論文サマリ「Mechanical Impedance Control of a Robot Arm by Virtual Internal Model Following Controller」K. Kosuge, K. Furuta and T. Yokoyama , in Proceedings of IFAC 10th Triennial World Congress, pp. 239-244, 1987.

オリジナル論文へのリンク計測自動制御学会誌論文

Introduction

ロボットは外界から孤立したシステムではない。(機械的相互作用の有無に関わらず)外界と調和した運動を行わせるためには、外界の情報(事前に分かるものと実時間でセンサで得るもの両方)に基づく制御が望まれる。

筆者らの提案する「仮想内部モデル追従制御」の要点は、外界情報に対する望ましい振舞(仮想内部モデル)との誤差システムを安定化することで、外界と調和した運動が実現できる、というものである。この制御を応用することで、(機械)インピーダンス制御が実現できる。Hoganの方法がモデルマッチングに基づくのに対し、我々の方法はモデル追従サーボ制御に基づく、という違いがある。

Mathematical Model of Robot Arm

ロボットの運動方程式は

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と表せる。ただしθは一般化座標、τはそれに対応する一般火力、τ_fは環境との機械的相互作用によりロボットが受ける外力、f(θ,dθ/dt)はコリオリ力・遠心力・粘性摩擦力、g(θ)は重力、M(θ)は慣性行列(正定値対称)である。θは通常関節角度を表し、ロータリエンコーダで計測できる。

また、作業座標系への変換を次式で表す。

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ただしxは作業座標で、冗長性や退化は考えない i.e. T(.)は常に正則とする。これらに基づいて運動方程式を作業座標系で表すと

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となる。ただしJ=∂T(θ)/∂θはT(θ)のヤコビ行列であり、仮定により正則。

新たな入力uによって

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と選ぶことで、システムを厳密に線形化できる。ただし*_cはモデルに基づく*の推定値を意味する。これらの推定誤差はロバスト制御で抑制できる。

Virtual Internal Model Following Control System

通常、サーボ制御は参照軌道への追従のみを行うもので、実時間で取得した外界情報を使って例えば環境との干渉を避けるべく参照軌道を修正する、という機能は持たない。そのような機能を高次制御システムに持たせることも可能ではあるが、応答性を高めるために、できれば寧ろ最下層に入れたい。

一般性を失わず、参照軌道が次システムに従って生成されると仮定できる。

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u_m=d^2x_d/dt^2と与えると、誤差が無ければx_mはx_dを再現する。e=x-x_mおよびu_e=u-u_mを定義すると、次の誤差システムを得る。

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通常のサーボ制御は上記システムの状態を零に収束させるものだが、本稿では、外界情報に基づいて次のように軌道修正を行うことを考える。

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ただし、e_mは軌道修正量 i.e. x_m=x_d+e_m、u_fは作業座標系における外力、u_sはその他の任意の外界情報である。またxも外界情報の一部として扱う。hは安定であれば何でも良い。参照システムへの入力を

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で与えたものが仮想内部モデルである。x_mへの追従は任意のロバストサーボ制御によってなされる。以下では簡単のためPID補償を仮定する。

Mechanical Impedance Control

目標機械インピーダンスモデルを次式で設計する。

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i.e.

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簡単のため、ロボットの運動学特性&質量特性は正確に分かっているものとする。これまでの式を用いてラプラス変換すれば、

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と表せる。ただしK_1, K_2, K_3はPID補償ゲインである。左の()内の関数は正則なので、結局

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つまり実際の作業座標の応答は仮想内部モデルの応答と同一になると分かる。外界の動特性が

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で表されるなら、閉ループ系の伝達関数はG_m(s)とG_e(s)の積なので、G_m(s)とG_e(s)がそれぞれ安定であれば系全体も安定(必要十分条件)。

G_m(s)は常識的に安定となるように設計されるし、大抵の場合G_e(s)は(自然のシステムなので)安定である。ただし非常に硬い i.e. 粘性が小さく弾性が大きい場合、閉ループ系の位相余裕は小さくなってしまい、センサーの位相遅れが無視できない場合は高周波数領域で不安定化する可能性がある。このような場合はG_m(s)に位相補償を入れると良い。

註:計測自動制御学会誌掲載の日本語論文によれば、実験は山武ハネウェルAR1-Pの先端に日立建機の6軸力センサLSA6010を取り付けて、3関節のみ用い(残りはメカニカルに拘束して)行われた。サンプリングレート50Hzで、1/3Hz程度の変動外力によく応答させることができた。

Remarks and Conclusion

Hoganのモデルマッチングによるインピーダンス制御では、システムの安定余裕は設計された機械インピーダンスモデルのそれに一致することになるし、動特性推定誤差の影響は考慮されていない。Kazerooniらの方法ではある姿勢の近傍で線形近似されたシステムを仮定しているので、そこから離れた姿勢での特性は議論できない。仮想内部モデル追従制御では、安定余裕はインピーダンスモデルと独立にサーボ制御で設計できる。ロバスト制御により動特性推定誤差の影響も抑えられる。また厳密な線形化を用いているので、作業空間全体(特異点を除く)で有効である。

References

N. Hogan, Impedance Control Part 1~3, Trans. ASME J. Dynamic Systems, Measurement and Control, Vol. 107, pp. 1-24, 1985.
K. Kazerooni, T. B. Sheridan and P. H. Houpt, Robust Compliant Motion for Manipulators, Part I and II, IEEE J. Robotics and Automation, Vol. RA-2, pp. 83-105, 1986.
他は略。

読後所感

仮想内部モデル追従制御はアドミッタンス制御とも呼ばれる。厳密な線形化とロバストサーボ制御の合わせ技でロボットの特性を強力に補償し安定余裕を稼ぐ方法であり、バックドライバビリティの低い産業用マニピュレータでは非常に有効である。

一方で、高周波領域や特異点近傍で不安定化する可能性がある点はやはり怖い。また、伝達関数の正則化により実際の作業座標の応答が仮想内部モデルの応答と一致するというのは事実と異なり、サーボ制御系の高周波振動が設計された機械インピーダンスの応答に重畳されることになる。Hoganの(モデルマッチングによる)方法ではこれらの問題は生じない。

時代は変わり、外界と機械的相互作用するロボットにおけるバックドライバビリティの大事さが認識されるようになった。技術も進化し、バックドライバビリティを有する商用ロボットが多く登場してきている。両者の性質についてさらに深い議論が、今求められている。

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