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清水エスパルスvsファジアーノ岡山【3-1】マッチレビュー

3位清水と4位岡山の直接対決。岡山は上位3チームとの差をここで詰めなければ突き放されてしまう瀬戸際のゲーム。一方の清水も首位から後退し2連敗したアウェイからもどってきてのホーム岡山戦。これは相当に厳しいゲームになるぞ!と思っていました。

ちなみに、この試合については、めちゃくちゃ重要な試合なのでプレビューを書いておりました。

まあ、簡単に言えば、

岡山は前半に先制点が死ぬほど取れない。しかし、粘って粘って粘り勝つ試合が得意。クリーンシートめっちゃ多い。

清水は前半に先制する試合が多い。しかも、ホームゲームでは先に失点したことがない。

両者のキャラについてはこんなイメージを持っておくと試合がおもろいんじゃないか?という話でした。したがって、岡山が勝ちシナリオに乗せるには「まず絶対に失点しないこと」そして「なるべく長い時間イーブンで進めてどっかで一発仕留める」ここがキモになりそうだと思っていましたが・・・

結論から言えば完敗だったなぁと。特に後半はスコアでもパフォーマンスでも完全なるワンサイドゲームになってしまい、正直5-1とかで負けていてもおかしくなかった。本当ならば岡山のいいところをどんどんピックアップして盛り上げていきたいところなのですが、この試合に限っては清水の岡山対策がすごかった。正直岡山相手にここまでやるのか?という念の入りようで驚きましたよ。

しかし、清水の岡山対策が念入りだった分、岡山のストロング・ウィークも露わになるゲームでもあったのかなと思います。ということで、今回は涙を飲みつつ清水のやり方にフォーカスを当てて試合をふりかえってみたいと思います。


スタメン


3バックもあるのかな?あるといいな?と思っていた清水は4231のフォーメーション。岡山はいつもの3421でした。ただ、一点めちゃくちゃ重い事実だったのが左WB藤井葉大のところ。この大一番、清水アウェイというシチュエーションで高卒ルーキーの起用。正直なところここで彼を積極的に起用する理由は乏しいかなあと思います。経験ある高橋諒や高木友也が使える状態ではないということでもあるのでしょうなあ。

通常であればここは不動のレギュラー末吉塁が務めるはずで、この試合にいないということは体調不良か、ケガか、あるいは・・・・ゴクリ…というところ。現状の岡山の2大ストロングは「右のルカオ、左の末吉」なので岡山は片翼を失った形で臨まないといけない状況でした。


ミドルブロックで構えるのが基本線の清水



まずはこの試合の清水の守備から見ていきましょう。前後半を通じて基本的に清水はミドルブロック(ミドルプレス)を敷いて、岡山を前にして構えるという格好で守備をする時間が多かったです。岡山のバックパスに合わせたり、ゴールキックのときなどでは前プレ(前からのプレス)に出ることもありましたが、とはいえ限定的。あくまでミドルブロックが基本線。

あまり積極的にボールに対してプレッシャーには来ないので、その分岡山の最終ラインにはボールを持つ余裕がある。こうした構図で向き合うことが多かったように思います。

次に清水の前半の攻撃について。まずは基本的な立ち位置について整理しておきましょう。

前半の清水の攻撃について


清水の4バックはSBがあまり高い位置をとりません。ピッチの横幅を大きく使って後ろに4枚控える形。このうち組み立てのキーマンとなるのは左SBの山原。これは前回対戦も同じでしたね。


前の方に目を向けてみると、水色のところ。トップ下の乾ですが彼にはある程度自由に動くことが許されていました。そして、左右のSHは中よりに立って折りたたんでいく。これまた前回対戦時に見られた立ち位置。

もし、山原が前向きでプレーできる状態になってしまうと、前線の選手や乾にパスを通されてしまうので岡山としてはそこはなんとかふさいでおきたいところです。

もし山原のところをふさがれた場合、清水は無理をせずバックパス・横パスを駆使して右サイドへとボールを逃がしていきます。

右SBの原に対しては大体シャドーの岩渕か左WBの藤井がつきますが、その背後にできやすいスペースにロングボールを蹴っていく。そしてそこに前線が走り込む、と。岡山は5バックで構えずに、3バックを維持して前プレに出ているのでどうしても両WBの裏のスペースは空きやすくなります。そこを積極的に使おうという清水の狙いは左右両方で見て取れました。

ということで左は山原が前向きを作り、カルリーニョスや乾が絡む。右はロングボールで裏へフィード、おおむねこのような展開で攻撃をしていたのが清水の前半のプレーぶりだったかなぁと。

4バックが後ろに控える形からみても、清水は相手の前プレに対抗できる人数をそろえる・・・というか、岡山の前プレを誘い込んでひっくり返せるような構え方をしていたように思います。これは前半も、後半もね。

こうした清水に対して岡山は前から行くしかない!のチームなので、当然前プレに行きます。

山原に前向きを作らせたくない岡山


岡山は清水の最終ラインからボランチへのルートを消して、SBへとボールを誘導します。そこで、カギになるのがさっきの左SB山原のところ。山原に前向きを作られるとタテパスを刺されたりしてめんどくさいことになる。

なので、なるべく右シャドーの田中雄大を走らせて山原の自由を奪いたい。ちょっと確認できてないですが、田中雄大が間に合わないときは右WBの柳(貴)が前に出る場合もあったかもしれない。いずれにせよ、山原に前向きを作らせたくない!というのが基本的な考え方だったのかなと思います。

ところが、だ。この状況を複雑にさせていたのは清水のボランチの立ち位置でした。6:17あたりとか、10:00あたりのシーンとかもそうかな。

岡山はCBを割と放置することが多かったので、清水のCBは比較的余裕をもってボールが持てます。その間に立ち位置を移動して、このように2-4のような形になることがあるんですね。これをやられると困るんですよ。

なぜか?というと、このようにボランチに立たれてしまうと本来は山原に行きたい田中雄大が最寄りの宮本を捕まえないといけなくなり、山原を見れる選手がいなくなります。すると山原が解放されて前向きを作られてしまうんですね。ちなみにこんな風に田中雄大にわざとマークさせることで、山原をフリーにするような宮本の動きを「ピン留め」と呼びます。

しかし、山原にフタをしてなおかつ右サイドへのサイドチェンジすらさせない守備ができた場合、さすがの清水であってもセーフティにロングボールを蹴りだす以外なく、岡山が蹴らせてセカンドボールを回収してマイボールにするよい守備のサイクルを回すこともできていました。たとえば、25:50あたりのシーンとか。それが岡山としては理想の奪い方のひとつだったかなぁと。

あとは竹内涼がインターセプトした11:35とかね。あそこも、右サイドで山原-カルリーニョスに制限をかけて限定できていればこそ中でボールをかっさらうことができたよね!というシーンでした。そう、山原とカルリーニョスをしっかり田中・柳(貴)でつかめていればそんなに大きな問題にはならないという前半でした。

では、次に現状の岡山の大きな攻撃の柱である流れるルカオの右サイドアタックについて。

流れるルカオの右!が切り札(ほぼ唯一の)


ルカオという選手は190㎝、90㎏を越える巨体でありながら右サイドに流れてドリブルで仕掛けるのが得意という特徴があります。逆にロングボールを競り合うとかは苦手で半分以上がルカオのファウルになっちゃう。なのでグレイソンの代役を務めるのは難しいタレントです。しかし、右に流れてのWGみたいなプレーはかなり強力で、去年昇格した東京ヴェルデイのDF陣を完璧に叩き伏せていました(ただし、ルカオ絶好調時に限る)。ヴェルディの選手が「ルカオっていつもあんななの??」って岡山の選手に聞いてきたというエピソードが残っているくらい。

デカいうえに、強くて、早いので、右サイドに流れて1on1 で相手をちぎってチャンスメイクするというのがルカオに合わせるサッカーにシフトした岡山のメインウェポンになっています。なので、この試合でも前半開始からガンガン右サイドに蹴り込んでいたわけですよ。

前回対戦と岡山のやり方がだいぶ違うな?もうちょっと細かいことやってきたのにな?と感じたひともいたかもしれません。その理由は大きく2つあるかな?と思っていて、グレイソンの離脱によるFWのメインキャスト交代。そして、鈴木喜丈の離脱による後方での組み立ての不安定化かなと。

4月5月、けが人続出と過密日程によりチームが半壊しつつある中で、やむを得ず路線変更余儀なくされてしまった。主軸が離脱してしまったので、基本的な方針自体が揺らいでしまった。現在はそこからの立て直しの最中なので、それゆえにやれることが少ない、と。厳しい現実です。

しかし、ここは悔しいが清水を褒めねばならない。解説の太田宏介さんにも「ルカオを走らせるだけになっちゃってますけども」と言われてしまっていたのには理由があります。この試合に至るまでルカオを右に流れさせる攻撃は十分に機能していた。だからこそ、この試合でもやろうとしたわけで。しかし、それがことごとくうまくいかなかった。それくらい清水の岡山対策はしっかりしていたなと。


清水の流れるルカオの右!対策


岡山の最終ラインはボールを持てるので、そこから右サイドへとフィードしてルカオを走らせる機会は多かった。ところが、清水側もやり口が完全にわかっているのでCB高木も迷わずスペースに走ってボールを抑えにいけます。もう「はいはい。知ってますよ!」と言わんばかりに。さらに良いのは山原の立ち位置だったなと。この図のように、ルカオと柳(貴)の間くらいのポジションを取って、柳(貴)ボールが出たら遅れて防げる位置をキープする。なおかつ、


右サイドにロングフィードが出るとなると戻って高木のフォローに入れるようにしていたんじゃないかなと思います。これは正直めちゃくちゃ嫌でした。

高木の反応がいかに鋭かろうともパーフェクトに抑えることは難しい。ましてや、ルカオ優位な持ち方をされると高木でも抑えるのは難しいです。その証拠に、37:15あたりのシーンのように1on1から弾き飛ばされてルカオにタテに抜け出されています。もっとこういうシーンを作りたかった。しかし、そこには山原が援護にいた・・

山原が戻るとルカオが局所的に1対2になってしまうし、プレーできるスペースが狭くなるんですよね。ルカオはゴリゴリと体をぶつけて競りながらねじ伏せていくドリブルが得意なので、なるべく広いスペースで高木と1on1をやらせたらかなりおもしろいことができただろうに!と。リアルタイムで見ていて「狭いんだよな」と何度も思ってました。

高木のフォローを考えつつ、対面の柳(貴)にパスが出たら詰めていくと、左SB山原の攻守にわたるキーマンっぷりがすごいな!という試合でもあったかなと思います。ちなみに、実際の試合では14:33あたり、23:34あたりで確認できると思います。


とはいえ、岡山もだまって指をくわえていたわけじゃないんだぜ!というシーンを紹介しておきましょう。29:21のシーン。

ルカオを解き放つための岡山の工夫


右サイドの深い位置、阿部からタテパスが出て右WBの柳(貴)がボールを受けます。このとき後ろ向きでボールを受けそうだ、ということで山原が距離をつめてプレッシャーに出ます。


柳(貴)はサイドに張りだしてきた藤田息吹(最高だぜ!)にボールを落とす。そうすると山原が食いついた背後には大きなスペースができています。・・・あとはわかるな?そこはルカオの大好物。もう邪魔な山原はいない。存分に高木とデュエルしてねじ伏せい!というシーンです。そして、当然藤田息吹からスルーパスが出る!

ところが!「いや、走ってないんかーい!」って感じで、せっかく素晴らしい作りでスルーパスを出してデュエルに持ち込めそうだったのにルカオが感じてないという・・・。思わず「おいおい!」って笑ってしまったじゃないか。もったいない。

まあ、岡山とて無策ではなかった。ただルカオがぼーっとしてたのでチャンスにはなりませんでしたが、このように山原をはがしてサイドの奥を取る。これを丹念にやって先制したかったよなぁというところでしたねえ。前半に岡山は右コーナーから2つ決定機作ってましたからね。ルカオで押しきられるのも、しぶしぶコーナーにしてしまうのも清水は相当嫌だったはずです。なので、まあ、そこはちょっと残念。メインウェポンだからね。


痛すぎた先制点、バタつかない岡山


そんな前半に先制したのは清水。18分にかなり角度のないところからカルリーニョスのえげつないミドルが突き刺さって清水が先制します。「そこから打つか?」と誰もが思った意外性のあるゴールでしたね。個・・・・

シュートがすごかったのは十分に認めるところですが、ブローダーセンの真正面だったしこれはどうにかならんかったのか?というシーンでもありました。反応もしていたし、うーん。GKやったことないのでわかりませんが、こういうゲームでそういう失点。うーん・・・・。この日のダーセンは正直かなり低調だったなあと。キックミスも続出していましたし、この失点が心理的に尾を引いたのかな。本人もかなり責任を感じていたようですけども。

絶対にやってはならない失点を前半に与えてしまう。相当に厳しいシナリオにしてしまった岡山でしたが、このチームらしいなと思うのがその後のプレーです。失点した心理的ダメージもあったでしょうが、バタつくことなく得点を取るべくプレーできる。そこがこれまでの岡山とだいぶ違うなと思います。たくましい。このチームはほんとにそこのメンタルの安定度が高い。

24:22のシーンは決定機でした。この流れも発端はさっきの右サイドにサイドチェンジさせてロングボールを右SB原が蹴るやつでした。それを回収して左サイドを押し込んで竹内のクロスに田中雄大が合わせた形。

このシーンはいろいろとおもしろいシーンで、まずボールが行ったり来たりする展開で清水の守備陣形が崩れていたこと。清水の守備のキモはやっぱり陣形が保てるかどうか?なのかなあと思います。

そして、とれないはずの左サイドの奥を岡山が取れたこと。岡山の左WBは藤井なので正直攻撃性能は高くない。クロスやドリブルにも過度な期待はできません。ここに末吉がいれば、左サイドの奥へドリブルで仕掛ける、クロスを上げるとかなり脅威を与えることができます。あとは、上がってくる鈴木喜丈に自由も与えられる。すると鈴木からスルーパスも出る。あそこでポイントが作れるので味方も絡める。

この場面ではそこにボランチの位置から飛び出して行った竹内がクロスを上げたということで、思わず「おっ!」と声が出たシーンでした。

この後のコーナーからの決定機2つ。決めたかったですね。しかし、失点後の振る舞いとしては気落ちせずしっかりと得点を狙うこのチームの腰の強さを感じさせてくれたなと思います。

幸先よく先制した清水ですが、リードを奪ったときの清水の守備について見ておきます。

リードしたときの清水の振る舞い


やはりミドルブロックを引いて岡山を迎え撃つ清水ですが、442でコンパクトな陣形を保ち、リードした後はやや守備位置を低めにすることが多かったかなと思います。前プレに出ない分、乾・北川も中盤のラインと離れずに守ることができるので、コンパクトさを損なうことは少なかった。清水にとってはこれは大事なことだったかもしれません。でも、逆に前プレいくとどうなるの?という問題は残るけど。


リードしている清水は岡山のボールを狩りつつカウンターに入って追加点を狙いたい。もし、このように岡山のパスをインターセプトしたり、セカンドボールを回収したりした場合どうなるか?

陣形が整った状態で岡山のボールを狩れるということは、マイボールになったとき味方がどこにいるのか?がわかりやすいということでもあります。とくに清水には北川・乾・カルリーニョス・松崎と、単独でも相当に運べてしまうタレントがいます。

なおかつ、岡山は攻撃に人を割いているので守備が手薄になりますし、戻りながらの守備になってしまう。不利な条件がどんどん重なってしまうわけですね。こうならないようにするためにも、岡山はリードしなければならなかった。清水に楽をさせてはいけなかった。残念ながら、前後半通じて清水が奪ってカウンターに入る機会がすごく多いゲームになってしまいました。35:10あたり、36:10あたりは立て続けにそういったシーンが現れており、清水に追加点のニオイが漂っていたように思います。

ところが、このままではマズいな・・・と思っていた前半の終わりごろ、岡山に今季最高クオリティのゴールが生まれる。

今季最高の形だった岡山の同点ゴール


岡山が右サイド深い位置に清水を押し込んだシーン。清水の方はそれに対応するべくしっかりと人が戻っています。DF・MF・FWの3つのラインを結んでみるとこんな感じになっており、岡山が右サイドの奥を取るそぶりを見せたのでそれに対応してやや配置が崩れている格好になっていました。


田中→藤田→田中とリターンをもらうことで、FW北川を動かすことができ田中雄大はインサイドへとドリブルで入っていく。ちょうど、清水のブロックの正面に出る格好。このとき田中雄大を邪魔できる選手はもういないので、顔を上げて状況を確認する時間が瞬間的に生まれる。


田中雄大からスルーパスが出る。岩渕は高木の背中を取って抜け出し、見事同点ゴール!一見するとなんてことないシーンに見えますが、田中雄大の左足からスルーパスが出てくるとは予想していなかったかもしれない。ふだん田中雄大には割と厳しめな見方をしてしまうんですが、このパスには脱帽ですよ。こういうの。こういうのだよ彼に求めたい事は。

岩渕の抜け出すタイミングも、待ち合わせるポイントも完璧でした。今季ここまでで最高にクオリティの高いゴールだったと思います。まさかこういうのがこの試合で出るとは!

岡山はなるべくイーブンでゲームをすすめたほうが勝利に近づく。ところが、カルリーニョスのえげつない個の力でこじ開けられてしまった。しかし、最高のゴールで前半を1-1で終えることができました。時間帯も42分ですからね。いちばんいい時間帯に取り返すことができた。なるべくイーブンでゲームを進めたい岡山としては願ってもないシナリオになったなあと。

もし、前半だけをとるならば岡山のゲームといってもいいかもしれません。スタッツ的にも決定機の数的にも岡山が上回っており、ひけをとりません。意外と清水は決定機は多くなかった。

清水:シュート6 枠内4
岡山:シュート7 枠内4

清水は入念に岡山対策を施していて、正直あんまり気持ちよく攻めることはできない前半でした。とはいえ、イーブンなら全く問題なし。後半に入って試合が進めば焦ってくるのはむしろ清水の方です。清水だって「この岡山戦は絶対に勝たなければ」と思っている。岡山としては勝点を人質にして、心理的な焦りを煽りたい。そうすれば後半どこかでワンチャンあるかもしれない。そんなことを思っていたんですが・・・


後半に大きく変化した清水の攻撃


この後半の絶望感というか、途方もなさというか。追いかける背中がどんどん遠ざかっていくようなあの感じ、「完敗」の2文字を深く刻み付けられるような。そういう後半になってしまったなぁと。

ゲームは完全に清水サイドに傾き、後半は一方的な展開になってしまいました。改めて見直してみても、

後半60分からは見るからにしんどい状況になっており、これは大敗するかもしれない。そういう予感を覚えながら見るしかなかった。

では、なぜそのようになったのか?というと原因は明らかで、清水が前後半でスタイルをガラリと入れ替えてきたからです。この清水の前後半の対比、すごくはっきりしていておもしろかった。

典型的なのが清水の2点目のゴールにつながったCKを取るまでの流れ。時間としては46:50あたりからのシーン。これを題材にどう違うのか?をチェックしてみましょう。

最終ラインを左右に広く立たせ、権田も使いながらボールを動かす。ここはかわりません。ところが明らかに変化を感じさせるのが両SBの振る舞いです。

前半は山原が詰まったら右に動かしてサイドチェンジ!が基本的な流れでした。ところが、後半に入ると明らかにボールポゼッションしたい意思を見せ始めるんですよね。しっかりボール持って、タテパスのコースを探すんですよ。これは前半には見せてこなかった対応です。

また、逆サイドの右SBの原も同様で、対面の左WB藤井をいなしてタテへの展開を自力で作るアクションをしきりに見せるようになります。前半は右サイドからロングボール蹴ってましたからね、違いが明らかだなあと。

両SBともにそこを起点にショートパス、ドリブルを使ってボールを運んでいこうという姿勢に大きくスタンスを変えてきたわけですね。

サッカーのスペースは選手と選手のスキマ、選手とラインのスキマにできるものなので、前プレに出るとコートのいたるところにスペースが生まれます。清水が権田を含めた最終ラインで岡山の前プレをはがすことができれば、前はもうスカスカなんですね。したがって、岡山の前プレが清水の組み立てをどれだけ阻害できるか?逆に清水はそれに対抗してどれだけ運べるか?後半はそのせめぎあいをショートパス・ドリブルを含めた展開でよりテクニカルに進める方針に清水はモードチェンジしたわけです。46:50のシーンを見てみます。

最終ラインに落ちてきた宮本が岡山の前線を前にして前向きを作ります。前向きを作れた、ということは?=そこからパスが出せる、ドリブルできるスタンバイが整ったということなので、ここから剥がしの作業に入っていきます。


宮本が前を向いたので、今度は松崎が落ちてきてボールを引き出す。そしてそのパスを落として、今度は中村が前向きを作ります。このパス2本で、岡山の前線3枚のプレッシャーの第一波を乗り越えていることがわかりますよね。しかも、中村が前向きを作ったということは?そこからパスが出るということですから、


今度は北川が落ちてきてやはりフリック一発でボールの軌道を変え、松崎の前に落とす。それを受けた松崎がドリブルで前進していく。この一連の流れで、岡山のプレッシャーの第2波竹内・藤田のラインを乗り越えられてしまいました。


そうした結果、清水の前線4枚vs岡山のCB2枚の数的不利をつくられてしまったと。こういう状況も1度や2度ならまだ許容範囲かなと、しかし後半はこういうシーンが続出してしまったので「これは大敗するかもしれない」と思いましたね・・・。

52:50あたりのシーンは、山原からインサイドのボランチを経由して右にサイドチェンジという形で運ばれてしまってます。54:00のシーンなんかは一見ハマってそうなんですけど、もう原が余裕なんですよね。藤井の股を抜いてタテパスを通し、また松崎が落としてボランチの宮本が右サイドをぶっちぎる、と。もうさすがに図は描きませんが、「防ぐ」が不全になってしまう。

時間を戻して、松崎が抜け出し4vs2の大ピンチを迎えましたがそこはなんとかセーブすることができました。ところが、その後のCKからの流れで再びカルリーニョスにゴールを決められ2-1と再度リードを奪われてしまう。絶対にやってはいけないリードをやってしまった。しかも最初の攻撃で。これはほんとにほんとに重かったです。

木山監督
「後半勝負をっていうところで、やっぱり立ち上がりの早い時間にセットプレーで1つ取られたのは、勝負としては正直痛かったなと。」

Jリーグ公式

リアルタイムで見ているときも思いましたが、このカルリーニョスの2点目はゲームを決めるゴールになってしまいました。せっかく素晴らしいゴールでおいついただけに落胆度合いが大きかったなあ・・・。

あ、そうそう前後半で相手のやり方がガラッと変わると何が困るのか?の話もしておきたい。後半で相手が大きく変化を見せてくると、もうハーフタイムが終わってるのでみんなで「じゃあ、こう対抗しよう!」とすり合わせることができないんですよね。あくまで、監督からの指示とか自分たちでなんとかするとかそういう修正にとどまる。相手の変化に対応するのってすごく難しいんですよ。なので、その対応の定まらなさみたいなところが隙になってしまうというわけです。

なので、清水側にもそういう状況を押し付けたいという狙いはあっただろうと思います。むしろ、岡山相手にそこまで念入りにやってくるのか!というのは驚きで、いかにこの試合を落とせないと考えていたのか?清水の追い込まれ感というのも感じる戦いぶりだったかなと思います。


どんどんと勝ち目がなくなっていく苦しい後半


後半の清水はボールを動かして岡山をおびき寄せ急襲します。いわゆる疑似カウンターっぽい形で攻撃していくわけですね。これに対抗するには清水が「とてもつなげない!」となるくらいに洗練されたプレスをかける必要があります。

清水の選手の立ち位置が変わっても読みとって対応し、ボールが入ったら厳しく寄せて奪う、奪えないでもパスを出せない。それを連続してやっていく必要がある。ところがそれができない。プレスが効いていない。そうなると清水からボールを取り上げてこちらがカウンターに入る機会が作れない。

一方の清水はもうリードは奪ったので無理に得点を取りに行く必要はない。前半のリード時と同じように、しっかりとブロックを作って構える。

岡山は前に出ていかないと点が取れませんから、必然的に背後にスペースができる。前半と同じですね。奪ったらカウンターにはいればまたビッグチャンスが作れると。絶対にやらせたくない態勢になってしまった。残念だ。

木山監督
「最終的に1-3っていうスコアで敗れる大きな原因なのは、1-2のときに自分たちがしっかり攻撃のパワーを使って相手ゴールを脅かすことができたら、試合はもう少し競った形になったと思うんですけども、なかなかパワーを出せなかった。それがいまの自分たちの力なのかなという気がするので、そこは伸ばしていかなきゃいけないかなと思います。」

Jリーグ公式

清水のブロックを前にしてはたして岡山は何ができるのか?が問われることが多いゲームだったかなあと思います。残念ながら後半はめぼしい攻撃シーンは少なく、得点の可能性の高い決定機は作れませんでした。

また選手が交代していくとどんどんチームのパフォーマンスも落ちていきますし、ちょっと追いかけようにもどうにもできないな・・・と。苦しい。前線が疲れると岡山も前プレを継続できなくなります。すると、清水が安全に岡山コートに入りやすくなり、またボールを取り上げるのが大変になる。すべてのサイクルがビハインドになったことでマイナスに作用するような。そんな疲労感の高い後半でしたなあ。

現状認識と、諦めないこと


ということで、清水戦は3-1という結果になりました。妥当な結果と言わざるを得ないかなあ。清水のこの試合にかける本気度はすごいもんがあった。まさか、前後半で変化して岡山を揺さぶることまでやってくるとは。

めちゃくちゃ痛い敗戦ではありましたが、岡山としては現状できることはやろうとしていたんじゃないかなと思いますし、特に不満はないです。万全の対策をされ、清水には敗れましたがこのサッカーでPO圏内を保っているわけですから。

しかし、この試合に敗れたことで上位3チームとの勝点差が9に開きました。のこりが16試合ありますけども、上位は1試合平均勝点2.1くらいのペースで走ってるんですよね。仮に彼らがそのペースをキープしたとすると、岡山がそこを上回って2位以内に入るには14勝2分0敗とかの戦績が必要になります。残念ながら現実的な数字ではない。

今季、過去最大の補強をして「頂」を再び目指すべくスタートして、夏に入る時点で自動昇格の可能性がほとんど消えるのは非常にせつないものがあります。岡山にとってJ1に行くというのはとても大きな事業です。けが人が大量に出たこと。首位から転落しずっと足踏みが続いたこと。成長曲線がスケールダウンし、できることが多くないこと。いろんなことが狂ってしまった。

しかし、まだ何も終わってません。まだ16試合あるので現チームがもっといいチームになるための時間は残されています。「諦めない」というと無理にポジティブさを出していくイメージもありますが、個人的にはネガティブな現実を受け入れつつ「では、次にいいベストはなんだろう?」と、次善を探していくことなのかなと思っています。

岡山はまだPO圏内にいますし、これからきっと補強もある。自動昇格にはとどかないかもしれないですが、今年このメンバーでもっと強いチームになれる可能性がある。まだ、このチームの本領ぜんぜんみせてもらってないよ。もっと「強いなこのチームは!」って思わせてほしい。

POから昇格を望む進路を得たなら、きっと最終的な壁として長崎か、横浜FCか、清水とやることになるでしょう。そのときまでに「いまの岡山はヤバイぞ」ってなることを期待しておきたいなと思います。

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