怪談タクシーやろうかな

僕はタクシードライバーをやっているんですが、お客さんに「怪談話ありません?」って聞かれることがあるんです。
定期的に。

無い。
無いんですよ微塵も。
惜しさの欠片もない。
9000打席連続三振。
でもこれがほんと申し訳なくて。

タクシーっつったら山道で白い服の女性乗せて「危ない!!」って叫ばれた後に後部座席見たら女性の姿は無くただ座席が濡れていたみたいな出来事体験しなきゃいけない部分があるじゃないですか。

やるか。
捏造すっか。ニーズがあんだから。期待に応えなきゃ。
今の時代タクシーつったら最早交通手段じゃないのよ。これからは怪談聞くツール。これ一択よ。

競合はバスとかじゃないから。稲川淳二だから。

「すいません運転手さん、飛行機の時間ギリギリなっちゃって。羽田空港まで急いでもらえますか?」

『それより、お客さん、ここのトンネル、別名首塚トンネルって呼ばれているの、知ってますか?』

「え、いや、知らないですけど」

『戦国時代にね、ここで殆ど文献に残っていない小さな戦があったんですよ』

「いやあの、ちょっと時間無いんで…。何分くらいで着きます?」

『ふふふ。いやね、とても臆病な武将が戦場にいましてね、痺れを切らした血気盛んな配下が、敵陣に突撃しましょうと進言するんですが、武将は震えて動けないんですよ。何故だと思います?』

「知らないよ。臆病だからでしょ?」

『ガタガタ、ガタガタって。まとった鎧が音を立てる。ガタガタガタガタガタガタって。おかしいな〜って。』

「もういいから。ちょっと急いでもらえる?」

『ふふふ。何故ならその武将、臆病だったんですよ!!』

「何もない。捻りも何もない。首塚のくだりも全く関係ない。他のタクシーに乗るわ!!下手くそ!!」

だめだな。
やっぱ普通に営業しよう。

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