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暗がり峠の散策路

高井田から藤の茶屋、御厨(みくりや)、額田(ぬかた)、豊浦(とゆら)、松原口越えてやってまいりましたのが暗(くらがり)峠でございます。
「暗がりと いえど明石の沖までも」、面白い句碑が残ってございます。
二十五町下りまして、やれやれと思う間もなく榁(むろ)の木峠...

『東の旅』ではものの1分で通過する暗がり峠だが、歩いてみるとなかなか風情のある良い散策路だ。なにより道が整備され歩きやすい。
健脚の向きは、ご自宅より安堂寺橋を起点に東へ東へと枚岡まで暗峠奈良街道を歩くのも一興だろう。
あいにく私はさほど健脚自慢ではないので、近鉄線・枚岡駅から開始する。

近鉄枚岡駅から北へ線路沿いに歩き右に曲がれば、暗峠奈良街道に入る。
「菊の香に くらがり登る節句かな」芭蕉句碑・豊浦の古墳を抜け、延々登り坂を休み休み登ってゆこう。

暗渓の滝、観音寺、お玉大神を右手に登りを進めれば、暗がり峠で最大の急勾配。
暗がり峠の名前の由来、昔は樹木が鬱葱と覆いかぶさり昼でも暗い峠道だったからだとか。
今は道も良く植樹も整備されてるうえ、山賊追い剥ぎも化かすお稲荷の使いも出ないので、ゆっくりのんびりと息あげながら自ペースで休み休み登ればOK。
急勾配ゆえ自動車が殆ど通らないのも静かで良い。

急勾配を抜けしばらく上ると、暗がり峠歩き随一の景色、棚田が見えてくる。
急坂はここまで。
あとはゆるやかな登り下りなので、景色を堪能し、だらだらと植物鑑賞しながら歩くと良い。

すぐに峠の茶屋が見えてくる。
ここは見映えがするため、暗がり峠を越えてきたハイカーやライダーは大抵インスタ用の映え写真を撮る。
あまり商売熱心にも見えず、まあ半ば道楽で保存維持されておられる茶屋だろう。

奈良側へ入り、のんびりだらだら続く下り坂を降り続ける。
西向きに山あい風景を堪能できる一本道が延々続く。
手前に生駒、向こうに奈良、その向こうには笠置の山々。笠置の奥は深くここから見通せないが、遥か太平洋、津や四日市まで脈々と山が連なるはずだ。

コナラやブナやスギの植樹に混じり、目印用だろうか大きな貝塚伊吹を植えてあったり、馬がぼーっと尾を振り歩き回っていたり。

「難波津を 漕ぎ出て見れば 神さぶる生駒高嶺に 雲そたなびく」万葉歌碑を左手、沢を右手に下り進めると、次第に軒が増えてくる。
峠を歩き続け、麓へ辿り着いた感がある。
このあたりにはまだ往年の在郷の雰囲気が少し残る。

次第に密集し始める民家の隙間を抜け、壱分バイパス道へと当たる。
峠道はここでおしまい。
峠越えで疲れきってしまったなら、ここで近鉄南生駒駅から帰路に着けばよいだろう。

落語の伊勢詣り(伊勢参宮神乃賑)ではこのままもうひとつ西へ直進、「やれやれと思うまもなく」榁(むろ)の木峠を越え、南都・奈良に入り一泊する。健脚な昔の人ならば、朝から枚岡を発てば、峠を二つ越え、奈良の市街地へ入ることがたしかにできただろう。
体力がまだ少しあったので、竜田川沿いをてくてく歩こう。

竜田川沿いは散策路がずっと整備されている。
下流の平群の紅葉のほうが竜田川観光は有名だが、この上流川岸も近郷の風情を残しながらも新興開発の宅地のためによく整備され、歩きやすい。
お気に入りの長尺ポッドキャスト聞き流しだらだら散策するにはほど良い、川岸の風景が続く。

第二阪奈の下をくぐり抜け、さらに竜田川沿い上流をゆっくり散策しよう。
一分、菜畑の駅を川向うにバイパスを横断する。
水辺の歩きは視界が広がり心地よいものだ。

このあたりの竜田川は澄んだ水のみならず、ゴミや廃品がじつに少ない。
近隣のかたも護岸を気づかい、また相当こまめに保守手入れしているのだろう。
本当に気持ちの良い川岸が続く。
澄んだせせらぎで泳ぐ川魚の群れや大きな鮒を、休憩がてらぼんやりとほとりで眺め続けてもよい。

近鉄の高架へ当たったらそのまま左へ。
生駒駅が見えれば、この散策はおしまい。
所要時間、ゆっくりのんびり初老の足で歩き4.5時間ほど。
昼11時前に枚岡駅開始で、16時前には生駒駅に到着できる。
景色の移り変わりに富み、見映えする場所も多い。
塞ぎこんだ気分の解消には時間/距離/体力消耗具合ともに、もって来い。
お奨めの生駒越え散策路のひとつである。

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