語感の言語化練習#6〈俄然〉

俄然

[が︲ぜん▼俄然]
〘副〙にわかに。急に。突然。「俄然脚光を浴びる」「その一言で人々は俄然色めき立った」
△それまでとちがって、勢いがよくなる場合に多く用いられる。

小学館 現代国語例解辞典

自分の中で語感が安定しない語のひとつ。大辞泉では

が‐ぜん【×俄然】
アクセント がぜん○  
一〘ト・タル〙文〘形動タリ〙にわかなさま。「毎年夏の初めに、多くの焼芋屋が―として氷水屋に変化するとき」〈漱石・それから〉
二〘副〙突然ある状態が生じるさま。急に状況が変わるさま。にわかに。「梅雨があけたら―暑くなった」
補説 文化庁が発表した令和2年度「国語に関する世論調査」では、「がぜん」を、本来の意味とされる「急に、突然」で使う人が23.6パーセント、本来の意味ではない「とても、断然」で使う人が67.0パーセントという逆転した結果が出ている。

大辞泉

とある。個人的には「より一層」というニュアンスを感じるので、現代国語例解辞典の「それまでとちがって、勢いがよくなる場合に多く用いられる」という補足は自分の感覚と近い。

『てにをは辞典』で「俄然」を引くと、「勢いづいてくる」「緊張する」「好転する」「興奮する」「発揮する」「張り切り出す」「勢いを出す」「興味を覚える」「好奇心が湧く」「攻勢に出る」「心配そうな態度をとる」という感じで、「興味」「心配」「緊張」などの感情の激しい動きを対象にとる場合と「勢いを出す」「攻勢に出る」「好転する」などの勝負事などの流れの変化を対象にとる場合に分けられそうだ。大辞泉が本来の意味ではないとしている「とても、断然」の意味は「物事が急に変わる様子」という意味のなかに「変わり方が激しい」という意味が内包されているため、その変化の仕方だけを意味として抽象してしまった結果、本来の意味ではない用法が広がったのかもしれない。例文の「梅雨があけたら俄然暑くなった」という文では、梅雨の間はまったく暑いとは言えないくらいの気温なのか、ジメジメとしていて多少は暑いがまあそれ相応の暑さなのかは文脈に依存する。しかし私の語感だと「梅雨のあいだも多少暑かったのだが、梅雨が明けたら今までの比にならないくらい急に暑くなった」というニュアンスを感じてしまう。「それまでもそれなりに控えめながらも勢いがあったものがあることをきっかけにして爆発的な勢いを得る」という個人的な語感がなかなか払拭できない。「俄然やる気が出る」という表現では、それまではやる気がゼロだったのかというとそうとは限らない。それなりにやる気はあったように感じる。しかし「俄然」の語釈上、それまでのことは何も意味しない。「成績のために勉強する気は全くと言っていいほどなかったが、テスト週間に入った途端、俄然やる気が出てきた」のようには言える。(でもちょっとおかしいかなと個人的には感じる)

ゲームをしていて「ステージ4に入ったら俄然難しくなった」と言えるか。「ステージ4に入ったらいきなり難しくなった」の方が適切だろう。「ゲームの難易度」のような人工的に調整可能なものには使いにくいようだ。「あの人は結婚したら俄然気難しくなった」これもなんかダメっぽい。「あの人は結婚したら急に気難しくなった」の方が適当と感じる。人の性格にも使えないか。やはり「感情」とか「展開」とかそういう動きのあるものでないとこの語は使いにくい。でも「彼女ともう二度と会えないと思うと俄然悲しくなって涙が止まらなくなった」もちょっと変だ。これは「悲しさ」が数量化しにくいからかもしれない。もしくはネガティブなことには使いにくいのか。「その知らせを聞いたら俄然嬉しくなった」には違和感は少ないが「その知らせを聞いたら俄然悲しくなった」はなんとなくおかしいと感じる。「悲しい」は「勢いがよくなる場合」に入らないからか。「チームは俄然攻勢に出た」はよくて「チームは俄然劣勢に立たされた」がおかしいのも同様の理屈か。ただこの場合「劣勢に立たされた」だと受動的な動作だから動詞に動作性を感じないのもあるか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?