2022年夏甲子園準決勝 下関国際対近江

実に山口県勢17年振りの準決勝進出。
当時私は中学生で、好永投手率いる宇部商業の快進撃に胸を躍らせていたのは記憶に新しい。

そして今日8-2でセンバツ準優勝の近江を破り、1985年以来、37年ぶりの決勝進出。

準々決勝の大阪桐蔭戦に引き続き、ゲームを見ての所感をまとめたいと思う。

ゲームの展望

甲子園大会では、いわゆる甲子園のヒーロー・スターとなる選手の出現を、
メディアと高校野球ファンが過度に期待する風潮がある。

半面、スター不在だがチームプレーの精度を練り上げて勝ち上がってきたチームは玄人には好まれるが、分かりやすい華々しさはない。

正に前者が近江、後者が下関国際。
それに加え、ベスト4進出の学校の内、近江が唯一の関西勢ということもあり、下関国際がアウェーになることは容易に想像がついた。


一方で、近江の山田投手は大会トータルの球数が512球。

変化球も含めて球威で押すピッチングスタイルである為、コンディションが投球内容に影響しやすい。
(そもそもコンディション状況が投球内容に影響しない投手などいないのだが、例えば九州国際大付の香西投手などのような技巧派投手においては影響を受けにくい投手もいる)
ここまでの疲労度を考えても到底ベストピッチできる状態ではないはずと想定できる。

両校監督はロースコアのゲーム展開を予想、とNHK実況の方が言っていたが、私の見解としては、ある程度点の取り合う展開になる可能性もあるとみていた。


ゲーム内容

立ち上がり、山田投手の出来を見ていると、ストレートのガン表示自体は決して悪くなく、右へのスラッター、左へのスプリット系のボールは相変わらず良い。
しかし、全体的に浮いた球が多く、フォームの力感的にも万全ではないのは明らかだった。

従って、下関国際打線としては、いかに膝下のボールを見極めて浮いたボール内に行けるかが勝負。
特に球数が増やせればより有利になるため、前半どの程度打線が見極められるかは注目していた。

そこで早速1回表、3番仲井選手が甘めのストレートを打ち先制タイムリー。
幸先よく先制。

1回裏

下関国際先発は多賀投手。

ボールの走りは悪くないものの、全体的にボールが浮いている印象。
特に生命線のスライダーがはっきりボール球になることが目立ち、やや不安な立ち上がり。
ただ初回はピンチを作るものの無失点。


2回表

出塁はするも盗塁死(守備妨害)、併殺で無得点。
併殺は見事にボール球のスラッターを打たされ併殺となったが、それ以外の打者は低めを見極めストレートは詰まりつつもファールで逃げるという下関国際らしいしぶとい打席内容が見られる。


2回裏

下関国際の先発古賀投手は先頭から連続四球。

ここで坂原監督は仲井投手にスイッチ。

ここまでの勝ち上がりで、仲井投手の投球内容が非常にいい点、
ゲームプランとしてはロースコアの展開を予想している点から、
早めのリリーフになったと想像する。

ただ、本来は中盤まで古賀投手がイニングを食って、終盤にかけて球威のある仲井投手で試合を締めるのが基本パターンの為、
この継投が終盤どう影響するかは見どころになると感じた。

犠打で送り1死2,3塁。
カウント2ボール1ストライク、打者は8番大橋選手。
ここで近江はスクイズも、キャッチャーフライとなり併殺。

近江からすれば、中盤から終盤に出てくるであろう仲井投手を2回で引っ張り出した。
更に大黒柱の山田投手はコンディションが良くない。

そういった点を踏まえれば、ある程度点を取り合うゲームプランに変更していくことも必要と感じていたが、結果としてはスクイズを選択し失敗。

恐らく下関国際の内野陣は前進守備を引いていたかと思うので、スクイズは選択肢の一つにはなるものの、個人的にはこのケースでは選びたくない作戦だと感じた。


3回表

先頭8番山下選手が甘いスラッターを打ってライト前。
山下選手としては、浮いたスラッターを振りに行けたことが功を奏した。

近江バッテリーとしては、3球スラッターを続けた中で最後の球が一番甘くなり、打者の順応を考えれば打たれる確率は上がるので勿体ない攻め方。

その後四球、犠打、四球と続く。
下関国際の見極めというよりは、山田投手のコンディションの悪さを感じる内容。

しかし、ここでギアを一段上げられるのが山田投手の非凡なところで、
ワイルドピッチの1失点のみで後続を打ち取り切り抜けた。


3回裏

1死からヒットと盗塁+捕手送球エラーで1死3塁。

この時点で既に甲子園は観客の手拍子が始まっており、近江を後押しする雰囲気が生まれていた。
それに呼応するかのように、清谷選手のタイムリー3ベースで1-2と迫る。

2死3塁となり、4番山田選手との対戦。

ここでバッテリーはスライダーで攻め、空振り2球で追い込む。
山田選手の反応を見るに、明らかにスライダーに合っていなかったため、その後もスライダー攻めを続けたが、結果4球目のスライダーを打たれ2-2の同点。

スライダー連投の判断は決して間違いではないが、
同じ球種を続ける場合は「より厳しく」が原則。

打者は当然多投してくる球種のスピード感、曲がり方に徐々に順応していくので、
直前に投げられたボールよりも甘く入ってしまうと打たれる可能性が非常に高くなる。
その為、厳しく投げ切る為の工夫や別の球種を近めのゾーンで見せるといった工夫があるべきだった。


4回表

四球でランナーを出すも、ここも低めのスラッターで併殺にとり無失点。
近江としてはこのようなイニングを多く作り山田にイニングを食わせたかったところだろう。


4回裏

ヒットでランナーを出すも無失点。
仲井投手としてはロングリリーフの為、力で押す投球スタイルというよりも終盤を見据え力配分も考えた投球内容のように感じた。


5回表

浮いた球を叩き2死からチャンスを作るも無得点。
ただ、ここまでで山田投手は83球。追い込まれてからのファールもある程度打てており、下関国際の前半の攻撃としては悪くない内容だろう。


5回裏

1死からヒットとエンドラン成功で1,3塁。
4番山田に対しては前の打席を踏まえイン攻めも、打撃妨害を取られ1死満塁。

ここで下関国際の内野守備は裏ゲッツー。外野は長打警戒。
つまりここは1失点も仕方ないという考え。この選択は妥当。

ここで5番石浦選手は軽打し浅めのセンターフライ。
これをセンター赤瀬選手が好捕。
ランナーは短めのハーフウェイで動けず。

そして続く打者もサードゴロに打ち取り、無失点で切り抜ける。

完全にこれは結果論になるが、近江としては1死満塁からの浅いセンターフライはタッチアップを狙っても面白かった。
原則浅浅いフライはタッチアップを切らないが、場合によっては外野手がダイビングで捕球している場合もある。

このケースでは足からのスライディングキャッチだったが、十分ホーム生還が狙える場面だった。
何にせよ、近江としてはここで勝ち越せなかったのがゲーム後半に響いた。

6回表

連続四球とバント野選で無死満塁。
この回から、明らかに山田投手のボールが弱く、抜け球も増えていた。

私の経験則でいうと、
投手の故障防止には、勿論球数を制限していくことも重要だが、
「バランスよく正しい身体の使い方で投げられているか」が非常に重要である。

バランスを崩したフォームで多くのボールを投げてしまったり、そのバランスを矯正しようと無理やり代償動作を生むと、それが故障のトリガーになり得る。

まさにこの時の山田投手は、整備の間を挟んでのピッチングとなり、前半と比べて明らかにバランスが崩れた。
この状態で更に球数が嵩むと、山田投手のここから先々の野球人生に影響する可能性もあると感じ、勝負度外視で降板するべきと感じた。

結果として、山田投手は無死満塁からギアを上げここから3三振を奪うも、1死からライト前タイムリーを浴び2失点で4-2となる。

確かに見事なピッチングではあるが、センバツの浦学戦同様痛々しいマウンド姿に感じた人も多いのではないだろうか。


6回裏

先頭ヒットとなるも、後続三振とランナー刺殺でチャンスを消し無失点。
近江サイドとしては、点を取られた後の攻撃にしては雑さが目立った。


7回表

先頭から連打で無死1,3塁。
更に3番仲井選手のセンター犠牲フライで得点し5-2。

こういった場面で最低限の仕事をし得点を上げられた下関国際と、先の1死満塁で得点できなかった近江で明暗分かれた感はある。

その後、後続に四球を出した段階で山田投手降板。
NHK中継でははっきりとは分からなかったものの、山田投手が自分で意思表示をし投手交代となったと思われる。

選手が交代を申し出るまで交代させないというのは、はっきり言って監督としての職務放棄、責任放棄以外の何物でもない。


7回裏

四球と山田のヒットで2死1,3塁まで攻められるも、最後は仲井投手の渾身のボールで無失点。
仲井投手の球数が100球に迫っており、ボールの散り方も若干気になる内容になってきたが踏ん張った。

最後のボールは見事だったが、球数が嵩んできている仲井投手の終盤の投球、更に近江が裏の攻撃で甲子園の観客の後押しが加わるとなると、
3点のリードでは8,9回で相当なプレッシャーがかかることが予想された。

8回表

ここから追加点出来るかどうかで終盤の守りのプレッシャーがずいぶん変わる為、何とかして追加点を取りたいところ。

2番手星野投手に対し四球、バントと攻め1死2塁。
比較的ランナー1塁から強行するケースもある下関国際だが、ここは手堅く送る当たり、追加点の重要性をチームが理解している印象を受けた。

そこから橋爪選手のタイムリー3ベース。
更にここから二つのスクイズで計3点追加し8-2。

ここまでスクイズ企画をほとんど見せていない中での連続スクイズ。
終盤の甲子園の魔物の出現を防ぐに十分な、見事な攻撃だった。


その後、9回表に犠打失敗併殺で淡白に終わってしまうという最悪の攻撃をしてしまったが、8回の加点が近江の追撃の士気を削ぐには十分だったという印象。
結果8-2でゲームセット。

とはいえ、仲井投手の出来は大阪桐蔭戦ほど圧倒的なものではなかったため、仮に5-2などで進んでいれば8回裏の攻撃、9回裏の攻撃で何が起きたかは分からなかった。

そうさせないようにそつなく加点した下関国際の野球が盤石だったということで評価して然るべきだろう。


勝因

勝因①

下関国際のの勝因としては、まず山田投手のコンディションだろう。
これは大会の組み合わせの問題もあるが、近江はそもそもこの夏の甲子園を優勝するつもりで選手起用を組んできていない。

当たり前の話で、どれだけ山田投手が優秀なピッチャーであっても、全試合投げぬいて優勝することなど現実的ではないからだ。

となれば、当然優勝の為には山田選手を投手起用せず勝つ試合をどこかで作りに行く必要があるが、近江はそうしなかった。
つまり、多賀監督は、山田投手が限界を迎えるところまで戦えればそれでいいという選手運用をしたに過ぎない。

そういう面で、近江は真にこの準決勝、決勝を勝ちに来ているチームではないと言える。

勝因②

このゲームも、変わらず下関国際らしさが良く出たと感じるが、特に攻撃面での非凡さが出た。
序盤は山田投手の低めの変化球に対応できていない場面もあったものの、淡白に終わらない打席が多く、結果山田投手の球数が嵩み、6回に崩した。
また、最低限1点取りたい場面ではきっちり犠牲フライを上げ、
スクイズ2つはどちらも一発で完璧なコースに転がす。
各打者が大振りせず意図のある打席を多く作り、とにかくそつがない。

勝因③

仲井投手が想定より早く登板することになった。
これまでの投球の印象では、球威で押すリリーフ適性の高い投球スタイル。
だからこそ、2回からのロングリリーフが果たして終盤どう影響するか、という点は注目だったが、いい意味で期待を裏切ってくれた。

ピッチング内容自体は桐蔭戦の方がよかったが、
仲井投手の良いところはどんな場面でも飄々と投げ続けられるところだと感じる。
表情を見ていても思うが、プレッシャーのかかる場面でも何の不安もなく平気な様子で投げ込んでいる。

野球において投手の力量は勝敗に大きく左右するが、
投手が勝負所で力を発揮できるかどうかは内面的要素も非常に重要である。

私自身、これまでの指導経験の中で、
能力はあっても土壇場でパフォーマンスが落ちる投手がいれば、
スペックは低くても土壇場に強い投手というのは確実に存在していて、

動じずにマウンドでパフォーマンスを出せるというのは、いい投手の一つの要素だと感じている。
その点で、仲井投手は非常に投手向きの性格であり、勝負所で頼りになるメンタリティを持っているだろう。


決勝に関して

恐らく決勝のカギを握るのは古賀投手だと感じる。

準々、準決と仲井投手が大車輪の活躍をしたが、
今日のパフォーマンスを見ても22日にベストの状態ということにはなりにくいはず。

その場合、今日30球で降板した古賀投手が、最少失点の中でイニングを食うことができれば、下関国際としては理想的な展開になるだろう。

今日は不完全燃焼で終わってしまった古賀投手の決勝での奮起に期待したい。


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