに対する警戒を高めるため、ステイプルは病院のすべてが見えるよう監視カメラを設置した・・・。

デウィッドとビーストの戦いは、タワーではなく病院の敷地内で行われた。
その超人的なバトルは、全てイライジャのために用意した監視カメラに記録されたのです。

もちろん、ステイプルは、データを残しておくようなヘマはしません。きっちりデータを消しました。しかし、イライジャはそれを見越して、データを消される前に、とある人物のもとへデータを送るようにプログラムを仕込んだのです。

こうして、ステイプルの必死の努力も虚しく、スーパーヒーローの存在証明のための映像は、第三者の手元に渡りました。どんまいステイプル!

何が言いたいかというと、イライジャははじめからタワーに行く気などなく、カメラの設置された病院の敷地内でヒーローの戦いを録画させ、それを証拠として外部に流すことが真の目的だった、ということです。

「観客をあっと驚かせる」には、もうこれで十分でしょう。
ラストで監視カメラごしにステイプルが「なんてことをしてくれたの、イライジャ!」と絶叫するシーンは、なかなか胸がすっとしました。

さすがはミスター・ガラス!悪魔的頭脳!
まさにお前がマスターマインド(黒幕)だ!

これは”はじまりの物語”

「ミスター・ガラス」ことイライジャは、常に自身の身体の脆さに苦しんできました。彼は、ずっと問いかけ続けていたのです。「こんな苦しい人生を歩むなんて、自分は何のために生まれてきたのか?」と。

そんな彼の人生の目標となったのは、「スーパーヒーローが実在することを世間に知らしめること」。彼はアメコミを歴史書の一種として信じ、超人的な力を持った存在がいるという持論を証明するために、事故に見せかけた大量殺人を行って、多くの犠牲者を生み出してきました。

その結果、見つけたのが不死身の男、デウィッド。
そして、嬉しい予想外として生まれた、怪力のビースト。

イライジャは、自分の父を殺した犯人であると知ったビーストに胸を砕かれ、最終的には絶命に至りますが、駆け寄ってきた母親にこう語るのです。

「ぼくは用無しじゃなかった」。

この意味は、最後まで映画を見ることで、ようやくわかりました。
イライジャは「ヒーローは実在する」という持論を立てて以来、狂気にも近い粘り強さで、自分の正しさを証明するために生きてきたのです。

そして、病院にカメラを設置させ、さらにそのカメラにデウィッドとビーストの戦いを記録させ、それを第三者のもとへ転送した。第三者はそれを動画サイトなどに拡散し、世間にヒーローの存在を知らしめる。

デウィッドを見つけ出すまでに9年。病院に収容され、デウィッドたちが収容されるのを待ち、監視カメラを設置させるまでに、さらに10年。
計19年かけて、イライジャは「ヒーローの実在証明」をやり遂げたのです。大量殺人を行い、廃人のふりをし、自分の命すらも駒にして。

『アンブレイカブル』はヒーロー・デウィッドの誕生の物語、『スプリット』はヴィラン・ビーストの誕生の物語として描かれていますが、3部作のラストである『ミスター・ガラス』を観ると、『アンブレイカブル』『スプリット』『ミスター・ガラス』、全てはイライジャ=ミスター・ガラスの物語だったのではないか、と私には感じられました。

1作目の『アンブレイカブル』は、イライジャの生まれるシーンから始まります。そして、最終作の『ミスター・ガラス』は、イライジャの真の目的が明かされ、彼の念願が果たされる(世界中にヒーローの存在が証明される)ところで終わるのです。

イライジャは、ヒーローの存在を証明することで、世界中にいるであろう超人的力を持つ人たちを、「君は本物だ」と自信を持たせたかった。ここから、多くのヒーローが生まれるだろう、だからこれは”はじまりの物語”なんだよ、と彼は語りかけます。

イライジャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!
やってることはマジで極悪人だけど・・・だけどイライジャ・・・!!!
19年をかけて自分の生まれた意味を証明してみせたイライジャ!!!!!

M・ナイト・シャマラン監督〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!

もうね、個人的にね、とにかくイライジャへの感情が溢れて止まらない。

もちろん他のキャラも大好きですよ。特にマカヴォイ氏が演じる多重人格の演技は必見です。顔の変化だけで誰になったかわかるってヤバくない?

本当はもっといろんな感想とか、細かい考察したいんですが、文字数がとんでもないことになってるので筆をおきます。

ここまで読んでくださった方は根気強い!ありがとうございました!

おまけ

考察用に作った年表も、せっかくなので置いておきます。

ここまでお付き合いくださって、ありがとうございました!
M・ナイト・シャマラン〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!

サポートしていただけると心身ともにうるおいます(主にご飯代にさせていただきます)。ここまで読んでくださってありがとうございました!