語感の言語化練習〈いつになく〉
いつになく:いつもとは ちがい。常になく。「━きびしい態度」(三省堂国語辞典)
「いつもと違って」という言い方に置き換えられるか。
主観:「彼はいつになくイライラしている」の方が「彼はいつもと違ってイライラしている」よりも「なんでか知らんけど(彼はイライラしている)」という思いがけなさがあるように思う。「いつも温厚な彼が!?」みたいな。普段と違う、予想を裏切ってきているような困惑のニュアンスを感じる。また、ここでの彼は普段はイライラしていない、朗らかな性格であることもうかがえる。「今日はいつもと違って8時にチャイムが鳴らない」は「今日はいつになく8時にチャイムが鳴らない」に置き換えられるか?なんかダメそうだ。「定期的なものが行われない」と言う意味で「いつになく」は使えないようだ。「2020年はいつになく甲子園がなかった」よりも「2020年はいつもと違って甲子園がなかった」の方がしっくりくる。「チャイムを鳴らす」「甲子園を開催する」というのは比較的コントロールしやすい行為なので、「いつになく」がうまくはまらない。「いつになく上機嫌」「いつになく遅い」「いつになく静か」といった形容詞と結びつきが強いことも関連してそう。
「今日はいつもと違って英語から勉強した」と「今日はいつになく英語から勉強した」だとニュアンスの違いがはっきり出てくる。「今日はいつもと違って英語から勉強した」の場合は、「英語から勉強しよう」というはっきりとした意志があって、意図的に英語から勉強した感じだが、「今日はいつになく英語から勉強した」の方は、普段は他の教科から勉強を始めているということは共通しているが、「(なぜかは知らないが)たまたまそうなっちゃった」と言う偶然性のニュアンスがある。「風変わりなことが起きた」という自分の意志の外で現象が起きてる感じ。
外国語では?
「いつになく」に対応する英語は、unusually かなと思ってウィズダムの例文を見ると
のようなものが見つかり、「いつになく」を「特に」「今までになく」と解釈していた。「いつもと違う」から「際立っている」ことが意味の前面に出てくるということか。「今までになく」が「いつになく」とは限らないが、珍しいというニュアンスはあると思う。「今日はいつになく残業にならなかった」と言う場合、マジでこれまでに一度も定時で帰ったことない場合のみにこの言い方ができるとは思わないが、少なくとも定時は稀というニュアンスは伝わってくる。ただ例文では最上級を用いた文が多い。この辺はどうも私の語感と異なるようだ。必ずしも度合いが強いと意味に限らないと思うんだけども。
フランス語だと
と言う例文があった。jamais は「かつて」のようだが「いつか」と意味もあり「特定の時を示さない時間軸上のある時点」と言う感じがする。
ポルトガル語でも、como nunca で「いつになく、今まで見たことのないほど」という語句が載っている。
ロシア語では как никогда́ だ。
ドイツ語では「慣れていない、いつもと違った」という意味の ungewohnt がある。
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