神なき世界に祝福を。

 空には星が浮かんでいる。
まだ暗い大地は、攻撃によって何ヶ所か抉られていた。
しかし、この地球は壊れていなかった。
勝ったのだ、この世に理不尽を押し付ける者達に。
しかし、この世の理不尽に立ち向かった者達の力は消え始めていた。
否定者達を取りまとめながら戦ったボス、出雲風子は満身創痍ながらも相棒・アンディの元へと向かった。
程ないところに彼は居た。彼はボンヤリと夜空を見つめていた。
「…勝ったんだね、私たち」
風子がポツリと呟いた。
「…みたいだな」
アンディは答えた。
「チカラくんもタチアナちゃんも…みんな能力が消えていってるみたい」
「そうか」
 アンディは味気ない返事をした。
風子は何かを言おうとし、飲み込もうとした。軈て風子は口を開いた。
「……あのさ、アンディ。多分これが最後のチャンス…。だから、その…私に触れて」
「…どうした?風子」
「前言ってたじゃない。私の不運で死にたいって。今なら多分、アンディの不死の能力は消えてるはず。そこに私の不運が来たら…アンディは死ねる。だから」
「風子、少し話をしないか」
「でも……早くしないと私の不運も消えちゃう」…
 真っ直ぐな眼差しで見つめられ、風子は少したじろいでしまった。そしてアンディの隣に座る。
 彼は神妙な面持ちで語り出した。
「…俺はな、風子。お前と出会って世界が変わったんだ。価値観とか生き方とか、お前が全部変えてくれたんだよ。そうしてお前と出会って過ごして、昔の夢を思い出したんだよ」
「昔の夢?」
「ああ……俺はそれを叶えてから死にたい」
 少し、彼の表情が緩くなった。
「お前と出会った時は…正直荒んでた。死ねればいい、そう思ってた。…でも、そうじゃないんだな」
 そう言いながら彼は風子の肩を抱いた。
 風子はふと、彼の方を向いた。その視線に気付いたのか、アンディは彼女に向かって今まで見たことないような微笑みを溢した。
風子は突然のことに動揺して赤面したまま固まってしまった。
「俺はお前を残して死んでいくのが怖い」
そう言われ、風子は混乱した。
「で、でもアンディ…ずっと『死にたい』って…」
「死にたいのは変わらない。でもな、今じゃなくてもいいんじゃないかって…そう思ったんだ」
「へ…?え、えと…」
「要するにな、風子。俺はまだ死にたくねぇ……死ぬにはまだ、やり残したことが多すぎる。笑うか?」
 突然訊かれて風子は何と返したらいいのか分からず、ただ、何か返そうと思い首を横に振った。
「お前を最高に幸せにして、ジジイになってから俺は死ぬ。もう“不死”も消えただろうしな」
 そう言ってアンディはにいっと笑った。その顔を見て風子は泣き出してしまった。
「ふぐっ…ぅうあ…うう…」
「また泣き虫に戻ったか?風子」
「ぐぶっ…だ、だってぇ…ぅぅ…アンディ殺さなきゃって思って……覚悟決めてたのにぃぃ…」
 鼻をズビズビ言わせながら風子は側から聞かなくても物騒なことを言い出した。
「よがっだぁぁぁ…ぅぅ…」
 そう言いながら風子はアンディの胸で泣いた。アンディは優しく微笑みながら泣きじゃくる彼女の頭を撫でた。
 そうしてどれくらい時間が経っただろうか。空が明るみ始め、東から太陽が昇った。空は紫やピンクを混ぜたような、幻想的な色へと変わった。
「風子」不意にアンディが呼びかけた。
「…俺はお前が好きだ。あの時、俺はお前に言えなかった。ビビって、ストレートに気持ちを伝えることができなかった。すまん」
 風子は最初、何を言われているか分からなかった。言葉の意味を理解したとき、不意に涙が溢れた。
彼は言葉を続けた。
「俺は一生お前の隣にいたい。風子、お前はそれを許してくれるか?」
 涙を拭おうとして、それでもボロボロと涙が溢れてきた。嗚咽を堪えながら風子は小さく「うん」とうなずいた。
 太陽が地平線から顔を出した。大地が光に包まれた瞬間、2人は口付けを交わした。
この世界全てが2人を、世界を救うために全てを賭けて戦った2人を祝福したかのような光景だった。




あとがき
pixivにて公開したアンデラの二次創作小説です。
「まだ死にたくないって言うアンディ居てくれ」というタイムラインの叫びに共感して衝動で書きました。文章まだまだ拙いですが勢いで読んじゃってください(笑)
楽しんでいただければ幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?