語感の言語化練習#8〈申し子〉


もうしご【申し子】
①神仏に祈ったおかげで生まれた子。
②神仏など霊力をもつものから生まれた子。「天狗()の―」
③あるすぐれた能力をもつ人。「水(=水泳)の―」
④ある社会的背景の影響を受けて生まれたもの・人。「バブルの―」

岩波国語辞典

今年2月にあった世界卓球団体戦を熱心に見ていたのだが、その際に選手の一人である伊藤美誠が「団体戦の申し子」という名でメディアに報じられる度に、この語が気になっていた。直感的には③の「あるすぐれた能力をもつ人」の意味なのかと思ったが、この意味を立項している辞書は私の知る限り岩波国語辞典だけだった。そこでこの意味と思われる「申し子」の用例を探してみると「甲子園の申し子」「バレーボールの申し子」「最強戦の申し子」のように競技における文脈では「その種目において最も力を発揮する人」を指すようだが、出典が曖昧なものばかりなので、この意味はまだ確立していないと言える。出典が明らかな「申し子」は「グローバリズムの申し子」「少子化の申し子」のように④の用法が主だった。歴史やファンタジーの文脈では「悪魔の申し子」のように本来的な用法も当然ある。

伊藤美誠選手が団体戦になると特に強いという意味で「団体戦の申し子」という意味なのかなと思ったが、考えてみると「団体戦という競技形式に特化した強さを持っている」というふうにもとれる。具体的になかなか言語化できないが、団体戦特有の雰囲気や駆け引き、個人戦にはないチーム連携など、その醍醐味にことごとく適応した強さを持っている、ということではないか。つまり、団体戦の特色が色濃く反映された人物として「団体戦の申し子」という異名がつけられており、スポーツ分野だと、それがそのまま「その種目に秀でている」ため、岩波国語辞典で言えば④から③の意味が派生したと考えられる。ただし、影響を受けるのは「社会的背景」というよりかは「その種目の形式」なので、ちょっと意味がずれている。

クラウン英語イディオム辞典には、

Manny thinks he is God's gift to baseball.
マニーは自分は野球の申し子だと思っている

クラウン英語イディオム辞典

という例文があり、God’s gift は「神からの贈り物, 天の恵み; 思いがけぬ幸運」と皮肉で「(才能・人気があると思っている)うぬぼれや」とあり、確かに前者は「申し子」なのだが「マニーは自分は野球の申し子だと思っている」という日本語だけだと、「野球の神様のような存在が自分を遣わせてくれたとマニーが思っている」という意味から単に「マニーは自分に野球の才能があると(大胆にも)考えている」まで、いろいろ解釈できる。いずれにしても「申し子」の本来的な意味を考えると、その人個人が培った能力というよりかは、環境や天分に恵まれたというニュアンスが強いようだ。

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