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バイクを納車した話

特になんの気なく入ったお店で、全く買う気なんてなかった。けどその商品を見た瞬間にビリビリと稲妻が走って、気が付けば商品を手に取ってレジに並んでいた。なんて経験はないだろうか。

僕の場合、それがバイクだった。多分他にもあった気はするけど、覚えてる上ではバイクしかないのでバイクの話をしようと思う。2020年11月15日にバイクを納車し、そこからちょろっと(3000kmほど)走るまで。


ある国で発生した新型ウイルスが世界中で猛威を振り撒き、感染しないためにも「密閉、密集、密接」の3つの密を回避するために公共交通機関での移動が避けられ始めていた2020年初頭。オートバイ人気が全国で高まっていた。

2018年に就職した時、僕は地方配属が決まっていた。そのために車を購入した。しかし新入社員研修中に欠員が出たため、突然実家が近く道もわかっていそうだからということで大阪配属に変更された。大阪は希望配属地には全く入っておらず、それは困ると抗議したが聞き入れてもらえなかった。

当時先走って購入した車。黄色がかわいいN-oneプレミアム。今は母親が主に乗っているが、実家に帰れば僕が乗る。



確かに大阪は便利だ。東京に次いで日本第2位の大都市というだけあってなんでも簡単に手に入る。お金さえあれば。森の木々のように立ち並ぶ大きくて高いビルには24時間明かりが灯っていて、街灯も短いペースで何本も立っている。どこに行っても人がいて、野良猫やカラスなら路地裏にいるかも。という絵に描いたような大都会。

確かに一度は大都会に住んでみたいと思ったことはある。だが、当時は都市部よりも地方で働きたかった。(この思いは今も変わらないが、残念ながら5年経った今でも大阪に留まっている)

新入社員研修が終わり、仮にも大企業の完全子会社だから、希望を出し続ければ近いうちに地方へ転勤になるだろうと考え、車は手放さなかった。となると必要なのは駐車場だ。地元であれば、実家に大きな駐車スペースがあったので、そこに無料で置いておくことができる。しかしここは大阪。そう簡単に止められる場所が見つかるわけもないだろう、と考えていた。

空き駐車場自体はすぐに見つかった。なんなら住んでいるマンションでも、1台分のスペースが空いていた。しかし。

「月々22000円」

住んでいるマンションの駐車場情報。とてもじゃないが入社1年目の給料では払えなかった。

無理だ。22000円といえば新幹線で大阪から鹿児島中央まで行く片道料金と同じくらいだ。(大阪市内→鹿児島中央で新幹線自由席利用だと片道21780円)

それならそのお金で毎月旅行した方がいいじゃないか。じゃあ近隣の駐車場情報を見ればどうだ。どの駐車場も、地元であれば毎月3000円で借りれるような駐車場が、大阪では安くても毎月2万円からで、就職したばかりの若手には手痛い出費だった。ようやく見つけた安い空き駐車場は、電車で20分、そこからさらに徒歩15分の遠さで、それでも毎月1万円だった。

こんなに高いなら仕方ないと泣く泣く実家に置いておく決断をしたものの、やっぱり自分の相棒はすぐ近くにいて欲しい。しかし駐車場代を毎月払えるほど財布に余裕はない。悶々としながら過ごして2年が過ぎた頃、住んでいるマンションで併設バイク駐輪場の情報が公開された。

「毎月700円〜」

住んでいるマンションの駐輪場情報。ラーメンを食べに行くくらいの値段で毎月バイクが置いておける(自転車は住人に限り無料)

安い!屋根がなくてタイヤが2つ減るだけでこんなにも変わるのか。バイクさえあれば実家に帰るのにわざわざ電車で1時間、徒歩でさらに1時間かけることもなくなるし、今まで行けてなかったところにも行けるようになる。その上維持費も車より安い。いいこと尽くめじゃないか。

だったら二輪免許を取ってやろう。と思って意気揚々と教習所に申込をしたのが2020年5月。新型コロナウィルスの脅威が叫ばれるど真ん中の時期だった。会社へ行くにも公共交通機関は密になるけど、車は渋滞に巻き込まれるし、大阪だと駐車する場所がない。しかしバイクなら密にもならないし車と違って渋滞も関係ない。と考えた人たちが教習所に集まったタイミングと奇しくも同時期だった。しかも、特別定額給付金が国民に振り込まれたタイミングだったので、入校希望者はより多くなっていた。

長らく横這いだった二輪免許取得者数はコロナ禍によるバイクブーム再来で大きく増大した。
二輪車新聞様記事
(https://www.nirin.co.jp/_amp/_ct/17463506)より画像引用

おかげで申し込みはできたけど、入校できるのは1ヶ月先。入校したところでほぼストレートで免許取得に向かうことができても、予約もいっぱいで、仕事の合間に都合をつけていくならさらに時間もかかる。

そこに半導体不足によるバイク製造の遅れが響いた。倒して傷をつけてしまうのも嫌だから、中古バイクの購入を考えていたが、価格は高騰し、昔は中古なら10万円もあれば買えると言われたYAMAHAのSR400も気がつけば新車価格と大して変わらない50万円近い値がつくようになっていた。

元々乗るならこのバイク、というのは決めていた。それがCB400SB、スーパーボルドールだった。白バイで使われるCB1300の400cc版だが、長年続く伝統をそのまま踏襲した形が好みだった。

これぞバイク。という見た目のCB400SF/SB。ンバァァアアアアというネットミームで有名なVTECエンジンを搭載したモデルということもあり、人気だった。
ホンダ公式HP(https://www.honda.co.jp/CB400SF/)より画像引用


しかしCB400は人気車種だ。ただ、新車は高価だしなんならみんな乗っている。あとできれば被りは避けたい。年式古めの中古車でもいいけど、先述した通り価格高騰の波が来ている上、整備状態もいいとは限らないし、即納されるとも限らない。

だったら新車でもいいや。早く納車できるのなら新車にしよう。教習のない休日は、バイク屋で色々なバイクを見ていた。ネイキッド、オフロード、アメリカン、スポーツなど色々あるジャンルから、適当にいくつかまたがってみて気に入ったのがアドベンチャーバイクであるSUZUKIのV-Strom250だった。

V-Strom250。大きな丸目ヘッドライトがまるで某モビルスーツのようで気に入った。前傾姿勢になる必要もなく、大きなウィンドガードも快適そうだ。
SUZUKI公式サイト(https://www1.suzuki.co.jp/motor/lineup/dl250rlzm1/)より画像引用


アドベンチャーバイクはオフロードバイクにツアラーバイクのテイストを兼ね合わせたもので、走破性が高く、長距離ツーリングも苦にならない距離ガバ仕様のバイク。という説明をバイク屋の若い店員さんから受けた。

いいじゃないか。僕に一番合っている気がする。なぜなら僕は旅行が好きなので、お金と時間の都合さえつけばどこにでも行く。このタイプのバイクがいい。できればHONDAで。

そうと決まればHONDAのアドベンチャーバイクを探した。しかしアドベンチャーバイクは数が少なく、なおかつ大型免許が必要になるものが多い(アフリカツインやNC750Xなど)。そんな時に店頭展示されている中から見つけたのが、400Xだった。

2022年式400X。これほどにかっこいいバイクが他にあるだろうか?いやあるだろうけど僕は一番だと思っている。
ホンダ公式サイト(https://www.honda.co.jp/400X/)より画像引用


稲妻が走った。これしかないと思った。CB400SBと同様のハーフカウルを装備していて、LEDの大きなヘッドライトに、大きな前輪。400Xは2019年から新型になっていて、今までのモデルとは大きく進化を遂げていた。そして何よりも目を引くカウルとタンクの鮮烈な赤色。

納車後に徳島県で撮影した400X。このカウルの赤が良いんだ。これしかあり得ないと言っても過言ではない(過言)
今みれば傷もほぼなくてとても綺麗だ。

「これにします」

気がつけば口をついていた。本当は、当時の最新色だった黒色基調に赤が差し色として入っているものがいいと思っていた。しかし、実物を見たら断然こちらの方が良かった。今でも赤いフレームに未練はあるけれど。

トントン拍子に契約は進み、ローン契約をして頭金を出した。あとは納車までに二輪免許を手に入れるのみ。納車までの期間は2週間。製造されてから店舗で1年間眠っていたエンジンを目覚めさせ、受け取るまでの間に僕は二輪免許を手に入れ、駐輪場を契約しなければならない。

書いてはいないが、当時既に二輪免許講習は残すところ卒検のみ、というところまで来ていた。しかしなかなか卒検との日程が合わない。会社で上司を拝み倒し、シフトを無理矢理調整してもらうことに成功した。ここでようやく卒検の日と免許発行、納車の日を手に入れた。しかし、卒検のために空けてもらえた日は1日だけ。失敗してしまうと次の卒検を受けれるのは1ヶ月後になり、納車もその分遅れてしまう。それだけは絶対に避けたかった。

そして二輪免許卒検当日。秋の長雨というにふさわしい、前日からの雨がそれなりの強さで降る天気で、夏頃から受けていた講習期間で初めて雨具を持参した。しかし検定開始と同時に雨は止み、僕がバイクにまたがる頃には晴れ間が覗いていた。おそらくこれは後々の伏線になっていたのだが、今は特に関係ないのでそのうち別の記事で書こうと思う。(なので少しでも読んでもらえると嬉しいです。頑張って書くので)

エンジンをかけて左右を確認して発進。ギアを2速に切り替えて右左折、1速に落として一旦停止。発進してS字カーブと一本橋を越える。これは得意だったので難なくクリア。しかし次はこれまでの教習で鬼門だったスラロームと急制動。しかも雨で路面が滑りやすいため、思ったようなライン取りができない。今思えば出来はあまり良くなかったと思うが、奇跡的に両方ともクリアしていたらしい。

続いて踏切とクランク、坂道発進だが、ここでミスがあった。踏切を通過し、クランクを抜けたまではよかった。しかし、一番最後の項目である坂道発進へのコースへ向かう交差点を、間違えて通過してしまったのだ。道を覚えることに関しては自信があったのに、こんなところで情けないミス。同じコース内を縦横無尽に走り回るからというのもあるけど、それは言い訳にもならない。よりにもよって一番最後で。終わった......!とヘルメットの中でブワッと冷や汗が浮き、急速に体を冷やしていった気がした。

しかしこういう時ほど慌ててはいけない。気を取り直して曲がり損ねた交差点の先にあるカーブを曲がって、見通しの良い直線で左ウィンカーを出して路肩に停車。ハザードランプを焚いて挙手し、教官を待つ。すぐに気づいた教官がやってきて、新しいルートを教えてもらう。教習コースを一周して、今度こそ坂道発進にチャレンジ。前走の人が目の前でエンストしたのでヒヤッとした。(エンストした時点で卒検は失格になる)しかし、二の舞になることなく成功し、スタート地点に戻って卒検は終了した。

エンジンを切ってバイクを降り、スタンドを立てる。動かないことを確認してヘルメットを脱ぎ、ほっと一息。なんとかなった。けど、ルートミスは判定に響いていただろうか。講評を聞いたところ、ルートミスは採点対象ではないが、ミスをうまくカバーできたと褒めてもらった。スラロームはギリギリのタイムだったが、結果は合格。無事に最難関ポイントであった「卒検合格」をクリアすることができた。

次の免許受取と、駐輪場契約は簡単だった。ただ、トラブルが発生して夜勤明けで尚且つ残業をした後の日中にフラフラになりながら講習を聞き、写真を撮影して無事に取得することになった。待ち時間に仮眠でもしておけばよかったものを、隣接するバイク屋を見つけてしまい、陳列されているバイクを眺めていたのは正直良くなかったと今でも思う。

「普自二」の文字がついた免許証を受け取った時、ゴールド免許になったことよりも嬉しくて家族LINEで自慢した。

免許を受け取って、家に帰ってすぐ駐輪場の受け取り手続きをした。消防法の関係で半屋内の二輪スペースには置けなかったが、原付用のスペースを2台分借りることで解決した。これでもういつでもバイクを置くことができる。どんとこい、400X。

待ちに待った納車の日は雨だった。なんなら朝から土砂降りだった。しかも社内試験が当日被っていて、その後の納車ということになった。試験中に着信が入っていて、終了後に折り返すと、いつでも納車可能とのことだったので、職場の先輩との会話もそこそこに家へ急いだ。別に雨の日に受け取らなくてもいいものを、この時は本当に1分1秒でも早く、自分のバイクに跨りたかった。

ヘルメットと雨合羽を掴んで、お店へ走った。雨が降っていたので地下鉄で。地下鉄の改札口からお店までは本当に自分の足で走った。息を切らしながらお店に駆け込み、店員さんの説明もそこそこにバイクを受け取った。

跨って足付きと動作を確認する。大きく曲がるハンドルは、全開で切ると伸びる方の腕が痛いほどだった。キーを挿してエンジンをかける。キュルル、とイグニッション特有の軽い音がした直後にドルルン!とエンジンが力強く吼える。教習で使用したCB400とはまた違う音。

ああ、これだ。求めていたものだ。大きさも足つきも何もかもが僕にちょうどいい。この子となら、どこまででも走っていける。直感的にそう感じた。

お店を出る頃には雨は止んでいて、合羽は必要なくなっていた。これはちょっと走るしかない。明日は仕事だからちょっとだけ走ろう。エンジン慣らしだから原付と同じくらいで。たまたまお店を出てすぐに、原付が走っているのを見つけた。あの原付について行こう。

この原付の人はどこまで行くんだろう。大きいバイクに同じ速度でひたすらついて来られて、不安になってないか。そもそもこれで大丈夫なのか。など停車中は色々考えてしまうが、走り出せばそんなことはすっかり忘れていた。気がつけば大阪市を出て羽曳野市まで出ていた。夜遅くなってきたしさすがに帰らないとこれ以上はまずい。

次の日からは余裕があればひたすら走っていた。早く慣らし運転を終わらせたくて通勤をバイクにした。朝4時半には起きて、まだ暗い国道1号を走って職場に向かう生活。夜勤がなければ夜遅く帰っていたので、体力的にもしんどかったが、バイクがあるというだけで活力が漲っていた。なんなら乗っている時勃起していたまである気がする。(今でもたまにする)

納車されてすぐの400X。納車5日で500kmを走り、すぐに関西から東海北陸を回るロングツーリングで1000kmもあっという間に走った。

慣らし運転が終わればすぐにロングツーリングをした。大阪から東海道本線に沿って名古屋へ、名古屋からは中央本線沿いを走る国道19号で中津川まで。中津川までに母校である中学・高校によって、恩師たちと再会した。みんなおじいさんになっていた。

岐阜県にある母校。バイクを停めていたら雨になっていたが、乗る頃には止んでいたので撮影

中津川で高校の同期と再会し、親御さんのご厚意で泊めていただけることになった。次の日の天気は雨とのことだったので2日ほど滞在し、富山へ向かう。まだ雨の気配はあったが、結局雨に降られることもなく、富山では富山・高岡両都市の路面電車と並走したり、到着直前まで雨模様だった雨晴海岸で本当に雨が晴れた。

雨晴駅からは立山連峰がよく見える。ぜひ行ってもらいたいスポットの一つ。多分列車と絡めて一緒に撮るのも雰囲気が出て良いだろう
道の駅にバイクを停めて、氷見線を撮影。ちょっともやっぽいが、うまく立山連峰と富山湾を一緒に収められたと思う。

富山を満喫したら白川郷の近くを走りながら大阪へと帰るのみ。大阪に着く頃には走行距離3000kmに達していた。

納車からここまでが、たったの2週間とは思えないほどに濃密だった。これを超える満足感のあるツーリングは1年半が経過した今でも、経験できていない気がする。悔しい。しかし、これが僕とバイクの始まりの物語となった。今後もバイクに乗り続けると思うし、いずれは乗り換える事になると思うが、初の納車から初めてのロングツーリングにかけての記憶は、今後も絶対に忘れることがないと思う。

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