『天啓予報』第33章 そしてあんたはこう言う……
第三十三章 そしてあんたはこう言う……
「四億三千三百四十一万オンス」
烏鴉は淡々と言った。
「これは昇華者の間で最もよく使われている通貨――源質の結晶に換算したもの。
北欧地区最大の昇華者集団『金宮』はこの聖痕を発掘するために、資源型辺境を担保に侏儒銀行から多額の融資を受けたけど、最終的に手に入れたのは天文会技術部の深淵考古学部だったわ。少なくとも十年間は発掘資金には困らないでしょうね。
もしこの価格水準が何を表すのかよくわからないのなら、こう言いましょうか。2・1オンスの源質の結晶は、ちょうど一人の成人が持っている源質。天文会の参考レートでは、彼らのどんな下位部門で換金したとしても二百万以上の東夏元になる――闇市場では換金率は三分の二上昇する。
食い詰めた昇華者以外は、自分の源質の結晶をお金に換えることはしない。源質の結晶は最強のハードカレンシーなのよ。
あなたが天文会の臨時職員として何十年勤めたらこんな大金を稼ぐことができるかしら?」
槐詩が貧しさのあまりその数字が想像できない様子を見て烏鴉は笑いそうになり、槐詩の耳に顔を近づけて囁いた。
「考古学者たちは深度六の地獄で運よくひとつの化石を拾っただけ……まだ常人と同じ人生を歩みたい?」
「……」
槐詩は長いこと沈黙した。
「なんとなく、騙されているような?」
ここまで説明したのに、まだ決心の付かない槐詩を前にして烏鴉はがっかりした。
槐詩は溜息をついた
「こう言うんだろ?『まさかお姉さんがあなたを騙すと思って?』」
「……」
烏鴉は言おうとしてやめた。
「そして俺は言う」
槐詩は再び溜息をついた。
「――『そうだ、思ってる』」
「学習したのね。お姉さんもやりづらいわ」
烏鴉はまったく悪びれる様子もなく煙草に火を点け、頭を振った。
「よかれと思ってお金を稼ぐ方法を教えてるのに」
「ちょっとでも分別のある人間なら、一攫千金なんて夢は見ないもんだ」
槐詩は絶対に騙されないぞという決心をした。
「何と言われようと、俺は金のために命は売らないぞ」
烏鴉はまったく意に介さなかった。
「そんなこと言わないで、この記事も見て」
正直なところ、槐詩は烏鴉がいつもネットでどんなおかしなものを見ているのか知りたかった。
だが槐詩は再度決心を固くすると、立ち上がって厨房に行った。昼食を食べたにもかかわらず、まだ三時だというのにもう腹が空き始めていた。
棚を開けて、槐詩は愕然とした。
俺の麺が!
先週買ったばかりで、棚いっぱいだった麺が!
「……」
槐詩は猛然と烏鴉を睨みつけた。
「お兄さん、麺がなくなったことまで私を疑うの?全部私が悪いの?五十キロの素麺だって、一日五回、一回に鍋半分も食べていればあっという間になくなるわ。米も麺も、あなたが食べ尽くしちゃったんでしょう?」
烏鴉はちょっと言葉を切り、槐詩がゾッとするような笑みを浮かべた。
「で、またお腹空いたの?」
「……」
「成長おめでとう!」
烏鴉は羽根でパチパチと拍手をした。
「常人が昇華者になると、二度目の成長期に入るの。霊魂が肉体に影響して、体がもう一度成長期を迎え、各器官が常人の極限まで、ある部分はそれ以上に成長するの。
十七歳のあなたはもともと成長期だから、成長期に成長期が重なって、二倍の成長期に四倍の飢餓ってわけ。だから、栄養不足で自分の筋肉を消化してしまわないように、素麺ばかり食べてちゃだめよ」
なぜかはわからないが、槐詩はますます面白くなくなった。
「じゃあ何を食べろと?」
「一般的には、高カロリーなもの。カロリーは高ければ高いほどいいわ。いちばんいいのは、デブの快楽餅、デブの快楽鶏、デブの快楽水のセット。これをめちゃくちゃに詰め込むのがいちばん経済的。欠点は一日に何回もトイレに行かなきゃならないことと、クラスメイト達に笑われて社会的に死んだ上に半年後に成人病になることね」
槐詩の脚から力が抜けた。
「昇華者ってやつはなんて哀れなんだ!」
「冗談よ。だけど他の昇華者はお金がある」
そこまで言うと、烏鴉はやるせなさそうに溜息をついた。
「残念だわ。私のような親切な人が側にいて、あなたのために栄養剤を作ってあげられるっていうのに……」
烏鴉は槐詩に向かって期待を込めた目をぱちぱち瞬かせた。
「お金がなくちゃ、材料も買えないわ」
「金を巻き上げたいならそう言え」
「あなたのために使うのに、なぜ巻き上げるなんて言うの」
烏鴉はカーカーと笑った。
「栄養補助剤は一日一本飲めばいいわ。だいたい一か月で成長期は終わる。 私たちの仲だから加工費は要らないけど、材料費は一本につき千六百東夏元、一か月だと……うん、十万で足りるわ」
「十万元で成長ハッピーセットを買えと?」
槐詩は自分の鼻を指さした。
「俺をバカにしてるのか?」
「これは良心的な値段よ。昇華者になって十万も出せない人がいるとは思わなかった」
そこまで言うと、烏鴉は横目で槐詩を見た。
「課金と無課金の差を知ってる?成長期に基礎をしっかり作っておかないと後になって差が開くわ。もし最上の効果を得られたなら、身体能力はトップアスリート並みになるのよ。ついでに言っておくと、天文会が提供している成長剤は三十万元以上。効果は抜群よ」
「……」
「だから、頑張れ、少年。十万元なんて、ちょっと頭を使えば簡単じゃない?」
烏鴉は羽根の下から一本の試験管を取り出し、槐詩の目の前でゆらゆらさせ、悪魔の誘惑のように囁きかけた。
「まず味わって。お代は後でいいわ」
「バカ言え。この槐詩たとえ飢え死にしようとも……とも……ゴクリ……」
槐詩は目の前の試験管を見た。烏鴉が揺らすのに従い、人を誘う香りが広がった。えも言われぬ飢餓が体の中から呼び覚まされ、体中すべての細胞が飢えを叫んでいた。
脈拍上昇、唾液分泌、瞳孔拡散、胃腸収縮。
本能的な飢えは固めたばかりの決心をぐらつかせ、頭は緑色の薬剤で一杯になった。槐詩の頭の中で声が狂ったように叫んだ。飲め!飲め!飲め!
……十秒後、槐詩は長々と息を吐いた。芳醇な美酒のような味わいが口の中に広がり、体は温泉に浸かったようである。槐詩は思わず悔恨の涙を流した。
「美味い!」
「飲み終わった?」
烏鴉は和やかに尋ねた。
「金の催促か?」
槐詩はサッと警戒した。
「いいえ、私が言いたいのは、……」
烏鴉は白銀の羽ペンに変化すると、槐詩の霊魂を運命の書の中に呼び込んだ。
「――食後の運動でもしない?ってこと」
槐詩が何か言う前に、羽ペンが運命の書をつついた。
目の前が真っ暗になった。
槐詩はまたまた死んだ。
その瞬間、槐詩は豪雨が空から降っているのを見た。世界が水に沈んでしまったかのようだが、彼は炎の中にいた。
ガソリンの炎が上がり、少しずつ彼を覆っていった。
大爆発の中、体がバラバラになるのを感じた。だがこれは予想できることで、怖くはなく、却って一種の解放感があった。
これほどまでに静かで、何の恨みも憎しみもない死はかつてなかった。
ただ淡々とすべてを受け容れていた。
目を閉じ、終わりが来るのを待っている。
死亡記録が終わる時、槐詩は動けず、麻痺したような静けさの中にいた。
今回の死はとても深かった。
呼吸も忘れ、自分が生きていることも忘れてしまうほど。
槐詩は顔色を青くして突然ビクッと反応した。激しく息を切らせると、咳こんで食べた素麺を危うく吐きそうになった。
槐詩は慌てて口を手を覆った。
さっき飲んだばかりの数千元の薬が、いま吐いたら、無駄になってしまう!
金は俺を冷静にさせる。
「ああ!悟りを得たようね!」
烏鴉は感嘆した。
「解脱型の死は珍しいわ。体験するのはいいことよ。紅手袋の奴、死に際に悟りを開いて一段レベルアップしたなんて、あなた得したわね。いまどんな感じ?」
「腹が減った」
槐詩は顔を上げて烏鴉をじっと見た。
「特にカラスが食べたい」
あの静かな死のことを思うと、槐詩は思わずゾッとした。静かで安らかな死は珍しいとはいえ、あの死の体験は槐詩に死の恐怖よりも深さと強さを感じさせた。
あれほどの静かさと穏やかさは、もはや無関心と言ってもいい。
毛ほどの未練も執着もなく、死の間際、自分を殺した槐詩に対する恨みさえなかった。
まるで……自分の人生に何の意味もなかったかのような。
「で、それが結局何の役に立つんだ?」
槐詩は額に手をあて、努力して冷静な状態を自分の意識から追い出そうとした。いたいこの突然の賢者モードはなんなのか。
「自分で見てみたら」
烏鴉は直接運命の書の扉をめくり、最初のページの記録を見せた。
前半の項目は応激期の三文字が削除された以外は変化がなかったが、日食の紋章が昇華の成功を表している。
神跡刻印と聖痕の欄は空白のままで、次の技能欄も変化がない。
ただ……
「死亡予感がレベル1になってる?」
槐詩は驚いた。
たった一度の死亡体験が、何度死んでも灰色のままだった技能を完成させた?
「この珍しい死亡パターンには彼の人生が関係しているんでしょうね。それはそれとして、夜は長いんだし……」
烏鴉はまた槐詩を不安にさせる笑みを浮かべた。
「昇華者として、運命の書の新機能を試してみない?」
「だが断る!」
訳者コメント:
昇華者としての能力を伸ばすには、莫大なお金がかかるということがわかりました……超能力の強さも金次第?!これって中国的な感覚なのでしょうか??
槐詩と一緒に、紅手袋の死に際の意識を我々も垣間見ることができました。
紅手袋がどんな人生を送ってきたのか、詳しく知りたいです……