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”ライブの後とサッカーの後”にまつわる話について-小林祐三さんのTT Lounge FMを聞いて-

小林祐三さんのポッドキャストTTLounge FMに名古屋サポーターで鳥栖ウォッチャーでもあるみぎさん(https://x.com/migiright8)がゲスト参加。「クラブとサポーターの幸福な関係」というテーマでトークされていました。

非常に興味深くいろんな語り口のある話題だったので楽しく聴かせていただきました。鳥栖サポーターのみならず、どのクラブとサポーターに置き換えても通じる話がいっぱい語られてると思うので、お時間あるときにぜひ聞いてみてください!

さて今回はこの配信の中からピックアップして「音楽のライブの後とサッカーの(主に負け)試合の後でどうしてネガティブなリアクションの出方について違いが出るんだろうね??」というテーマについて考えてみたいと思います。

きっかけとなった小林さんの発言は以下の通り(ほぼ原文まま)


「クラブのこととかサッカーのことを語ると、ほんとうに多いですよね。ネガティブなリアクションっていいますか。勝敗が存在するものなので仕方がないんですけど。僕音楽が好きなんでよく音楽に例えたりするんですけど、なんか音楽でライブ終わった後にこんなにネガティブなことって、ツイートがされるポストがされることってないじゃないですか?だから、そういう意味ではそれもまたひとつの魅力で。勝敗っていうものの魔力だとも思うんですけど。」                 24:26  小林祐三さん言

オーディエンスのありようの違い


もしかしたら小林さんはファン・サポーターを理解するために、音楽のオーディエンスの有り様から類推して「こういう感じに近いのかな?」みたいなあたりをつけて類推されてるのかもなと拝察しました。

自分も映画とサッカーを比較したりすることが多いので、このやり方めっちゃわかるな!って感じなんですけど、ひとつ考えておいた方がよさそうだなって思うのが、そのエンタメごとにオーディエンス(お客さん)のありようもそれぞれ異なっているのであろうということです。

結論から言うと、お客さんが何を欲しがっているのか?それにどう応えてくれたのか?そして何を持ち帰ることができたのか?がリアクションの違いを生むんじゃないかなと思うのです。

音楽のライブの場合を考えてみる


ライブに来るお客さんの欲するものはいろいろあるでしょうが、推測するに大きな柱としては
1.好きなアーティストの演奏を聴かせてほしい 2.好きなアーティストに会いたい 
あたりなのかなと思います。

もちろん出来不出来、セットリストの満足不満足なんかもあるでしょうが、ライブに行けばまずアーティストに会えるし、演奏を楽しむことができる。そういう意味では、お客さんの求めるものに基本的に応えることができるし、お客さんも求めたものを体験をして持ち帰ることができるのであろうと。だから、比較的ネガティブなリアクションが起こることが少ないのかな?と思うんですよね。

そういえば音楽のライブにおけるネガティブなリアクションというと、去年の山崎まさよしさんの一件なんかが記憶に新しいですね。山崎まさよしさんの水戸でのライブでは普段20曲近く披露されるのに8曲しか歌われず、あまりウケのよくないトークに終始。これにより、一部のお客さんから「歌え!」という声が上がったり、お客さんとの口論すら巻き起こることに。結果的にチケット代の払い戻しにまで発展する事態となったそうです。ちょっと正確かどうかはわかりませんが、どうやらそういう顛末だったと。

これなんかまさにそうかなと思うんですけど、お客さんが求めているものに演者側が応えなかったことで引き起こされた出来事であろうと。きっと演者側にも事情はあったことでしょうが、もし「山崎まさよしの歌を聴きたい」というオーディエンスの気持ちに応える公演であれば、別段問題なくことは運んだのではないかなと思います。

サッカーの試合の場合を考えてみる


ネガティブなリアクションの少ないと言われる音楽のライブでもそうしたことが起こりうるわけですが、サッカーの場合はよりややこしいことになります。まさに小林さんがおっしゃるように「勝敗」が絡むからです。

サッカーを見に来たお客さんの大多数は自分の応援するチームの勝利を求めています。イベントに参加したいとかフーズを楽しみたいとかビール飲みたいとか他にもいろいろあるでしょうが、その中でも勝つところが見たいという欲求がぶっちぎりで一番なことが多い。

お金と時間と体力をかけてスタジアムに行っても、必ずしも望み通りの体験が得られるとは限りません。無論、全戦全勝とはいかないと頭でわかってはいるけれど、今日この日を楽しみにしてきてこの試合で一番楽しみたい体験をできなかったという失望感はそれなりにメンタルをグラつかせてきます。それくらい勝利が占める割合は大きいのです。

まだそれも耐え忍べるうちはいいのですが・・・成績が低迷してくると、何度も何度もそういう失望感を味わって「何しに来てるんだろう?」ということになってしまう。期待して、勝利を味わいたくてここにいるのに、いつも失望感ばかりを抱いて帰らないといけない。これのどこが楽しいんだろう?と暗く辛い迷路に迷い込んでしまう。しかし、それでも多くのファン・サポーターは「今は耐えていつか光が見たい」と思ってしまうものです。

しんどい思いをしたらした分だけ報われたくなってしまうのは人間のごく自然な感情でしょう。しかし、長らく不振が続いてしまうとやがて負の感情を抱えきれなくなり、いき過ぎた言葉をSNSにぶんなげてしまったり、誰かをスケープゴートにしてこき下ろしたりしてしまう。いつしか我慢の限界を超えすぎて、糸が切れたようにクラブに背を向けてしまう。そういう人もすくなくないであろうと思います。

勝利だけを求めるとそういうことがよく起こる。砂漠におけるオアシスのように、勝利だけがその人を支えているからです。

それこそ配信のタイトルにもあるように”クラブとサポーターの幸福な関係”を考えるならば、これはなんとかした方がいいに決まっています。では、いったいどうしたらいいのだろう?と。

勝利以外に求めることを持つこと


自分の体験の中で思い当たるのは、「勝利以外の他に求めるものを持つこと」かな?と思っています。いくつかエピソードを紹介します。

ファジサポ父子の帰り道

昔、ファジアーノ岡山がJ2の下の方でもがいていたころ。負け試合の帰り道を歩いていると、自分の前を父子サポーターが駅へと帰っていました。小学生と思しきお子さんは負けたことが悔しすぎてずっとブーブーいいながら歩いていて、お父さんはそれをなだめながら帰る。そんな光景がしばらく続きました。そこでお父さんが言ったんですよ、

「でも、選手たち諦めずに頑張って走ってたじゃない?」と。するとお子さん渋々ながら「うん、まあそうだけど」と同意していました。

自分はこの光景を後ろで聞いていてすごく感銘を受けたんですよね。もしかしたら、普段からお父さんがお子さんに対して選手のがんばりを見よう!みたいな働きかけをしているのかもしれない。

彼らにしても当然勝つところが見たいし、喜びたかったはずです。しかし、試合に負けてそれは叶わなかった。一番求めているものは手に入らなかったわけですよ。ところが、選手が諦めずに走る姿を生で見て、それを持ち帰ることができた。勝利以外にも求めるものがあり、それを体験した帰り道でもあったのだろうなと。

他にもこんなこともあります。こっちのケースは割と音楽のライブ近いかもしれません。

貴重な接点を楽しむ関東在住の福岡サポ

いろんなサポーターにロングインタビューする”本当の声を聞かせておくれよ”という企画で、アビスパ福岡サポーターのくろっぷさんにインタビューさせていただいたときのことです。

福岡を離れ関東に住むようになって、関東在住のアビスパサポーターさんたちの振る舞いにくろっぷさんが感銘を受けたというエピソード。

くろっぷさんは「この人たちって純粋にアビスパを応援してるんだな」と感じたそうです。なぜか?というと、ホームゲームも通えて、練習場にも行ける福岡在住のサポーターに比べて関東在住のアビスパサポーターのひとたちにとってはアビスパとの接点が少ない。だからこそ、どんなときもポジティブだったそうです。勝とうが負けようが、「アビスパが見れた!次がんばってね!」という風に。

関東に住んでいるので年間で10試合くらいしか生で観戦ができない。だから、彼らにとっては勝ちたい!の他に、大好きなアビスパを生で見たい!という気持ちが強いのでしょう。だからこそ、「生でアビスパが見れた!」になるし、過剰にネガティブ沼にハマっていくことなくポジティブに応援を続けられているのであろうと。

マッチレビューを書く人に与えられる支え

手前味噌ですが、自分も同じように勝利以外にも求めるものが得られてとても助かったなと思うことがよくあります。

2011年から今に至るまで試合のレビューを書き続けてきました。負け試合を見るのもしんどいし、記事を書くために試合を見直すのもしんどいんですが、レビューを書こうとすると「なぜそうなったのか?自分なりに解き明かしたいな」という欲求を持つことができるんですね。

つまり、勝って喜びたい!にプラスして「何が起こってたのか知りたい!」が追加されているわけです。だから、負け試合を見て「勝つところが見たい」が叶わなくとも、「何が起こっていたのか知りたい」は消えない。もちろん、今でも手痛い敗戦やドローのあとにネガティブな気持ちになることはあります。しかし、そういうときでも「何が起こっていたんだ?」という謎を解きたい気持ちが中和してくれる感覚がすごくあるんですね。正直とても助かっています。

脳性まひの障害を持つ小児科医、熊谷晋一郎さんがこんなことを言っていました。

「自立」とは、依存しなくなることだと思われがちです。でも、そうではありません。「依存先を増やしていくこと」こそが、自立なのです。これは障害の有無にかかわらず、すべての人に通じる普遍的なことだと、私は思います。

ひとつの試合に求めるものが増えれば、仮に一番欲しい勝利が得られなくても他の求めるものが支えてくれるのではないか。ネガティブな感情に飲み込まれてしまいそうになるこころを引き留めてくれるのではないか。そんなことを思います。

サッカークラブがすべての試合で勝利を約束することは不可能ですし、どんなクラブにもいいときと悪いときがあります。勝利だけを求めることは悪いことではありませんが、クラブがどれだけいい仕事をしても叶わないときもあります。

クラブとサポーターの幸せな関係が末永く続くためのひとつのK.U.F.U.(工夫)として、勝利の他に求めるものをもつのも悪くないアイデアなんじゃないかなと思います。

そんなことを考えながら、TTLounge FMみぎさんゲスト回の第3回目の配信を楽しみにしています。

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