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限界に近かった1年前の思い出(Homecomingsに捧ぐ)

忘れないように
ここにずっと書いておくけど
口ずさむ君がいなくなったら
煙の中で消えてしまう

Homecomings「Smoke

Homecomings(ホムカミ)の曲をはじめて聞いたのはいつだろう。昔聞いていた伊集院光の深夜ラジオでかかった「PLAY YARD SYMPHONY」を耳にしたことがきっかけだったはずだ(番組の雰囲気とまったくあっていないのがすごい)。だから多分6年前くらいのことではないか。Spotifyが日本でもサービスを開始したのもそのころのはずで、使い始めたばかりの私のSpotifyのお気に入りはホムカミの曲がかなりの割合を占めていた。

都内でのライブにもよく行くようになって、年末はほぼ毎年ライブに行っている気がする。そして今年も参加した。12月10日、場所は横浜の大さん橋ホール。しかも久々にストリングをともなった演奏もするという触れ込み。遠かったが、行ったかいはあった。個人的な理由で、今年の12月のライブにはどうしても行きたかったから。


去年の今ごろ、私は心身ともに絶不調だった。仕事をうまくさばけず追い詰められていたことが一番の原因だと思う。常に頭痛がしていて、フラフラと軽いめまいのような感覚に襲われ、会社の自席ではしばしば涙をこらえていた。朝、目が覚めて最初にすることが「泣く」だったこともある。こんな状態だから当然仕事などはかどるはずもなく、余計追い詰められていた。いかにもありそうな悩みだが、ドツボにはまっている最中の主観としてはなかなかつらい。

そんな絶不調真っ只中だった2022年12月25日日曜日、私は渋谷クワトロで行われたホムカミのライブに行っている。ライブ当日も会場に向かう前に少しだけ休日出勤していた(朝起きれなかったので本当に数時間程度だが)。クリスマスの浮かれた渋谷で、仕事でつぶれかけながら独りよれよれと歩いていることも惨めな気持ちにさせた。

それなりに参っていたのだろう。「i care」で畳野彩加の歌声を聞いたとき、人目をはばからず(と言っても暗いライブ会場だから誰にも気づかれないが)泣いてしまった。ちなみにこのときのライブの様子は一部YouTubeで公式に配信されているが、私が泣いていたのはまさにこの場所、この曲だ。

それからというもの、ホムカミの曲は私の精神安定剤だった。結局私の不調は4月くらいまで続いたし、その後も気分が落ち込むことはどうしてもある。そして涙をこらえるたびに、昔の曲も含めてホムカミの曲をよく聞いた。上記のライブの動画を見返すこともあった。今現在はなんとなく平穏でいるが、それでも「誰も助けてくれないな」という感覚だけは残っていて、やはりたびたびホムカミの曲を聞いては気分を紛らわしている。今にして思えば、仕事を優先してライブを諦めなくて本当に良かった。そういうことはたまにあるから。

今日、12月10日のライブには、これから生きるための糧をすがるような思いと、これまで生きてきた感謝を少しでも伝えたいような思いを半々ずつ持って臨んだ。大げさだし勝手だと我ながら思うが、「今年の冬もホムカミのライブを見れる」という感覚が私にとっては大事なものになったのだ。


実は「i care」はあまり好きではなかった。歌詞が単純すぎない?などと思っていたからだ。別の言い方をすれば、「ああ、"あらゆる色に花束を"って今どきって感じの内容だな」とか、「わざとらしいな」とか思ったのだ。ラジオやSNSを通じてバンドの「やさしい」世界観を知っていただけに、むしろなおさらそう感じたのだ。だから、この曲で泣いてしまったことは自分でも正直意外だった。けれども、振り返って思えば、このわざとらしいほどの"やさしさ"が当時の私には必要だったのだろう。

終わらない仕事と頭痛に頭を抱えているとき、一番つらかったのは誰からも見捨てられているような感覚だったことだ。もちろん、実際はそんなことなかったのかもしれないし、誰かを悪者にしたってしかたがない。ただ、自戒として思う。陰に隠れたやさしさなど、裏でひそひそ噂話をする陰湿さと区別がつかないのではないか。少なくとも追い詰められている人にとっては。イエスは「右の手のしていることを左の手に知らせてはならない」と言ったが、人にやさしくするためには、ときにわざとらしさを恐れてはいけないのかもしれない。


はっきりさせないと伝わらないなら、本人たちには届かないだろうが私自身のためにもホムカミに宛ててここに書く。私はあなたたちに本当に感謝している。今日のライブも素晴らしくて、1曲目「Here」のドラムの入りからずっと幸せな時間だった。「Smoke」では少し泣きそうになっていた。ストリングスセットでの「PLAY YARD SYMPHONY」を聞けたのも嬉しかった。スピーカの前の席だったこともあってか音もよく聞こえて、バンド編成での曲のアウトロでギターのフィードバックノイズが美しかった(どの曲だったか忘れてしまったのだけど……)。なにより、一年の終わりに4人での新曲を聞けて本当に良かった(2月の京都でのライブは多分行けないだろうから、なおさら)。

来年からのホムカミはこれまでと違うものになるのかもしれないし、ならないのかもしれない。いずにしても、私はきっとあなたたちの曲を聞き続ける。できれば、惨めだった今年とは違った気持ちで聞いていたい。そしてできれば、私もあなたたちのようなやさしい人でありたい。

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